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活動報告に書籍版キャラのラフを乗せているので、良かったら見てください。
グルグルと回転するティーカップ、物凄い勢いで走るジェットコースター、上下に揺れながら回るメリーゴーランド、そしてそれらを見下ろせる程の高さを誇る大きな観覧車。新しく解放された街はまるで遊園地の様な姿をしていた。というよりも遊園地その物だ。
第二四攻略エリア《クレイジーパーク》が攻略組によってクリアされたのはつい最近の事だ。新しい物好きなプレイヤーがそれによって解放された街をひと目見ようとやってきており、この街は大変に賑わっていた。
空中に浮かぶカラフルなバルーンや、ピエロの格好をしたNPC。見学する分にはいいかもしれないが、生活するには少しきつい所かもしれない。宿にしても内装はカラフルで目がチカチカしてくるし。
私もこの街で何日か生活してみたがどうにも性に合わない。すぐに元の街に戻りたくなってしまった。外は夜になってもアトラクションが動いていて明るくてうるさいし、宿の中はアトラクションの音は聞こえないがカラフルで気に入らない。ノイローゼになりそうだ。今は元いた場所に戻って生活している。
そんな私が最前線の街に来ているのは、ある人と待ち合わせをしているからだ。
私は鏡で自分の外見をチェックする。白いレースのユニットに黒いハイネックインナー、下は淡桃色のシフォンスカートに黒色でワンポイントだけリボンの模様が付けられた白タイツを着た少し目つきの悪い女の子が映っていた。黒い髪は腰まで伸びている。我ながらこの髪は綺麗だと思う。
この街に来る前にも、何回も何回も鏡を見ているけどそこに写る自分を見る度に「これが私なんだ……」と少し呆然としてしまう。
私は服装には基本的に疎いので、これは友人のお嬢様に選んで貰った。名前は林檎という。金色の髪をゆるふわな感じにした可愛らしい外見の女の子だ。しかし実際は結構腹黒く、人をからかって遊ぶのが好きだという性悪なお嬢様だ。
数日前、《セントヤード》に開かれている《ホワイトスター》の店に彼女とこの服を買いに行った時もさんざんからかわれた。一緒についてきた林檎の友人である黒髪の七海という女の子は、私がこの服を着た時の為に写真を撮ることが出来るレアアイテムを大量に購入すると言っていた。本当に勘弁してほしい。
因みに《ホワイトスター》とは服や家具などをデザインしている大きなギルドの事だ。商業系のギルドの中でも今もっとも勢いがあると言われている。耐久力0のこの服は街の中でしか使用する事は出来ないが、それでも《ホワイトスター》の服というだけあって結構な値段がした。まあ服を一からデザインして制作するのは相当な技術が必要らしいので、仕方がないかもしれない。中には普通の服なのに、鎧などと同じぐらいの防御力がある物も存在しているが、それは更に値段が張る。
この服を着るに当たって、私はいつも背中に差してある武器をアイテムボックスにしまった。背中が少し軽くなり、微妙な違和感を覚えてしまう。まさかこの服に武器を装備していく訳にもいかないし、仕方がない事だけど。
それにしても、色々な意味で息苦しい。
今私が向かっているのは、この遊園地内にある小さなお店だ。七海がアトラクションの一つである迷路のレンガで出来た壁にたまたま触れた時、忍者屋敷の仕掛けのように壁がグルンと反転し、中に入れたそうだ。そこにあったのがこれから向かっている店という訳だ。
この騒がしい遊園地にしては落ち着いた雰囲気の店のようで、名前を『静寂亭』と言うらしい。何とももの寂しい名前だけど、この街ではありがたい所だろう。アトラクションに関連のある食べ物や飲み物を注文する事が出来ると七海が言っていた。
『静寂亭』の事は仲間以外には言っていないらしいので、今日は私達だけで貸切状態だと思う。
それで、何故この私があんなフワフワした服を買ってもらったかというと、とある女の子に会うためだ。攻略組の主力ギルドである《照らす光》のギルドマスターであるその女の子の名前は栞。今日、私は林檎の勧めで彼女と会うことになっている。林檎が栞には『前から話してみたかったファンの女の子』と説明したらしい。
