103
Twitterを始めたり、アプリ『ヤンデレ彼女』とコラボしたりしたので、興味を持ってくださった方は活動報告を見ていただけたらなと思います。
カタナ達の足止めをアーサーに任せ、俺はエリスを抱きかかえて玉座の間から脱出を図る。入り口の大きな扉に肩でぶつかって開き、外に飛び出した。後ろから瑠璃達の声が聞こえるが振り返る余裕はない。
「な!」
外に出ると、行きにはいなかったはずの武器を持った甲冑が何体もコチラを向いた。そしてガシャガシャと音を立てながら俺達の方へ歩いてくる。幸いながら動きは遅い。エリスを抱きかかえたまま、甲冑達の脇をすり抜けて先を目指す。
俺の予想では、このクエストのクリア条件は今のロリエリスを守りつつ、魔女の本体を倒すことだ。となれば魔女の本体を探さなくてはならないが、すでに魔女の居場所の予想は出来ている。行きに使用しなかった上へ通じる階段の先だ。ただの罠だと思っていたが、現状一番魔女が居そうなのはあの階段の先だ。
俺達を先に進ませない為か、今までどこに隠れていたのかと聞きたくなるような数の甲冑が行く手を阻む。剣や斧が振り下ろされるよりも早くその横を通り過ぎ、攻撃を回避していく。ブンッと背後で風を切る音が聞こえてくる。その度に腕の中のエリスがビクンと震えている。
「大丈夫だ、俺達が魔女を倒してやるからな、エリス」
安心させるためにそう言うと、エリスは途端に不機嫌そうな顔になった。何か間違ったことを言ったかとドキッとしていると、エリスが俺を睨みながら「私エリスじゃないもん。メアリーだもん」と言って来た。なるほど、魔女の名前がエリスでこの少女の名前はメアリーと言うらしい。
エリス改めメアリーに名前を間違えたことを謝ると、機嫌を治してくれたようだ。それにしても本当にこいつNPCか? 一緒に過ごしていると実は本物の人間じゃないかと疑問に思ってしまうくらい、人間味にあふれている。仕草も喋り方も。
「アカツキー!」
後ろから瑠璃達の声と足音が聞こえてくる。どうやらアーサーを破って追いかけてきたらしい。ロリコンーだとかペドだとか聞き捨てならない単語が聞こえてくるのは気のせいだ。俺は断じてそんなんではない。俺の中の腕できょとんとした表情をしているメアリーを見て、俺は確信する。俺はロリコンではない。
そもそもロリコンというのは年齢の掛け離れた少女に恋愛感情を抱く事であり、俺は腕の中のメアリーに恋愛感情なんて抱いてない。そりゃあ確かにNPCとは思えない白くて柔らかそうなほっぺたとか、くりっとした瞳だとか、大きな金色の瞳だとか、凹凸の少ない幼い身体だとか、ちょっと魅力的だと思わないこともないが、それがロリコンだと言われるのは心外だ。
どうでもいい事だが、女性はだいたい中学二年生頃から魅力的になると俺は考えている。身体が成長していく途中でありながら、既にその身体は美しい。何とも唆る。
ともあれ、俺はロリコンじゃない。
そう説明してやろうかと後ろを振り返ると、甲冑達の攻撃を容易く避けながら物凄い速さでこっちに接近してきているカタナに気付く。甲冑が剣を振るう度に軽く身体を傾けるだけでそれをかわしている。人間かと疑いたくなるような身のこなしだ。
すぐ後ろまで迫ってきたカタナと視線が合うと、ニコッと笑みを返された。
「いやーゲームの中って動きにくいよね」
走りながらそんなことを言っている。いや逆だろ。このゲームはかなり身体能力が上昇して動きやすくなると思うんだが。現実に帰ったらとうぶんの間は違和感を覚えてしまいそうだ。
「カタナ! 取り敢えず俺についてきてくれないか!? このクエストのクリア条件は恐らく階段を昇った先でエリスを倒す事だ! この子を殺しちゃ駄目だ!」
「なるほどね」
走りながらの説得をカタナは理解したようだった。だったら、と続けようとして、彼が嫌な笑みを浮かべていることに気付く。
「だけどこのまま行くのもつまらないし、僕は後ろからその子を攻撃するから、ボスの所まで守りきってよ」
