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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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「ねえ、アカツキ君。この後どうするの?」

「あー。俺はいつも通りいったんリンの所に戻るよ。とてもじゃないけどもう何もする気が起きない」

「あはは。お疲れ様」

「お前は全然疲れてる感じがしないな……」

「いやいや、こう見えてもかなり疲れてるよ」

「…………」


「ねえ、アカツキ君」

「ん?」

「前にアカツキ君教えてくれたよね。受験で結果が出せなかったってさ」

「? ああ」

「努力が無駄になった、とか言ってたけどさ」

「……」

「確かに結果は出なかったかもしれない。けどさ、いつか、絶対に」

「……」



「――――努力は実るぜ」



「……」

「だから、何があっても最後まで挫けず、諦めず、ヘタれず、意地を見せろ」

「……どうしたんだ、急に」

「あは、別に。ちょっと良いことを言ってみたかっただけだよ。じゃあアカツキ君、また後で」



 これは俺とカタナがボス攻略の帰りに交わした言葉。

 そして、これがカタナと俺がまとも・・・に交わした最後の言葉となる。


――――――――――――


「よう、アカツキ……」


 カタナと別れた後、俺はカズヤ達、《アドバンテージ》に会った。プチトマトやエッグ1と言った見知った顔の他に、新しくギルドに入ってきたであろう知らない顔もいくつかあった。始めてあった時はただのパーティだったのに、今では攻略組でもそれなりの大きさのギルドに成長しているのだから凄い。

 全員が疲れきった顔をしており、足取りも重い。あれだけの死闘をしたのだから仕方の無い事だろう。俺自身、今すぐベッドに倒れたい気分だ。HPやスタミナは念の為回復しているが、疲労は全くとれていない。


「新しいエリアの探索はどうしたんだ?」

「ああ……。待機させといた奴らが行ってるよ」

「なるほど……」


 疲れきった表情でポツポツと会話を交わしながら、転移門の元まで辿り着く。カズヤ達も丁度、《ライフツリー》に用事があるようなので、途中まで一緒に行くことになった。

 ふらふらと歩きながら、俺はリンに対する告白の仕方を考えていた。いや、当然俺の年齢でリンの付き合ってあれこれしたら捕まるだろうから、現実に帰ってからお互いが付き合える年齢まで待って貰って、それでその後二人でチョメチョメ。いやこれ告白の仕方じゃなくてその後じゃん。うーあー。中学の頃に勇気を出して告白したらすんごい嫌そうな顔で「無理」って言われたトラウマが蘇ってくる。リンがそんな反応をするとは思えないが、あれを思い出すと腕が震えてくる。振られた俺を待っていたのはクラスメイト達からの執拗な弄りだった。あのクソアマ、自分が告白した事をあっちこちで言いふらしやがった。俺の純情を踏みにじりやがったあの女は、確か俺の行った高校よりもいい所に行ってリア充生活を満喫し、無事進学したとか何とか。世の中おかしい。

 まあ……カタナのあの言葉って訳じゃないが、世の中不平等でも頑張って行かなければならない。帰ったら引き篭っていた分だけ、いやそれ以上に頑張らないとな。

 ……閑話休題。

 徐々に告白の話から関係ない方向にシフトしてしまっている。逃げるな俺。頑張れ俺。もうここは在り来たりにどこかの有名な料理ギルドが開いている店でご飯を食べた後、リンに告白という感じで良いだろう。下手に凝った演出をしても失敗するだけの様な気がするしな。

 頭の中で告白の言葉とどこの店に行くかを同時に考えながら、転移門を利用して転移する。一緒に並んできている《アドバンテージ》の皆は疲れきっていて一言も喋らない。まあ俺も頭の中でペラペラ喋ってはいるけど、実際にはかなり疲れているから無言なんだが。身体が転移の光に包まれていく。この一瞬フワッと身体が浮くような感覚はあまり好きじゃない。酔いそうだ。そして一瞬で視界が切り替わる。