まあ、私の目的はそんな事ではないけど。
今の私はきっと、邪悪な笑みを浮かべていることだろう。だがそれも仕方ない。
彼女のお陰でアレを有効活用出来るのだから。
――――――――――――――――――
「わぁ……凄い」
「…………!」
迷路の少し手前にあるミラーハウスの前で、林檎と七海が立っていた。二人共いつも装備している鎧ではなく、私と同じように耐久力0の服装をしている。
林檎は後ろで結ぶタイプの肩を出したピンク色のインナーに薄いブラウンのショールをまとっており、白からレモンイエローへのグラデーションのフワフワしたロングスカートを着ている。
そして七海の方は白いブラウスに水色の柔らかいロングカーディガン、モスグリーンのショートパンツ。足は黒のオーバーニーソックス、ショートブーツを履いている。
こうして自分で服を着てみて分かったが、二人共結構なおしゃれをしている。林檎も七海も自分の雰囲気にあった服を選んでいた。
二人共、私の格好を見て目を見開いている。舐めるように全身を見つめられ、私は頬が赤くなるのを感じる。感情表現をするために感情によって顔色が変わるという素晴らしい技術力を今ばかりは恨まずにはいられない。そんな私の赤面に気付いたのか、七海が頬を赤らめて小声で「……可愛い」なんて呟いた。本当にやめて欲しい。
「ほら、私の言った通り似合っていたでしょ?」
私が二人の近くまで行くと、林檎が得意げにそう言った。確かに似合ってないとは言えない。似合っていると思う。だけど……だけどな……!
何とも言えない恥ずかしい気分になりながら、私は二人に連れられて迷路の方へ向かう。静寂亭のハッキリとした位置はまだ分からないから、案内して貰わなければどこに行けばいいか分からないし。
「それにしても……本当に可愛い」
七海がアイテムボックスから写真が取れるレアイテムを取り出し、私の姿をパシャパシャと撮っていく。顔を隠してやりたい気分になるけど、使用されているのがレアアイテムだと思うとそういう訳にもいかなかった。思わず引き攣った笑みを浮かべながら軽くポーズを取ってしまう。それにより調子に乗った七海が余計にパシャパシャしてきて、林檎が私の横に来てポーズを取り、終いには私達三人でポーズを取って写真を取ることになった。
七海は私と肌が触れ合うぐらいにまで近付いて来て、チラチラとこちらを見てくる。
「ちょ、ちょっと、あんまり近寄るなよ」
「かわいい」
さっきからこの子可愛いしか言ってないよ!
そんな私達のやり取りを微笑ましそうに見る林檎。この腹黒め……。
そうして私達は迷路の中に入る。複雑な構造だったが林檎は迷いなく前に進んでいく。七海? 七海なら私の横にピッタリとくっついてるよ。
「ここですね」
林檎が壁の前で止まった。一見なんの変哲もないただの壁だ。しかし、林檎が壁に触れて押すとグルンと反転した。そして人が入れるような入り口が生まれる。私も彼女に続いて中に入った。
静寂亭という名前なだけあって、店の中は静かで落ち着いていた。良い感じの絵画や観葉植物が飾られており、NPCもピエロではなくバーテン服を着た物静かな老人だ。
やはりこの場所をしっている人は林檎達以外にはまだいないようで、殆どの席がガラリと空いていた。そんな中で、一つの席だけ女の子が腰掛けていた。
「初めまして、アカネさんですね」
私に気付いた栞が、席から立ち上がってにこやかな笑みを浮かべて近付いて来た。私は色々な意味で顔が引きつりそうになったが、何とかそれを押しとどめてフレンドリーな笑みを浮かべる事に成功する。
栞に促され、私達は席に腰掛けた。私の隣には七海、向かいには栞と林檎だ。ベタベタとくっついてくる七海はもう置いておくとして、問題は目の前の二人だ。林檎は一見いつも通りの笑みを浮かべてはいるが、唇の端が時折震えているのを見逃さない。そして栞の方だが、優しげな表情をしており、私と目が合うとニッコリと笑った。
「そ、その今日は来てもらってすいません」
私は緊張している風を装ってそう言った。いや、実際ある意味では緊張しているのだが。
栞はそんな私の緊張をほぐすかのように笑うと、「話は林檎から聞いていますから。私もアカネさんに会ってみたいと思っていました」と言う。ハキハキとした喋り方だが、それでいて聞いていると何となく落ち着く。まさに天使だと思った。なんでこんないい子に彼氏がいないのかと首をかしげたくなる。
