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「ナ、ナンダッテー!?」
……まあ何となく予感はしていたんだけどさ。普通のMMOとかでもこういう展開は見掛けたし。ただまあ実際に裏切られるとちょっとショックではある。
流石の攻略組か、皆エリスの攻撃を難なく回避していく。隕石の様に降り注ぐ赤い球がぶつかった部分は、嫌な音を立てて溶けていく。
「ひ、酷いッ! 君は僕達を利用していたんだね! なんて事だ! なんて悲劇! 僕はショックだ! こんなん酷すぎる! 最低だ!」
カタナが目に涙を浮かべながら、宙に浮かんでいるエリスを見て叫んだ。まるで悲劇のヒロインの様な演技っぷりに音狐達はちょっと引いていたが、エリスはそんなカタナの演技に気を良くしたらしい。攻撃の手をゆるめ、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「ヒッヒッヒ! 今更気付いても遅いのさ! お前たちはまんまと私の罠に引っかかった!」
「最初から僕達を騙す為にあの部屋から出てきたんだね!?」
カタナが声を涙声でエリスに叫ぶ。そんなカタナを見てエリスは更に気を良くしたのか、杖を下ろし腰に手を当てて胸を張り、いかに自分の話を信じて罠に引っ掛かる俺達が滑稽だったかを語りだす。流石にその言い振りが頭にきたのか、女性陣の目つきが鋭くなっていく。
「そんな! やっぱり君はわざと僕達を罠に嵌めようとしていたんだね!」
エリスとやり取りをしながら、カタナは少しずつ彼女との距離を詰めている。ヒーッヒッヒッヒとそんなカタナの様子を堪らなさそうに嘲笑うエリスはそれに気付いていない。
俺達はカタナとエリスの茶番を何とも言えない表情で見守る。
「って訳さこの馬鹿め!」
エリスが長々と自分がどのような心境だったかを語っている間に、カタナは彼女のすぐ下にまで来ていた。
「そっか! それはショックだね!」
そう言いながらカタナが大きく跳躍し、宙に浮かぶエリスの目の前にまで移動する。「あっ」とエリスが驚愕の表情を浮かべるがもう遅かった。
「いやあとてもショックだったからこのやり場のない怒りと悲しみは君を切り刻んで晴らすとするよっ」
カタナがグニャリと見ている俺達まで引いてしまいそうな悪い笑みを浮かべて太刀を振るった。《断空》を使用したようでエリスの身体が巨大な衝撃波をモロに受け、悲鳴を上げて地面に叩きつけられた。防御力はそこまで高くなかったのか、それともカタナが強いのか、《断空》が命中しただけでエリスのHPは二割近く減少している。
そこへ今まで待機していた女性陣が我先にと駆け寄り、倒れたままのエリスを武器でいたぶっていく。彼女達の浮かべている愉悦の表情にアーサーと俺はお互いに顔を見合わせ、離れた場所で見守る。「やめ、ちょやめっ」と悲鳴をあげているエリスがちょっと可哀想に見えてくる。
「うがああああああああああ!!!!」
エリスが絶叫すると同時に、彼女を赤い光が包み込んだ。瑠璃達は光に自分の武器が弾かれる事を確認すると、すぐさま《ステップ》で後ろに下がる。退き際を心得ているあたりが余計に恐ろしい。
エリスを覆っていた光が無数の弾になって周囲に飛び散る。距離を取っていたお陰で回避は容易だった。
ヨロヨロと立ち上がったエリスは若干涙目になっていた。
「許さない……お前ら許さないぞ!」
らーさんじゃないが、語尾に(震え声)が付きそうな感じだ。ちょっと可愛い。
とは言え、そろそろふざけてもいられない。HPが四割近く減少したエリスは宙に浮かぶことをやめた。憤怒の表情を浮かべ、彼女は杖を掲げる。するとその周りを赤、青、黄、紫、白の五色の球体がクルクルと回転しだす。
「私を怒らせた事を後悔するがいい!」
彼女が叫ぶと同時に弾丸の様に球が撃ちだされた。最初の赤い球とはスピードが段違いだ。各々ギリギリと所でその球を回避するが、攻撃は終わらなかった。壁にぶつかった球体がまるでスーパーボールの様に跳ね返ってきた。
「うわっ」
反応し切れなかった音狐が白の球を横っ腹に喰らい、吹っ飛んで地面を転がる。幸いHPは三割ほどしか減っていないが、彼女は気絶状態になってしまっている。どうやらこの球には当たった相手を状態異常にする効果があるらしい。
気絶の状態異常を治すために瑠璃がアイテムボックスから『気付薬』を取り出すが、その間にエリスが追撃を仕掛けてきた。先ほどとは違う、まるで小さな太陽の様な大きな赤い球を作り出し、杖を振るい音狐の元に集まる俺達に向けて放つ。スピードはそれほど早くないが、音狐を回復させていたのでは間に合わない。
カタナは躊躇なく音狐の元から離れ、その球を回避する。この状況では薄情とも言っていられない。
