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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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接続話的な

「一体何だったんだ?」


 施設の監視機能が停止してから約十分程で、機能は復旧した。研究員達は今も半ばパニック状態になりながら、その原因を探っている。研究を開始してからこのような事態が起こったのは初めてなのだ。皆が慌てるのは仕方がない事だろう。

 研究員達が走り回っている様子を眺めながら、浦部は椅子に座りコーヒーを啜る。たっぷりの牛乳と砂糖のデータを入れてあるため、くどいほどに甘ったるい。

 ただ座っているだけでなく、開いている片手で停止した事でデータの破損が無いかなどを一人で全て調べている辺り、浦部の優秀さが伺える。

 ボスとは既に連絡を取ってある。返信は返ってきたが『こっちは実験を続けるから処理は任せる』という内容だった。ボスの性格を知っている浦部はこういう返事が来るだろうと予想していたため、文章を流し読みして苦笑する。

 

「……」


 データを調べている中で、浦部はある違和感を覚えた。それは今起こった機能の停止とは関係のない部分だったが、何か致命的な事が起きている気がして、今開いているタブを閉じ、気になった部分のタブを開く。

 見たところ、何もおかしいところはない。浦部はキーボードを片手を使って恐ろしい勢いで叩く。


「…………!」


 違和感の原因が画面に現れ、浦部は思わず喉を鳴らした。自分の想像よりも事が進んでいた事に気が付き、引き攣った笑みを浮かべる。まだ手遅れと言える段階ではないが、『こう』なってしまった時点でかなり悪い状況だ。

 こういう時の為に、幾つか手を打っておいたとはいえ、正直そちらは使いたくない。確実に成功するとは限らないし、むしろ可能性は低い。あくまで保険の為に打った手だ。そちらがメインになるのは避けたい。舌打ちしたい気分を抑え、浦部はタブを閉じた。


「……あー、つまんねぇ事になってきやがった」


 慌ただしく走りまわる研究員の中に。

 朝倉の姿はない。



――――――――――――――――――


「くひひ」


 とある場所で、濡れたようにうねった髪の男が目を細め笑みを零す。その隣には性別が外見からは分かりにくい中性的な顔立ちの人間と、小柄な少女が立っていた。

 彼らはPKギルド《目目目ブラッディアイ》に所属する、PKプレイヤーだ。


「おぉい、ようやくおもしれぇ状況になってきたってのに、なんでシケた顔してんだぁ、てめぇら。こっからが本番だろぉ? くひひ」


 男――けだまくがやる気の無さそうな表情をした二人に笑いかけるが、二人はぼーっとした表情のまま何も言わない。けだまくはつまらなそうな表情で舌打ちする。

 この二人はどうも嫌いだ。カタナはやる気のポイントが分かんねえし、手斧は役立たずの泣き虫野郎だ。一緒にいても盛り上がりに掛ける。


「はぁ……しょーじき気が乗らないなぁ。僕アカツキ君と戦いたいんだけど」

「…………」


 カタナがジト目でけだまくを見る。手斧は俯いたまま黙っている。

 それが原因かよ、とけだまくはげんなりする。


「あんなぁ、仕事に私情持ち込んでんじゃねぇよ。つまんねえ事で失敗したかねえ。タイミング的にもうその餓鬼と殺り合う時間なんてねぇだろ。とっととやることやって、帰ろうぜ」

「えー……」

「あとそのアカツキって餓鬼、実は俺先約いれてたんだぜ? また遊んでやるってな。虚空の馬鹿をぶち殺しやがった野郎だから、いつか俺の手でズタボロにしてやろうと思ってたんだ。それを我慢して俺も仕事すんだから、文句は言わせねぇよ」

「えー……どーせククリじゃアカツキ君には勝てないって」

「あぁん? 舐めた口聞いてるとお前からぶち殺すぞ。あとククリって呼ぶんじゃねえ」

「いやね、ククリとアカツキ君じゃステータスが離れすぎてて、この世界じゃ勝てないって。彼の敏捷性、大分やばいからね。けだまくお得意の戦い方じゃキツイんじゃない?」

「ステータスねぇ……レベル上げとかあんま好きじゃねぇんだよなあ。それでも俺様の攻撃が当たりゃあそいつでもただじゃ済まねえよ。面白いスキルを手に入れてるしな。俺は自分より動きの速い奴と殺るほうが得意だぜ。あとククリっていうんじゃねえ」

「アカツキ君の【赤き紋章】の前じゃ多分動きが見えないよ。現実ならとにかく、こっちはステータスが戦闘の要だからねぇ」

「……まぁんなったぁどうでもいいんだよ。とにかくだな、」

「そんな事とはなんだよ! てめえぶち殺すぞ!?」

「てめぇキャラ変わりすぎだろ!?」


 そんな漫才の様なやり取りをただボーっと眺めているだけの様に見える手斧だが、実際は彼女の指先は絶え間なく宙を叩いている。手元には彼女しか見えないキーボードが浮かんでいる筈だが、手斧はそれを一切見ずに作業している。

