第93話 残された者達
その場で高笑いしていると、無傷の黒魔道士がやってきた。
屋敷からワープさせた新たな分身だろう。
本体は自宅である屋敷から出てこず、分身が何度倒されようと関係ない。
勇者に殺されたのも、当然ながら分身である。
黒魔道士は胸を撫でながら息を吐く。
「いやー、びっくりしましたね。まさかここまで覚醒しているとは」
「まったくだ。よほど追い込まれていたらしい」
もちろん勇者のことだ。
極限状態で強くなるタイプはいるが、あれはやりすぎだろう。
まるで別人だったし、闇落ちにもほどがある。
瓦礫に腰掛けた黒魔導士は、足を揺らしながら意見を述べた。
「もう真っ向から戦うのは無理っすね。あたし達が束になっても敵いませんよ」
「そうだな。対策を考えておかないと勝負にすらならない」
彼女も俺の同意見らしい。
あれは正攻法でぶつかるべきではない。
こちらのペースに持ち込むための作戦は必須だった。
そうでなければ、また一人ずつ殺される羽目になる。
勇者の最大の強みは、致命傷でも瞬時に回復できる高速再生と、即死を連続で受け切るタフネスだ。
さらにカンスト突破した身体能力に超絶的な剣術も持っている。
フィジカル面ではまさに最強と言えよう。
(だが、勇者も無敵ではない。自殺できたことからも明白だ)
圧倒的な火力があれば、再生力を押し流して殺せる。
殺すことで残機の消費を強いることができる。
捨て身の戦法により、奴の残機はあと僅かだった。
おそらく十回も死ねないはずだ。
(やり方次第でいくらでも対策できそうだな。過信は良くないが、そう悲観する状況でもない)
さっそく黒魔導士を話し合っていると、近くの瓦礫が溶けて白煙を上げた。
そこから這いずり出てきたのは血だらけの博士だった。
彼はぼさぼさの髪を掻きながら苦笑する。
「いやはや、噂にゃ聞いていやしたが、とんでもない強さですな」
「やっぱり無事だったか」
「へぇ、この通り。みっともない真似を晒しちまいましたがね」
「生きているだけ十分だ」
博士は勇者に殺されたが自力で復活した。
自分に蘇生薬を仕込んでいたのだ。
毒の研究をする博士は、一方で薬にも詳しい。
以前、俺が殺した薬師のそれとは別物の蘇生薬を自作していたのである。
ちなみに博士の自作したそれは副作用で若返る。
聞こえは良いかもしれないが、連続で使用できないということだ。
いずれ無力な赤ん坊になってしまう。
ただし、博士は老化の毒を持参しており、大したデメリットではない。
他人が使う分には不便なだけだ。
ゲームでも展開によっては博士の蘇生薬を使用できるが、使うたびにレベルが下がってステータスも低下していく。
どうしようもない場面での緊急回避的な方法として知られていた。
そんなわけで俺達三人は集まった。
勇者は仲間を殺された気分を訊いてきたが、こちらの損害はゼロである。
こっちには端から馬鹿正直に戦う気なんてないのだ。
次に会った時は盛大に嘲笑ってやろう。