「俺に任せろ」
アーサーが盾を構え、瑠璃達の前に立つ。音狐が気付薬で目を覚ますのと、巨大な球体がアーサーの盾に直撃するのは同時だった。
球が一瞬動きを止める隙に、瑠璃達はその場から離れる。しかし攻撃を受け止めているアーサーは動くことが出来ない。
「アーサー!」
「吹き飛べえぇ!」
魔女が叫ぶ。
球体が激しく爆発した。爆風が俺達を撫でる。爆発による煙が立ち込める。
魔女が「ヒャーッヒャヒャヒャ!!!!」と激しく笑っている。
「ク、クソ! アーサーが!」
「私を怒らせるからこうなるのさ!」
やがて煙が晴れていく。その中に一つの影が。
「インヴィオアビリティマリアの薙ぎ払いレーザーに比べれば大したことは無いな」
煙の中にいたアーサーのHPはまだ三分の一程残されている。あの魔法の動きが遅かった点から、代わりに攻撃力は相当な物だったと思うが……。恐ろしい耐久力だ。
「オイタが過ぎたね、エリスちゃん」
カタナの姿が見当たらないと思っていると、なんとカタナは爆発に乗じてエリスの後ろにまで移動していた。
「アカツキ君の必殺技を真似してっと」
慌てて振り返るエリスに、カタナが緑色の《オーバーレイスラッシュ》を叩き込んだ。緑色の閃光が十二連続で煌めく。「ぎょわああああああ」とエリスが悲鳴をあげてそれを喰らい、バタリと地面に倒れた。まだHPは残っているというのに、ボフンとエリスの身体から黒い煙が出たかと思うと、彼女の服装が最初に会った時の物に変わっていた。それどころか、出会った時よりも小さくなっている。だいたい八歳ぐらいだろうか。今まで浮かんでいたHPバーが消滅し、その代わりか彼女がNPCであるという表示が浮かんでいる。
倒れている彼女に容赦なく止めを刺そうとするカタナと女性陣。倒れていたエリスは向かってくる瑠璃達を見て悲鳴を上げ、「私は魔女じゃないんです!」と叫んだ。
「嘘嘘嘘嘘、嘘ばっか吐く子にはお仕置きしないとねっ」
カタナがぐにゃりと笑みを浮かべ、太刀を持ち上げる。その時、エリスとカタナの間にアーサーが割り込んだ。流石に味方を攻撃するつもりはないのか、カタナも動きを止める。それにつられてらーさん達も一旦停止した。
「アーサー君どいて! その子殺せない」
「待て、落ち着け。彼女は魔女ではないと言っているぞ」
アーサー達が口論を始めたので、俺もアーサーに加勢した。騙し討ちを喰らわされたのには驚いたが、まだ最初に受けたクエストは継続している。という事はまだ何かのイベントが残されているのだろう。その旨を皆に伝える。すると怯えていたエリスが後ろから俺の腰に抱きついてきた。
「ありがとうお兄ちゃんっ! その化物みたいな人から私を守ってくれて」
「「「あぁん?」」」
「あはは、化物って酷いね」
急に抱きつかれてドキッとしたが、次の瞬間には違う意味でドキッとさせられる。
「と、とにかくこの子を攻撃するのは待ってくれ!」
「私は魔女じゃないのに攻撃するなんて、この最低の化物ー!」
俺が言うのに合わせてエリスがちょくちょく挑発を挟んでくるため、瑠璃達の表情は般若の様になっていく。その表情に怯え、エリスは「化物がもっと化物になった!」と怯えて俺の背中に隠れた。
「アカツキはロリコンだからただその小さい女の子に欲情してるだけでしょ(怒)!」
「イエスロリ、ノータッチデスよ!」
「ロリコンは須らくこの世から消滅するべき」
「あはは、ロリコン云々は置いておくとしても、恐らくこれはその子を殺すか殺さないかでパーティを仲たがいするっていう陰湿な罠だろうね。そんな陰湿な事をする奴はお死置きしないとさ」
ジリジリと距離を詰めてくる瑠璃達。アーサーが盾を構えて牽制するが、徐々に後ろに下げられていく。エリスは俺の顔を見て不安そうにしている。リンにやるようにポンポンと頭を撫でてやると、少し安心したように笑った。
「待つんだ皆! 今カタナが言ったとおり仲たがいする為の罠だこれは! ここは取り敢えず多数決を取ろう! このエリスを生かそうと思う人は手を挙げろ!」
俺と、アーサー、エリスが手を挙げる。
「いやその子はいれないぞ普通は」
瑠璃に突っ込まれてしまった。
今のままでは二対四でこちらが負けている。ならば、と俺はまずカタナに交渉を持ちかける。
「カタナ、もしこちらに協力してくれたらお前のいうことを何か一つ聞いてやろう」
「おお、だったら君の仲間に、と言いたい所だけど、残念だねアカツキ君。僕は交渉には哄笑で返すって決めてるんだ。だから君に協力する訳にはいかないなあ」
唯一落とせそうだったカタナに振られてしまい、望みは無くなった。俺はこのロリを守れないのか……。
そして俺とアーサーはお互いに頷き合う。
こうして、展開は100話の冒頭に繋がるのだった。