私達はそれぞれメニューを取り、まずは料理を頼むことにした。グルグルティーとか観覧車アイスクリームとかアトラクションの名前がついた物が多い。ジェットコースターフランクフルトとか凄い名前の物もあり、非常に興味がそそられる。
私達はNPCを呼び、メニューを頼んでいく。
栞と私の頼んだメニューが全く一緒で、彼女はおかしそうに笑った。
私は改めて栞の格好を見る。
袖口と襟元、裾が綺麗なエメラルドグリーンの白地のセーターに濃い青のショートパンツ、黒のトレンカ。
清楚な雰囲気が出ている。もし私が彼女と同級生の男だったら速攻で告白していただろう。
そして私達は、運ばれてきた料理を食べながら雑談を始めた。
――――――――――――――――――
「へえ……そうなんですか。そういえば、さっき話した私の兄も似たような事を言っていましたよ」
「へ、へえ」
雑談を始めてから三十分近く経っただろうか。最初の方、栞は自分から話を振ってくれたりして場の空気を整えたり、逆に私の話を上手く聞いたりしてくれてマジで天使だ、なんて思っていたのだが、何というか、私がふと「そういえばお兄さんがいるんですか?」と言った所、そこから彼女の口からは物凄い頻度で兄の事が出てくるようになった。
私が好みの男性を聞けば、いつの間にかアカツキという自分の兄の良い所の話になっていたり。
私が料理をするんですかと聞けば、いつの間にか兄が自分に作ってくれた下手くそな料理の話になっていたり(下手だけど作ってくれたことが嬉しい云々)。
私が服可愛いですねと服の話を振れば、いつの間にか自分の兄は服に無頓着だから私が服を選んであげていただとか、しっかり服を着れば格好いいだとかの話になっていたり。
私がエリア攻略について聞いてみれば、いつの間にか自分の兄がこの前のボス攻略で格好良かっただとかいう話になっていたり。
何故だろう。どう頑張っても全ての話がお兄さんに収束してしまう。まるで世界が結託してそれ以外の話をすることを拒んでいるように思えるほどだ。
なんだよこれ……なんだよこれ!!!!
話の振り方を失敗した失敗した失敗した私は失敗した。
傍で聞いている林檎と七海はもはや隠そうともせず、くすくすと笑っている。栞はそれを不思議そうにしながらも、その兄の話を続ける。
「アカネさんには兄がいたりするんですか?」
「え、ああ……まあ一応いますよ」
嘘だけど。
すると彼女は嬉しそうにまた兄の話を継続した。私は何となく彼女に話を合わせ、「兄の呼び方」だとか「兄との接し方」だとか、終いには「兄あるある」とかいう話に行き着いた。
どこへ行っても兄尽くし。
兄、兄、兄!
兄がゲシュタルト崩壊しそうだ。
「栞はやっぱりお兄さんの事が大好きなんですね」
二人で話していると、横から林檎が笑いながらそう言った。すると栞は顔を赤くしながらも「……別に、嫌いじゃないです」と唇を尖らせながら言った。いやそれだけアニアニ言っておいて、今更そう言ってもね……。
「でも、そのお兄さんって引き篭っていたんですよね? それについてはどう思っているんですか?」
「すっごくむかついて、すっごく腹がたって、すごく悲しかったです。だけど兄さんは私と約束してくれたんです。もう同じ失敗はしないって。だから今は兄さんを信じてます」
「そうですか……」
「この世界に閉じ込められてからすぐに兄さんとは会ったんですけどね。兄さんは太刀を選択してしまっていて、一人でとぼとぼエリアの前を歩いていました。パーティに入れて貰えなかったんでしょうね。私は兄さんにゲームの中でも役立たずなんですね、もう話しかけないでください、みたいな事を言ってしまったんです」
「でも、お兄さんに対して失望していたんだから当たり前の対応だと思うんですけど」
「……でも、HPが0になったら本当に死んでしまう世界で、私は兄を見捨ててしまった。あれで兄さんが死んでしまっていたらって後から考えたら、なんてことをしてしまったんだって。あの時、私はざまあみろって思ってて……」
「でもそんなお兄さんは見捨てられても仕方ないと思います」
