第96話 悪意の頂点
全人類と勇者パーティーを敵対状態になったわけだが、これで終わりではない。
少々の妨害を挟んだところで、根本的に勇者は強いままだ。
あいつを弱らせる必要があった。
だから深夜、俺は勇者の故郷へ向かう。
そこで彼の唯一の家族である妹と、幼馴染の女を拉致した。
二人を洗脳して意識を奪うと、小型爆弾を飲ませていつでも起爆できるようにする。
ただの平凡な村なので、襲撃は一瞬で完了した。
これで勇者も、まともに戦うことができないのではないか。
展開的にあまり面白くないので控えていたが、俺は本気でやると決めた。
したがって妥協は許されない。
ただ、懸念事項もあった。
もし爆弾が炸裂して妹と幼馴染が死んだ時、怒りでさらなる覚醒を遂げる可能性だ。
今までの感じからして十分に考えられる。
現在の勇者はすべてを超越していた。
チート能力すら見劣りするほどのレベルアップをしている。
それも原因は俺の策略だ。
同じ失敗を繰り返さないようにしたい。
つまり、逆手に取られないような工作を施さねばならない。
事前準備でやっておけることはまだ他にもあった。
ひとまず拉致した二人を黒魔道士の屋敷に置いた俺は各地を巡り、様々な封印術や儀式、呪いを発動させていった。
いずれも本来は闇の魔神や魔王を弱らせるためのイベントだ。
しかしゲームでは、勇者自身も弱体化の対象として選択できるようになっていた。
ある種のネタなのだが、ここでふざけて勇者を選ぶと、ステータスが大幅に低下する羽目になる。
攻略時には邪魔すぎる仕様だったものの、俺にとっては何よりも好都合だった。
発動に面倒な手順を踏むものばかりという欠点も、改竄でアイテムを用意できる俺にとっては造作もない。
謎解き系の仕掛けや合言葉もすべて網羅しているため、大して苦労することなく発動させられた。
今頃、勇者は原因不明の弱体化に悩まされているのだろう。
ステータスの値に応じた割合の減少だ。
カンスト超えした勇者にも有効なはずである。
「まったく、鬼畜ゲームがさらに進化するとは思わなかったな……」
神代の遺跡を踏破した俺は、付近一帯を爆撃で更地に変えながら愚痴る。
この世界に来た当初、勇者は軟弱で甘い性格だった。
レベルも低く、かなり危なっかしい人物だったと言わざるを得ない。
現在も甘さは健在だが、実力だけは超人級になってしまった。
チート能力を持つ俺ですら、正攻法では殺せないほどに至っている。
しかし、この状況を俺は満喫していた。
反発する勇者を徹底的に叩きのめして絶望させて、勝ち誇りながらゲームオーバーを突き付ける。
その未来をとても良いと思っているのだ。
何もかもが円滑に進むばかりではつまらない。
勇者パーティーには、最後の難関として立ちはだかってもらおうか。