「ふざけるな!」
カタナの発言に怒鳴り返すが、彼は走る速度を更に上げて距離を縮めてきた。そして太刀を背中から抜き、いつでも振るえる様にしている。クソ、いくらちょっとギャグっぽい感じだからといって、命が掛かっていることには変わりないのに。こいつは命よりも楽しさを求めているような節がある。
しかし、こうなったカタナは何を言っても聞こうとしない。だったら逃げ切るしかないだろう。俺も走る速度を上げた。敏捷性にはかなり自信があるのだ。メアリーを抱えているとはいえ、そう簡単に追いつかれてたまるか。
「ふぁああああ!?」
腕の中でメアリーが悲鳴をあげているが気にしている暇はない。
甲冑に混じって現れるようになったフワフワと風船の様に宙を浮かぶモンスター、ゴーストの体当たりをカタナがやっていたように身体を軽く傾けて回避していく。なかなかスリリングだが、この避け方の方がスピードを落とさずに先に進むことが出来る。何回か攻撃が掠ってヒヤヒヤしたが、進む内にこの避け方のコツを掴んだ。当たる直前まで相手に近付いておき、距離を見極めた上で身体を逸らす。難しい技ではあるが相手が甲冑やゴースト程度ならば回避する事が出来る。
「っと」
階段が見えてきた。あと数秒で到達する事が出来る。そうすればカタナも瑠璃達の説得に協力してくれるだろう。と思った時、ゾワリと悪寒がしてとっさに《残響》を発動した。次の瞬間には視界が切り替り、さっきまで俺がいた所に太刀を振るっているカタナの背中が見えた。あいつ、マジで俺に斬り掛かりやがった。
カタナは突進するかのように大きく身体を前に突きだしている為、今背後から攻撃すれば避ける事は出来ないだろう。同じように斬り付ける訳にはいかないが、流石にやり過ぎた。頭にきたので思い切り蹴飛ばしてやろう。
「っ」
右足を持ち上げてカタナの背中に蹴りを放つ。しかし次の瞬間、カタナの姿がぶれたかと思うと、彼は地面にしゃがんで蹴りを躱していた。予想していなかった為、バランスを崩しかけるが左足で何とか堪え、右足を元に戻して大きく地面を蹴りつける。それで一気に階段まで到達するが、その時にカタナの顔を見て俺の背中に冷たい物が走った。
――――ゾクリ。
その顔を見ていたのはほんの一瞬だったが、その表情は俺の頭にべっとりとこびり付いた。
その顔に浮かんでいたのは愉悦。まるで恋する相手を見るかのような、しかし何かが違うドロリと濁った瞳と大きく吊り上がった口の両端。
初めてカタナに出会った時に感じた『ナニカ』を、俺は久しぶりに見たような気がした。
――――――――――――
階段を登り切った先の扉を開け、その先へ進む。広がっていたのは巨大なバルコニーだった。中央には噴水が設置されており、静かに水を噴き出している。空は城の外から見た時の同じように黒く塗りつぶされている。
抱きかかえていたメアリーを地面に下ろす。彼女はすっかり目を回しており、ふらふらとおぼつかない足取りで歩きまわる。しばらくして元に戻ったようだが、涙を浮かべて恨めしげに俺を睨んできた。身長的に上目遣いになるため、ちょっとぞくぞくする。
少しして扉をあけてカタナも入ってきた。思わず彼の表情を確認してしまうが、いつも通りのニコニコとした笑みが浮かんでいるだけだった。
「いやー流石アカツキ君。速いね」
「……あんまりふざけ過ぎるなよ」
睨みつけてやると、怒らないでよと困ったように笑った後、ゲームは楽しまないとね、なんて言い出しやがった。こいつ反省してねえ。
それから瑠璃、らーさん、音狐、アーサーも扉をあけて中に入ってきた。メアリーに襲いかからないかと警戒したが、三人とも流石に冷静になっていたらしい。メアリーと俺を見て溜息を吐いた。
その時だ。
『ヒーヒッヒッヒッヒッ。その小娘を連れてここまで来るとはねぇ……。全く面倒な連中だよ』