「…………。あの時の兄さんの顔を思い出すと何だか胸がきゅっとして、辛くなります。それで今まで兄さんがしてくれた事とか思い出して……」
「約束してくれたっていったけど、なんでそれだけで信用出来るんですか? もしかしたら今はそう思ってるだけで、現実に戻ったらまた引き篭もるかもしれませんよ?」
兄を庇う栞に、私はムキになって言い返す。すると栞はまっすぐ私を見て、こう言った。
「――――だって、あの人は私のお兄ちゃんなんですよ。あの人の事は私が一番分かってます。あの人は、絶対にもう約束は破りません。わかるんです」
彼女が兄に寄せる信頼を知り、私は胸が締め付けられた。
なんで、そこまで。
「でもまあ、兄さんは色々脆いですからね。今度は私が兄さんを支えていきます」
まったく……栞は信じられないくらいにブラコンだ。
どうして、あんな最低の奴を庇うんだ。
今だって、まだ兄を責める権利が彼女にはあると言うのに。
本当に……。
俺の妹は、本当に天使だ。
――――――――――――――――――
「はっ!? は、はっ? はぁ!?」
イベントの景品である性転換薬の効果が着れた俺は、女の姿から男の姿に戻った。長かった黒髪は短くなり、顔つきも男の物となった。服については、完全に薬が切れる前にいつもの服に戻しておいたので問題はない。
「ということで、アカネさんはアカツキさんだったのでーす」
うふふーと林檎が悪魔のような笑みを浮かべてネタをバラした時の栞のリアクションは凄かった。顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりと忙しく顔色が変わり、終いには泣きだしてしまった。林檎はそれを見て慌てたように栞に色々言うが、こいつは絶対に栞がどういうリアクションを取るかを熟知した上で、今回の提案をしてきたはずだ。
事のはじめは、俺はイベントの景品の使い道がないからどうしよう、と七海に言ったことだった。それを聞きつけた林檎が、ファンの女の子を装って栞を騙そうと提案してきたのだ。こいつ本当に悪魔みたいな女だよ……。
「し、栞、悪かった、ちょっと悪乗りが過ぎたよ」
栞に謝ってみるが、馬鹿馬鹿と叫ぶだけで許してくれない。そんな栞の背中を揺すって私はあなたの味方ですよーとか言っている林檎と、何故か残念そうな顔で俺を見ている七海。
まさにカオス。
それから栞が機嫌を直すまで、一時間近くかかった。
「ばーかばか、兄さんのバーカ」
静寂亭から出て、遊園地の中を栞と二人だけで歩く。七海と林檎は先に帰った。
栞はバーカバーカと連呼しつつ、俺の腕に自分の腕を絡ませてぴったりと密着してきている。様子を見るに大分機嫌が元に戻ってきたな。
「ごめん。許してくれ」
「駄目です。兄さんはこれから一ヶ月の間ずっと私のいうことを聞いてもらいます」
「元はといえば林檎がだな……」
「人のせいにするような兄さんは私の兄さんじゃないですよ」
「はい、俺が悪かったです」
「もう……バカ。ほんとにバカ。信じられません。そんな……もう……」
「…………」
「兄さんの写真を林檎と七海が沢山撮ったそうなので彼女達はそれを私に渡すことで許します」
おい……写真を撮ったのは七海であって、林檎は違うぞ……。
畜生……。あの女。
「私、兄さんなんて好きじゃありませんからね」
ジト目になりながら、栞がそう言う。俺はその様子に苦笑しながら「俺は大好きだよ」と言っておいた。すると栞は顔が綻びそうになるのを必死に堪えながら「ふ、ふーん。でも私は嫌いですよ」とか言ってる。
栞の命令第一回目ということで、それから俺達は二人だけの時間を過ごした。
一ヶ月従わせるだなんて、冗談だろーとか思ってたけど、冗談じゃなかった。俺の泊まっている所に私も泊めろとか言ってくるし、私とパーティを組めとかいって部下を押し切って俺の所にやってくるし、腕枕しろとか膝枕しろとか腹枕しろとか逆に自分の膝枕で寝ろだとか料理作れだとか料理食べろだとか散歩するぞとかリンとベタベタするなだとかリンにお兄ちゃんって言わせるなだとか頭撫でろとか、それからマジで一ヶ月の間色々なムチャぶりをされる事になった。
やれやれ……。疲れたぜ。
そんな風に言いながらも、俺も内心では結構楽しい一ヶ月だった。
女になったアカツキを見た他のキャラの反応を書こうかどうか迷ってる




