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場面がコロコロ切り替わるのを書くのは苦手だと知った…
白衣をはためかせながら、男は黒い大剣に赤い光を纏わせ、アカツキに向かって振り下ろす。振り下ろされた剣先から、まるでモンスターのブレス攻撃のような赤い光が直線上に放たれた。それは先程、目の前を通るプレイヤー達を一撃で屠った物と同じだ。
アカツキは周囲の仲間に「攻撃に当たるな!」と注意しながら、《ステップ》で光の直線から僅かに右に避ける。誰にも当たらなかった光はそのままエリアの端まで進んでいき、やがて消滅した。
アカツキはスキルを発動して動きを止めた男に向かって走る。その余りの速さに男は目を向き、慌ててスキルを発動した。今使ったスキルと同じ物だ。
大剣から光が放たれるよりも早く、アカツキは男の懐にまで潜り込んでいた。男の目からはアカツキの腕が一瞬ブレた様にしか見えなかった。次の瞬間には大剣を通じて鈍い衝撃が腕に走る。本来、自分達運営の人間には表示されないHPバーが僅かに減少するのを見て、男は舌打ちした。
スキルのモーション中に攻撃を受けたせいで、男の身体が硬直する。そこへアカツキは連続して攻撃を叩きこんでいく。硬直状態が解けた時には既に三撃も攻撃を喰らっており、男は悲鳴を上げて《ステップ》で後ろに飛び退こうとしたが、その僅かなモーション中に攻撃を受け、再び硬直してしまう。
そこへ閃光のような速度で刃が連続し、男の身体を斬り裂いていく。
他のプレイヤーが戦いに加勢しようとするのをアカツキは片手で制しながら、攻撃の腕は止めない。
(な、なんなんだこいつは……なんなんだよぉ!)
嵐のような連撃をその身に受けながら、男は目の前の男に恐怖を抱き始める。
男が使用していたのは浦部が遊びで作ったバランスブレイカーなスキル《デスレイ》だ。命中した相手を即死させるというスキルは当然実装されなかったが、一応はプレイヤースキルとして登録してあった。運営の権限が何者かに制限された今でも、この《デスレイ》のスキルは使用する事が出来た。これがあればプレイヤーの鎮圧など容易い。そう思っていた。
(それが、ど、どうして)
アカツキの腕が煙のようにぼやけてハッキリと見えない。ただ青い光が見えた瞬間には身体のどこかが斬り裂かれている。その痛みと恐怖に男は《デスレイ》を使おうとするが、その度にアカツキの攻撃が入る。男は使用出来る様々なスキルを発動しようとするが、どうしてもアカツキの剣の方が速いのだ。
「はは」
アカツキが笑いを漏らしたのを見て、男はぎょっとする。狂気すら感じさせるような気迫を纏った男は、限りなく冷め切った、それでいてゾッとするような笑みを浮かべていた。
「そりゃあ、そうだよな。よく考えりゃあ、当然のことだ」
アカツキの太刀がスキルの発動を表す光を発した。男に分かったのはただそれだけで、反応しようとした時には視界がクルクルと回転していた。
そして暗転した。
――――――――――――――――――
同時刻。
プレイヤーの進行を止めるために姿を現した研究員の一人、山口は予想外の事態に焦りを感じ始めていた。
即死スキルである《デスレイ》を不意打ちで放った所までは良かった。だがその後、自分の前に現れた黒髪の少女の強さは予想の範疇を越えていた。
少女は他のプレイヤーを抑え、たった一人で自分に挑んできた。彼女の無謀さをせせら笑いながら、山口は双剣を構えて《デスレイ》を使用する。
《デスレイ》は使用する武器によって攻撃範囲やモーションに掛かる時間が変わってくる。浦部が遊びで作ったスキルだが、意外と凝っている。
双剣による《デスレイ》は範囲が狭い代わりに、二本の剣から同時攻撃が可能になっている。即死の光を二本同時に放つ事が出来るのだ。山口は自分の勝利を疑わなかった。
しかし。
迫り来る少女は山口が放つ《デスレイ》を全て躱してみせた。黒髪を靡かせながら、二本の《デスレイ》を危なげなく躱していく。
山口は後ろに後退りながら《デスレイ》を放つ。しかし赤い光は彼女を貫く事は無かった。
「あ」
《デスレイ》を放ち終わった山口の目の前に少女が居た。
光を纏ったバスタードソードの刃が見えたかと思うと、次の瞬間には山口のHPは0になっていた。
「弱い」
――――――――――――――――――
プレイヤー達の前に現れた運営の研究員達は《デスレイ》を使用しながらも、瞬く間にプレイヤー達に屠られていく。
それはある意味当然と言えた。
アカツキは自分が首を斬り落とした男が消滅していくのを見ながら、冷笑を浮かべる。
アカツキが最後に使用したスキルは《ブリンク》という単発スキルだ。それなりの威力はあるが、アカツキの使用するスキルの中ではモーションが長い部類に入る。《ブリンク》程度の速度ならば、栞やカタナは当然、らーさんやガロンにだって対応出来るだろう。それどころかカウンターを入れてくるかも知れない。
それに対して、あの男は全く反応する事が出来なかった。
つまりはそう言う事だ。
「俺達を安全な所で眺めてただけの連中が、命を掛けて戦ってきた俺達に着いてこれる訳がねえよな」
