表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
136/148

131

「カタナ」


 『何故ここにこいつが』という考えの後に浮かんできたのは、こいつに対する憎しみだった。こいつは目の前でリンを刺殺したのだ。

 そして、ここにやってきていたのはカタナだけでは無かった。


「よォ」

「…………」


 けだまくと手斧が立っていた。

 カタナと手斧と一緒にいると言う事はけだまくも仲間という事だろう。

 忘れもしない。けだまくはPKギルド《目目目ブラッディアイ》のメンバーだ。カタナと手斧は《目目目》に所属していたPKプレイヤーだったのだろう。リュウを殺した奴の仲間が、よくものうのうと俺の友人顔をしていられたものだ。

 カタナは俺の憎悪の篭った視線に気付いたのか、笑みを薄くした。それから「それは後回しにしようよ」と言いたげに、顎を戦人針の方へ向ける。


「朝倉ァ!」


 余裕の表情を消し、焦燥の表情を浮かべた戦人針がポニーテールの女の名前を叫んだ。朝倉と呼ばれた女は自分の名前が言い終わるよりも早く指を動かし宙を叩いた。


「チィ」


 舌打ちをし、けだまくが朝倉に斬り掛かる。距離を一瞬で詰め、間髪入れずに朝倉の首をナイフで掻き切った。


「かっ」


 朝倉が息を吐き出し、後ろに倒れ込む。苦しげな表情だったが、口元には笑みが浮かべられている。

 俺達を囲んでいる壁の中に、突如として何体もの黒い鎧が出現した。朝倉は操作してあの鎧を生み出したらしい。

 けだまくは忌々しげに朝倉を睨むと、地面に倒れている彼女に向かって剣を振り下ろす。その刃が彼女に突き刺さるよりも早く、彼女の身体は光の粒となって消滅した。空振りしたまるで剣が地面に突き刺さる。

 彼女の消え方はHPが0になった時の様だ。まだHPは残っていた筈だが。


「チッ、逃げられたか」


 つまらなそうにけだまくが呟く。

 

「さてと、じゃあアカツキ君」


 朝倉が消えたことを見届けたカタナは、ニッコリと笑って俺の方を向いた。


「僕達があの鎧の相手をするから、君はラスボスと戦っておいで」

「何故、俺を助ける。一体何がしたいんだ」

「『友達』を助けるのは当然だろ? それに、僕だってそろそろこの世界から出たいしね」


 俺が言い返すよりも早く、カタナは俺に背を向け、鎧に向かって走っていた。カタナの動きに呼応するかのように、今まで動きを止めていた鎧達が一斉に動き出す。カタナ達は鎧達を斬り付けてヘイトを自分に向けさせ、全ての鎧達を引き離していく。

 

「何がラスボスで、何が友達だよ」


 気持ちわりぃ。


―――――――――――――――


「あの時に殺しておくべきだった。クソ」


 無数の鎧を蹂躙していくカタナ達を血走らせた目で睨み付ける戦人針に向け、大太刀の切っ先を向ける。俺に気付いた戦人針は焦りと怒りの混ざり合った表情のまま大剣を構える。

 戦人針のHPは少し見なかった内に黄色にまで回復していた。恐らく《自然治癒》のスキルか、それに類する物を使用しているのだろう。


 二つの視線が交差し、その場に一瞬の沈黙が訪れる。

 そして次の瞬間、その沈黙を吹き飛ばすかのように俺達は同時に動き出した。


「終わらせるッ!」

「私は負ける訳にはいかないんだ!」


 その叫びと共に二本の刃が交差した。そしてそこから怒涛の勢いでお互いに剣を振り、ぶつけ合っていく。

 戦人針の動きは先程までの比ではない。カタナが手に入れていたという稀少スキル《アクセル》の様な、加速系のスキルを使っているのだろう。しかし戦人針の動きの精度が上がったのはそれだけではないだろう。

 恐ろしいまでの執念が、戦人針の動きを高めている。

 地の底から見つめているような、暗くそれでいて光り輝く目が俺の動きを見逃さない。絡みつくような執念が、刃を通して伝わってくる様で、ほんの一瞬だけ恐怖心が芽生えた。それを打ち破る様にして、リュウやリン、栞やドルーア、ガロンやらーさん達の顔が浮かんでくる。

 皆を救えるのは俺だけしかいないんだ。


 剣戟の最中、戦人針の動きの合間を縫って、一太刀浴びせる。しかしそれと同時に戦人針も俺の身体に大剣を叩き込んだ。

 斬られた部分が燃えるような痛みを発し、身体がグラつく。

 俺は足に力を入れて踏みとどまると、身体を右に捻って大太刀を前に突き出す。戦人針の喉仏を狙った突き。

 しかし刃が喉の肉を貫くよりも早く、戦人針の大剣がそれを撃ち落とした。火花が散る。

 戦人針は大剣を振った勢いを利用してそのまま後ろに下がると、片手を何もない空間に伸ばし、キーボードを打つかのように指を動かし始めた。

 

