第92話 宣戦布告
倒れた勇者は起き上がらない。
呼吸もしておらず、ただ血を流すばかりだった。
死んだふりではない。
その証拠に身体はほどなくして消失する。
勇者は残機を消費して、どこかで復活を遂げた。
他のパーティーメンバーも蘇ったはずだ。
セーブポイントは知らないが、この近くではないらしい。
「……なるほどそういうことか」
俺は奴が自殺した理由を察する。
勇者は万全なパーティーで俺との因縁に決着をつけると決めたのだろう。
だからあえて命を絶つことで、強制的に戦線離脱すると同時に仲間を復活させたのである。
次に会う時は、五人全員で挑んでくるつもりなのだ。
(上等だ。受けて立ってやる)
勇者は理性と狂気を行き来しているようだが、未だに甘さが残っている。
本当に俺を殺すつもりなら、弱い仲間を蘇らせる意味がない。
仲間の分の残機を使って単独で戦うべきだ。
それをできないのが勇者の弱点であった。
守るべき存在がいるからこそ、最適な行動を取れずにいる。
本人はけじめのつもりなのだろう。
皆で裏切り者を倒すことで終わらせたいのかもしれないが、決断が半端すぎる。
もっとも、わざわざ指摘してやる義理も機会もなかった。
彼には後悔という形で教えてやらねばなるまい。
(こっちは手段を選ばないからな。勇者に負けることはない)
今回、俺は少なからず反省した。
手配レベルの急上昇によって勇者を詰ませようとしたが、思わぬ形で反撃を受けてしまった。
残機を大量消費させるという目的は達成したものの、その代償に超絶的な戦闘能力を与えることになった。
俺が手配レベルを上げなければ怒らなかった出来事なので自業自得である。
だからここからは一切の手を抜かない。
悪ふざけをせず、本気で勇者パーティーの全滅を狙おうと思う。
相手は世界最強の怪物だ。
対抗できるのはチート持ちの俺だけである。
これでようやくちょうどいいバランスになったと言えるだろう。
俺にはまだまだ使っていない手札がある。
それらを組み合わせることで、確実に勇者達を追い詰めてみせる。
何も難しいことはない。
本気でゲームオーバーに持ち込むためのプランも既に立ててある。
いくつかアレンジを加えれば十分に使えるし、今の勇者にも通用するだろう。
脳筋だけでクリアできないのが冒険の旅だ。
誰がこの世界のプレーヤーなのか、憐れな勇者達に教えてやろう。