 

「……はぁ」


 鬼のような形相で何やら喚いているカタナを無視して、けだまくは溜息を吐く。

 本来なら俺もはっちゃけたい所だが、こいつらの前だと何故かまとめ役みたいになっちまう。

 蟻には働く蟻とサボる蟻がいて、群れの中から働く蟻を取り除くと今までサボっていた蟻の一部が働き出す……というどこかで聞いたような話を思い出しながらも、けだまくは調子を取り戻して裂ける様な笑みを浮かべた。


「さぁぁ、楽しい事になってきやがったぜ」


――――――――――――――――――


「はぁ……はぁ……」


 第二十九エリア、ボス部屋前。

 荒く息を吐きながら、玖龍はつい今まで戦っていたボスを思い出していた。



 ボス部屋の前に辿り着いた玖龍達は、場所を記録すると共に、ボスの行動パターンを確かめるため、ボス部屋の中に足を踏み入れた。ボスの動きを調査する為の人員など連れて来られる訳がなく、攻略も調査も全て玖龍達がやらなくてはならない。ここまで来るのに既に何人もの犠牲が出ているというのに、辛い状況だった。


 ボス部屋の中は紫色の光源が毒々しく輝き、奥に佇むボスの姿を照らしていた。

 

「……っ」


 その姿を見た時、彼らは声にならない悲鳴をあげた。

 奥にある宝石で装飾された椅子には、ローブを被った巨大な骸骨が座っていた。その腕に握られているのは黒い刃を持つ鎌だった。

 死神としか言い様がないそのボスは、幽鬼の様にゆっくりと立ち上がると、一切の光を放たない鎌を持ち上げた。

 そして、そこから戦闘が開始した。




「命を刈り取る形をしてやがるぜ……あの鎌はよ」


 何の防御も出来ず、鎌で攻撃されたプレイヤーは即死した。それを見たプレイヤー達は一瞬パニックに陥りそうになったが、何とか陣形を崩さずに調査し続けた。流石としか言い様がないだろう。


「全く……私とキャラが被ってるじゃないですか」


 《死神》瞑眩が手にした鎌で破壊不能の地面を叩きながら、不機嫌そうに呟く。それを他の仲間達が笑うが、それがカラ笑いだという事にその場にいたプレイヤー達は気付いていた。

 

 ボスの名前はハーデス。

 調査で多少の行動パターンは読むことが出来たが、万全とは言いがたい。だがあれ以上戦っていれば被害は更に大きくなっていただろう。極力被害を出さないための陣形を取っていたというのに、この被害者数だ。ボス戦の時にはいったい何人、いや何十人が死ぬのだろうか。

  落ち込んでいく彼らに声を掛けようとした玖龍だったが、それよりも早く『それ』は起きた。

 目の前が暗い闇に包まれていく――――。




「何なんだよ…………そんな」


 意識が戻った玖龍達は呆然とした表情で呟く。周りのプレイヤー達も同じような表情を浮かべている。

 我に返った玖龍は、全員に撤退の指示を出した。半ば気の抜けた表情で、彼らは離脱していく。

 闇の中の出来事が真実なのかも分からぬまま――――。

 

――――――――――――――――――


「に、兄さん……」


 目の前に現れたアカツキの名前を、栞は涙を浮かべながら呼ぶ。アカツキは大太刀を手にしまうと、地面にへたり込んでしまった栞を起き上がらせ、抱きしめる。

 安堵に包まれた栞はゆっくりとアカツキから身体を離す。もう一度アカツキの名前を呼ぼうとした栞は、すぐ近くでその表情を見て息を飲んだ。

 

 何故なら。

 アカツキが浮かべていたのは。

 怒りや憎しみや悲しみや喜びをぐちゃぐちゃにかき混ぜたような――そんな表情だったからだ。

 その表情を、栞はいつか見たことがあるような気がした。

 それどころじゃなくて、アカツキの表情をよく見ることが出来なかった――そう、あの時だ。

 あの時は、格好いいとしか思わなかった。

 私の為に怒ってくれていて、嬉しかったから。

 私が先輩に犯されそうになった時――――先輩を殴り付けているあの時。

 アカツキは今と同じような表情を浮かべていたのではなかったか。

 いや、それと似ているが、今のアカツキの表情は少し違う。

 何かにすがるような。

 もしそれが崩れたら、今度こそ、本当に壊れてしまいそうな。


「さあ」


 アカツキが口元を歪めた。



「ハッピーエンドの始まりだ」

 

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