噴水の上にモクモクと黒い煙が集まって行ったかと思うと、それがやがて一人の人間の姿を形成した。それはメアリーの身体を乗っ取っていた時の黒い服を着た、黒髪の女性だった。彼女は宙に浮きながら俺達を見下ろす。
『全く、若い姿を保っているにはその小娘の身体が必要だっていうのに。まさか追い出されるなんてね』
エリスが若いままでいるにはメアリーの身体を乗っ取る必要があるらしい。隣にいたメアリーがその言葉にブルブルと身体を震わせている。俺はメアリーの頭を撫で、太刀を抜いて前に出る。
『人間風情が私に逆らうとどうなるか……思い知らせてやる!』
そうして、二度目の戦闘が始まった。
結果から言って、エリスとの二回戦目はそこまで苦労する物ではなかった。状態異常を持つ球や攻撃力の高い球を発射する攻撃や、瞬間移動、HP回復など面倒でトリッキーな技が多かったが、最初からHPは半分しかなかったし、メアリーの身体の外にいるせいか少しずつ身体が老いていって攻撃力もスピードもなくなっていったため、後半になるほど楽な戦いになっていった。最終的にらーさんが三節棍でエリスの顎を思い切り叩き、そのHPを0にした。
エリスが断末魔の悲鳴を上げて消滅していく。
[ユニーククエスト『嘘吐きの魔女と囚われの少女』]をクリアしました!
隠しエリアクリアの報酬、ボス撃破の報酬、そしてユニーククエストクリアの報酬が俺達に均等に配布される。どんな物が手に入ったかは後で確認するが、とうぶんは遊んで暮らせる程度には儲かっただろう。ついでに言うとレベルアップして新しいスキルも手に入った。ホクホクだ。
エリスが消滅すると、噴水が緑色に光る水を出し始めた。ワープゲートが開いたのだろう。
「アカツキさんや皆さんのお陰で、私はようやく魔女エリスから開放されました」
メアリーが近付いて来て、急に話し始めた。
彼女を殺そうとしていた瑠璃達は視線を彷徨わせている。カタナは「いやいやもっと感謝してもいいよ」なんて言っているあたり流石だと思う。後半空気だったアーサーは「良かったな」と笑みを浮べている。恐らくこいつはロリコンだな。
メアリーの身体は少しずつ光となって崩れていく。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「私はもう長い間エリスに生命の力を奪われて居ました。ですから、もう私の生命は残っていないのです」
「それは気の毒だね。僕は君の分まで長生きするよ」
空気の読めないカタナの頭を殴っておく。
メアリーは自分の身体が崩れていく中、俺達のやり取りをおかしそうに笑うと近付いて来た。
「しゃがんでください」
メアリーに言われるまま、俺はしゃがんだ。すると彼女は背伸びをし、俺の頬にキスしてきた。同時に【黄金の祝福】という称号を入手する。
「貴方に祝福がありますように」
メアリーはそう笑うと消滅していった。
こうして隠しエリア《ディセイブキャッスル》の攻略は終了した。
何ともありがちなストーリー展開だったが、実際に物語の登場人物として動いてみると面白かったな。報酬もたんまり貰えたし、レベルもアップしたし、色々美味しかった。残念ながらレアアイテムを入手したのは音狐だったが、まあ俺は称号を手に入れたし良しとしよう。
【黄金の祝福】の効果はHPとSPを自動で回復してくれるという便利な物だ。スキルにも《自然回復》とか《自動治癒》とかあるらしいが、それの称号版という事なのだろう。
と、ここまでは良かったのだが俺がNPCの少女にキスされてデレデレしていたとかいう情報が広められ、暫くの間知り合いからはロリコンなんていう不名誉な名前で呼ばれるようになってしまった。リンにもなんか怒っているような、喜んでいるようなよく分からない態度を取られて苦労する事になった。
命の危険がありながらも、楽しいと感じている俺達。傍から見れば異常かもしれないが、既にこれが俺達の通常になっていた。
そんな中で、カタナのあの異質な笑みが嫌に頭の中に残った。
ギャグ成分が強かった。
早く物語を進めたい…。