「させるか!」


 何をするかは分からなかったが、何らかの権限を使うのだろう。俺は即座に戦人針の方へ向かう。


「朝倉君はよくやってくれた」


 俺が間合いに入った瞬間、戦人針が小さくそう呟いた。

 俺が剣を振るのと同時に、上から叩き付けるようにして戦人針が大剣を振り下ろす。刃と刃がぶつかり合う。


「ッ!?」


 ぶつかった刃の衝撃が、大太刀を通じて腕に伝わってくる。今までの威力とはまるで違う、芯から痺れるような威力だった。

 嫌な予感がし、大太刀を離して後ろに跳ぶ。

 戦人針は俺の動きを見てから地面を蹴って跳んだ。間合いをほぼ一瞬で詰められる。戦人針が大剣を横薙ぎに振る。慌てて地面に屈んでそれを躱す。

 大剣の威力といい、この速度といい、さっきまでの戦人針じゃない。一体何をしたんだ。

 頭上を大剣が通過していくのを確認し、体勢を低くしたまま戦人針から離れ、体勢を立て直す。


「何をしやがった、と言いたげな顔だ」


 振り切った大剣を再び構え直している戦人針は、俺の方を向いて幾分余裕を取り戻した笑みを浮かべた。


「簡単に言うと、朝倉君が回復させた権限で私のレベルを100まで上げ、腕力、耐久、敏捷性などのステータスを大幅に上昇しただけだよ」


 戦人針はさらりとそう告げると、再び間合いを詰めてきた。それもさっきよりもかなり速い。《アクセル》を使ったのか。

 まるでいつかのホーンラビット亜種の光の突進の様な速度だ。戦人針の大剣が上段から振り下ろされるのを何とか確認する。それを俺は受け止めるのではなく、大太刀の刃で《受け流し》た。上から伝わってくる衝撃を体捌きや足捌きで分散させる。

 大剣を振り下ろした戦人針に向けて一閃。刃が鎧を掠る。耐久が上がっているからかHPは殆ど減らない。

 そこから戦人針は《加速》したまま大剣を連続で振った。恐ろしく速く、それでいて重い攻撃。それらを受け流し、ずらし、弾く。まともに受け止めるのではなく、柔らかく対応。

 連続攻撃といっても、必ずどこかに隙がある。その一瞬の隙を狙って攻撃をねじ込む。一閃、ニ閃、三閃、一度の攻撃では大きなダメージを与えられなくても、何度も攻撃を蓄積していけばそれは大きなダメージになっていく。


「っ!」


 隙にねじ込んだ攻撃を受け、戦人針は目を剥いて乱暴に大剣を振り回すと、《ステップ》で俺から間合いを取った。


「なんで対応できるんだ、と言いたげな顔だな」


 息を切らしている戦人針に向け、俺はさっきの戦人針が言った台詞を意趣返しに使う。戦人針が苛立ちを顔に浮かべた。


「昔、低レベルで高レベルのモンスターと戦わないといけない状況に陥ってな。受け流したりいなしたり、そういうのは得意なんだ」


 戦人針の攻撃なんて、あのホーンラビット亜種の急に来る突進や、ブラッディベアの攻撃に比べたら、なんてことはない。


「お前の動きはもう見切った。そろそろ終わりにしよう、戦人針」

「まだ、まだ終わってない! 私が神だぞ!」


 そう叫んだ戦人針の身体が、青い光を放ち始める。

 何だこれは。何かのスキルか、称号なのか。見たことが無かった。


「これは未実装のスキルの一つでね。《ランペイジ》というスキルだ。一定時間の間だけ腕力、敏捷性を極限にまで上昇させる事が出来る。その分耐久は地まで落ちるし、効果時間が切れれば腕力も敏捷性も元の値の半分になってしまう」


 戦人針がそのスキルについて説明し終わるよりも速く、俺は動いていた。黒銀の光を大太刀に纏い、地面を蹴って走りだす。残りのスタミナを全て消費し、俺はそのスキルを発動させた。


「効果時間はあまり長くない。決着を付けさせて貰おう」


 走る俺に向かって、戦人針は大剣を向け自身も走りだす。いや、走るというよりは、跳ぶという感じだった。地面を蹴りつけ、その勢いで一気に俺にまで迫る。


「終わりだァ!」


 獰猛な感情を剥き出しにして、戦人針が刃を振る。


「《オーバーレイバースト》ォォォォ!!」


 発動したスキルの名前を叫び、俺も刃を振る。

 黒銀の刃と青の刃がぶつかり合い、目の眩むような閃光を周囲に撒き散らす。まるで小さな爆発が起こった様な衝撃が巻き起こる。

 爆発が連続する。身体が吹き飛びそうな衝撃、腕が引きちぎれそうな反動が襲ってくる。

 《オーバーレイバースト》は俺の持つスキルの中で最も威力が高く、最も消費するスタミナが多い。このスキルは一定時間の間、光を纏って自由に攻撃する事が出来るスキルだ。その一定時間の中で、俺が大太刀を振る事が出来る回数はだいたい二十回前後。その間に全てを終わらせる。


 間髪入れずに刃が交差し、一撃ごとにHPが削られていく。《オーバーレイバースト》でも、威力では戦人針に届かない。速度でもぎりぎり負けている。

 

「!?」


 大太刀が大剣を掬い上げる様にして弾く。大剣の軌道がズレて、動きが僅かに遅くなった。

 悪いが、お前の癖はもう分かってるんだよ。



「終わりだァァァァァァァァ、戦人針ィィィィィッッ!!!!」


 大剣の横を通りぬけ、大太刀が戦人針に届いた。

 黒銀が戦人針の身体を吹き飛ばす。

 残りの時間を全て消費し、戦人針の身体に大太刀を叩き込んだ。

 攻撃が叩きこまれ、戦人針は手から大剣を離す。大剣はくるくると宙を舞い、大きな音を立てて地面に落下した。

 鎧を斬り裂き、肉を斬り裂く。


「がァァァアアアアッッ!!」


 それでも戦人針は諦めず、素手で殴り掛かってきた。

 向かってきた握りこぶし。腕ごと斬り落とす。

 そして、最後の一撃を叩き込んだ。


 周囲一面を黒銀の光が舞う。

 幻想的な風景だった。


 その中で、吹き飛ばされ、HPを0にした戦人針の身体が光の粒となって消滅していく。



「莉緒奈……」


 最後に戦人針が誰の名前をつぶやいたのかは、分からなかった。





 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