「は?」



 目の前に広がっている風景を見て、俺は呆然とした。一緒に転移してきたカズヤ達も言葉を失っている。

 何故だ。いや、こんな、なんで。

 

 安全な筈の街の中にモンスターがいた。悲鳴を上げながら逃げ惑うプレイヤー達に襲いかかっている。建物に攻撃し、破壊している奴もいる。

 ゴブリンナイト、レッドオーガ、スケルトンナイト、ゴーストヘッド、シャドーアサシン、ポイズンレオ、兜クワガタ、ワイバーン、クリスタルドラゴン、ファイアオクタ、クラーケン、ジャバウォック、バシリスク、ハルピュイア、パンドラボックス、セブンアイズ・ギガンテス。

 レベルも出現エリアもバラバラのモンスター達が街を動き回っている。低レベルのモンスターに対抗しているプレイヤーもいるが、ボスクラスのモンスターには連携しなければ歯が立たない。


「は?」


 なんだこれ。なんだよこれ。ありえない。こんなのありえない。どうして街に。

 そこで俺はリュウの言葉を思い出す。

 ――――いつまでも街が安全だという保証はない。

 あ。

 ああ。

 あ、ああ、あああああ。


「り」


 リンが。

 街には、リンが、店で、一人で。


「うあああああああああああああ!!!!」


 近付いて来たレッドオーガを斬り捨て、全力で街の中を疾走する。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが振り返る暇はない。行く手を塞ぐクリスタルドラゴンの尾を大太刀で受け止め、《空中歩行スカイウォーク》でその頭上まで飛び上がり斬り付ける。クリスタルの鱗に覆われた肉を斬り裂き、蹌踉めいた隙に再び走りだす。

 リン。

 絶対に、絶対に絶対絶対ぜったいぜったい死なせない死なせない俺が守るんだ俺が、俺がッ!

 

「どけ!」


 逃げ惑うプレイヤーを突き飛ばし、ゴブリンナイトを斬り伏せ、ハルピュイアを刻み、リンの元へ走る。

 ただ走った。


――――――――――――


 店の外装をブラッディベアーが破壊していた。まだ店は完全に壊れてはおらず、かろうじて原型をとどめている。しかし所々に爪痕がついており、壁も崩れている。


「あああああああッ!」


 頭が爆発したかのように怒りが吹き出す。絶叫して飛び掛る。ブラッディベアーがコチラを向くのと同時にその首を斬り飛ばす。今の俺のレベルなら、こんな雑魚程度は一撃で殺せる。崩れ落ちるブラッディベアーに視線を向けず、半壊した店の中に入る。


「リンッ! リンッ!」


 店の中にはモンスターは入っていないのが、中は無事だった。一階には誰もいない。泣きそうになりながらリンの名を叫び、二階へ上がる。リンの部屋には誰もいない。俺の部屋に飛び込む。

 そこで、リンが縮こまって震えていた。


「は、はは」


 生きてた。

 リンが生きてた。

 

「お兄ちゃんッ!」


 俺に気付いたリンが抱きついてきた。俺の事はアカツキ君って呼ぶんじゃなかったのかよ。口には出さないが、そんな事を思う程度には余裕が出来ていた。リンの身体を抱きしめる。もう離さない。絶対に離さない。


「もう、大丈夫だ。安心しろ」


 声の震えを抑え、出来るだけ落ち着いた声を出す。リンの頭をいつものように撫でてやる。リンはしばらく震えていたが、少しずつ落ち着いていった。

 俺はリンに抱きつかれたまま、知り合い全員にメッセージを送る。


『《ライフツリー》の街でモンスターが歩きまわってる。人が襲われてる。すぐに助けが欲しい』。


 すぐに返信が来た。そして、それは絶望的な知らせだった。


  全ての街でモンスターが暴れまわってる。


 なんとなく予感はしていた。しかし、何故、こんな事が。

 現在《不滅龍》を筆頭にした全ての攻略組のギルドが救助活動を行なっているらしい。

 余裕がある攻略組プレイヤーは力を貸して欲しい。今いる街のプレイヤー達を助けてくれ。龍帝宮を始めとした攻略組のギルドホームを避難場所とする。ギルドホームへプレイヤーを避難させてほしい。