――――――――――――――――――
「…………」
玖龍の前に立ち塞がった男はバスタードソードから《デスレイ》を連発する。玖龍は仲間に下がらせると、そのスキルの動きを冷静に見極めた。そしてそれらに触れること無く躱し、男の動きを見極めていく。
「死になさぁあああい!!」
振り下ろされたバスタードソードから、直線上に赤い光が走る。しかしその先に玖龍の姿はない。《デスレイ》の範囲から僅かに左側。そこで玖龍は大剣を大きく振りかぶっていた。
「なぁ」
太い刃に緑色の光が集まっていくのを見て、男は目を剥く。
攻撃を回避しようと頭の中で次の行動を考えるが、適切なスキルが浮かんでこない。
「あんま プレイヤーを舐めんじゃねえよ」
地を揺らす緑色の衝撃が駆け抜ける。男は何をすることも出来ないままそれに飲み込まれ、消滅していった。
――――――――――――――――――
「うあああああああああああ!!!!」
上半身と下半身が分断され、無残に地面に転がっているカタナに、今まで俯いていた手斧が叫び声を上げながら駆け寄る。アイテムボックスから回復薬を取り出している。カタナに使用するつもりだろう。
殺したと思ったんだがな。どうやらHPが1だけ残るような防具か、アイテムか、スキルか称号か、まあそういう物をカタナは持っていたようだな。
戦人針は自分の中で納得すると、大剣を持ち上げた。当然、カタナを見逃すつもりはない。次の一撃で、あの少女諸共息の根を止めるとしよう。
あの少女は好みなんだが、と呟きながら、戦人針はブレオン内でも屈指の威力を誇る《アースシェイカー》を選択し、使用する。溜めに時間が掛かるが、まあ彼らの様子では避けられないだろう。
そう思っていた彼の脇腹に、強烈な衝撃が走る。かはっと仮想の肺から息を吐き出しながら、戦人針の身体は大きく吹っ飛んだ。壁に激突して意識が一瞬飛びかける。
点滅する視界の中で戦人針は片手剣を手に、殺意を剥き出しにして突っ込んでくるけだまくの姿を捉えた。今しがたの衝撃は彼による物だろう。しかし、攻撃されるまで全く気付かなかったぞ。あ、身体が動かない。HPの残量も残り少ないし、もしかして死んだかな。
自分の現状をどこか他人ごとの様に捉えながら、迫る片手剣を戦人針はぼんやりと眺める。
それが彼に突き刺さるよりも早く、間に黒い鎧が割り込んだ。
仲間が送ってきた伽藍堂の騎士、ガーディアンだろう。
ガーディアンは上段から剣を振り下ろしてけだまくを攻撃するが、彼はそれを紙一重で回避し、胴体を斬り付ける。しかしこのガーディアンの耐久値は非常に高い。レベルをそこまで上げていなかったけだまくではスキルを使用しないことには殆どダメージを与えることは出来ない。まして、ガーディアンには急所は存在しない。
けだまくは自分の不利に気付いたのか、ガーディアンから距離を取る。ガーディアンは追い打ちを掛けるような真似をせず、戦人針を庇うような位置で止まる。
「……おや。とどめを刺し損ねたかな」
戦人針は壁にもたれ掛かったまま、回復薬によってHPを回復し、欠損した下半身を取り戻したカタナに視線を向ける。
「君達が何故このタイミングで攻めてきたか。それはカタナ君。君の性格を見れば予想する事は容易い。君は戦いを楽しんでいるような節があるからね。どうせ私達と戦いたいとでも思ったのだろう?」
「…………」
「他のプレイヤーに紛れて、もっと私達が混乱してから攻めてくれば良かったのになあ。簡単に勝てるとでも思っていたのだろう?」
「………………」
「はっはっはっはっはっはっはっは。なぁ、カタナ君。自信満々で格好良く意味深に現れたにも関わらず私に負けて、今どんな気分だ? なぁ、今どんな気分?」
「…………………ッ!」
再び戦人針に斬り掛かろうとするカタナの身体を手斧は必死に抑える。その様子を見て戦人針は馬鹿にするような笑い声を上げ、よりいっそうカタナはジタバタと暴れる。
そんな彼の頭に容赦無い一撃が叩きこまれた。
「退くぞ。あのガーディアンとか言う奴が何体も来てる。戦人針とガーディアンを同時に相手するには分が悪い」
「で、でもッ!」
「でももダムもねぇ。黙って従え。手斧ォ!」
「ッ!」
けだまくの合図と同時に、手斧の身体から眩い光が発せられる。それは戦人針達の視界を白く塗りつぶす。当然、こんなエフェクトはプレイヤースキルの中には存在していない。
「あばよォ、戦人針さん。ここは俺達の負けだが、最後に嗤うのは俺達だぜ」
光が収まった時、既にけだまく達の姿は無かった。
まるでアニメの悪役の様な捨て台詞を残し、彼らはどこかへと消えてしまった。
朝倉が追跡命令をガーディアンに出そうとするのを止めて、戦人針は思考を切り替える。戦闘が始まる前のカタナの言葉に、気になることがあったからだ。
アイテムを創りだしてHPを全快にすると、戦人針は立ち上がった。そして朝倉に鋭い表情を向けて、こう言った。
「浦部はどこにいる?」
中々忙しくて執筆に取り掛かる時間がありません。合間を縫って執筆しているのですが、中々文字数が増えない…。
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