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具現化ヒロイン。  作者: 橘コウヘイ
第一章  出会いと出逢いを
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シーソー

「聞いてるの......ってあれれぇ?」



 目を瞑って頬を膨らまして怒ってから数秒。何も返事をしない事に疑問を抱き片目を開く。だが、そこに悠一の姿はなく、居るのは女二人と男一人。



「え?悠ちゃんどういうこと?」



「オイ、聞いてないぞ悠一。何故お前の家にこんなにも可憐な美少女が」



「変態思考にもほとほと愛想がつきたわね」



 ああ、もう帰ってくれたらどれだけ楽であろうか。だが、この状況でこの三人をこのまま家に帰らしたらどのような結果をもたらすかを悠一は理解していた。



「とりあえず中に入れ。リビングまで案内してやってくれ」



 捕まった容疑者の如くずっと下を向いておく事しか出来なかった。そして、三人はテムリンに中に入るよう手招きをして招き入れる。その後に家の門前に居る俺にも声をかけてくる。



「ほら、悠一もはやく」 



「いまいくよ」



 十年近く会っていない知人と久しぶり再開し、一時間にも満たない時間で衝撃の事実カミングアウトなど悲劇の喜劇ではないだろうか。いっそのこと全部話してしまおうか。俺の本心まで。



 重い重い足を一歩一歩進めてようやく玄関前に、辿り着く。が、既にテムリンは家の中へ。いま、中では何が行われているのだろうか。考えるだけで嫌気がさす。



 玄関からリビングまでは十五秒程で着く。

どう言い訳をしようか考えながら、ドアをあける。

途端に笑い声が聞こえてくる。男一人の芯のある太い笑い声が一つにその他の女性陣。 なんだ心配ご無用だったじゃないか! それじゃ



「たっだいまーー」



 と、その場に雰囲気に合わせて突入したつもりの悠一だったがまるで停止ボタンを押したかのような沈黙と停止という概念との融合。



 だがしかし、そんな世界観も刹那的なものであり再びテムリン以外の三人が腹を抱えて笑い出す。



 ほんとになんなんだこいつらは。 



「おま、おまえ全部聞いたぜ..あっはは......いやぁっはは....だめだお前俺と思考が同じだよ」



 最初の一言で顔がひきつり愛想笑いが出来なくなる。



「ごめんね。悠ちゃんんっふふ」



 お前謝る気無いだろ。凶悪犯め。



「っふ考えが浅はか過ぎて滑稽だわ....ダメね笑いが止まらないわっふふ。久しぶりに面白いこと言ったわね」



 悪かったないつもつまらなくて。

 そして次に俺の視線が向かったのはもちろん



「すみません。私が喋ったせいで....」



「ホントだよ!何してくれてるの!友達じゃないこいつらに何を言ってくれてるんだよ」



 ヤバイつい言い過ぎた......



「ホントにすみません。出ていきますね」



「いやっ、ちがうその俺が言いたかったのは....」



 振り向いて玄関に向かうテムリンの顔に浮かんでいたのは涙であった。



バタンッ。



「その、悪かったな悠一」



やめてくれそういうのが一番辛い。



「いや、お前のせいじゃない」



お願いだから....



「悠ちゃんごめんね。そんなつもりじゃ」



「気にしないでくれ」



「友達で無いとは心外だ」



「お前はよくこの状況でその言葉が言えたなっ!第一お前はなんなんだよいつもっ!」



 結局のところ慰めて欲しかったのかもしれない。

この気持ちはなんであろうか。確か、親と別れるときもこの感情に駆られていた。



「あのね! 友達だと思ってた人に友達じゃないって言われた人の気持ちを考えたことがあるの? 私は私なりに杉田くんと一緒に隣を歩こうとしたのよ?それなのに......それなのに杉田くんはっ!」



 やめてくれ。ただやめてくれと言いたかった。

もう自分が分からなくなってくる。



「それはそっちの勝手な問題じゃねぇーかよ! 今の俺の気持ちが分かっての発言かよ......」



 本当に自分は何を言っているのだろう。不知火は一番考えていてくれたのに。これでは自分を正当化したいだけで、他人の事を考えることの出来ない容量の小さいクソ人間ではないか。



「もう知らない....帰るわね....」



 ふらついた足取りで、玄関に向かっていく。そして残りの二人もついていく。



「悪い。俺も今日は帰るな」



「おじゃま....しました」



 止めるべきだろうか。それともここで今のままでいれば良いだろうか。

 普段見せない涙を流さない不知火の涙を見て、この世で最も大切にしようとしていた人間を失う。この感情はなんだろう。



 あぁ、これが喪失感か。非常に哀しい人間関係。硬くも柔らかくもなく、些細な出来事や割り箸のささくれでもさえも崩れて無くなるように脆く切ない。

泣けば楽になるだろうか、泣けば帰ってきてくれるのだろうか。



 知識だけでは補えない感情。同時にくる失恋と友達を失った喪失感。



 それを誤魔化すには泣くことしか出来なかった。



 枕を涙で濡らし、体内が枯渇するのも感じることなく、









悠一はひたすらに泣き続けた。











そして、悠一は何通もくるメールと通話に気付くこと無く枯渇した全身と朝を迎えることとなる。




レビューの方よろしくお願いします。

次話からシリアスな方向に向かっていきますので楽しみにしていてください!

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