 そう言った旨のメッセージが一斉送信で送られてきた。全ての街でこの様なパニックが起こっているらしい。

 不安そうなリンの顔を見て、俺は挫けそうになる心を持ち直す。他のプレイヤーも出来るだけ助けよう。だが、最優先はリンだ。最悪リンだけ助けられればいい。

 自分の中で優先順位を定める。最優先をリンに、次に知り合い。

 栞の事も心配だったが、最後に見た時にはドルーア達と一緒にいたはずだ。あいつらがそう簡単にやられる訳がない。らーさんやアーサー、カタナだってきっと大丈夫だ。今近くにいる知り合いで助けなければならないのは誰だ? この街には誰がいた?


「レンシアさんか……」


 あの人に戦う力は無い。ゴブリンナイト程度ならどうにかなるだろうが、クリスタルドラゴン級のモンスターではまるで歯が立たないだろう。助ける人間を頭の中でまとめる。

 その時、ドガァンッと下で何かが砕ける音がした。モンスターが中に入ってきたのだろう。リンが「ひっ」と悲鳴を上げる。

 

「掴まってろよ」


 俺はリンを持ち上げると、部屋の窓を開いた。そしてそこから一気に下へ飛び降りる。それなりの高さだが、ステータス的にはこの程度は問題ない。足にそれなりの衝撃が走るが、俺は倒れること無く走りだす。

 逃げ惑うプレイヤー達に大声で転移門で龍帝宮を目指せ、と叫んだ。それによってモンスター達がコチラに注目するが、全速力で走ってそれを振り切る。リンを抱きかかえたまま街中を走り回り、龍帝宮へとプレイヤー達を誘導する。モンスターとは基本的に戦わない。リンがいては武器を振る事が出来ないからだ。だがリンを下ろす訳にはいかない。

 リンが一番大事なんだ。


「アカツキ!」


 飛び掛ってきたハルピュイアを蹴り飛ばしていると、カズヤ達が走ってきた。さっきよりも数が減っている。恐らくは何手かに別れてプレイヤー達を避難させているのだろう。地面に倒れたハルピュイアにカズヤが大剣で止めを刺す。

 カズヤ達の中に、手斧が混じっていた。彼女も斧を手に近づいて来るモンスターを倒している。無事で良かった。


「避難状況はどうなってる?」

「分からん! 取り敢えず見掛けたプレイヤーを片っ端から保護してるが、この街に何人いるかなんて分かんないからな」

「そうか。そういえば、レンシアさんを見なかったか!?」

「あの茶髪のお姉ちゃんか。あの人ならさっき真っ先に転移門使って龍帝宮に向かったよ」


 どうやらレンシアさんも無事な様だった。取り敢えずは安心だ。後はリンを安全な場所に避難させる事が出来れば、俺も加勢できるんだが。


「一旦俺はリンを連れて龍帝宮に向かおうと思う」


 カズヤ達は一瞬咎めるような表情をしたが、頷いた。何人か一緒についてきてくれるらしい。手斧も避難する為に一緒に来るようだ。

 悪い。他のプレイヤーも助けたいが、リンの安全が最優先だ。


「ぐあっ」


 その時、すぐ隣にいた《アドバンテージ》の一人が悲鳴を上げて蹌踉めいた。その背中には投擲用のナイフが刺さっている。俺達はナイフが飛んできた方向に視線を向けた。


「おいおい……。このタイミングでそりゃねえだろ」



 仮面を付けた連中が武器を構え、俺達を取り囲んでいる。


「《 屍喰らいグール》……」



 地獄はまだ、始まったばかりだった。


 

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