第9話 教会
俺は脳内に付近のフィールドマップを展開する。
これも自己データの改竄で取得した技能だ。
マップを拡大して、最寄りの街の教会をピンを立てる。
昨日、勇者はそこで祈祷をした。
つまり復活地点になっている。
勇者パーティーはめでたく死んだが、彼らは残機を持っていた。
残機とは命のストックである。
それが残っている限り、何度でも蘇ることができる。
ゲーム時代の仕様が異世界にも適用されているのだった。
「まったく、ズルだよなァ。正々堂々としろってもんだ」
一人でぼやきつつ、俺はピンを立てた地点に座標移動する。
その際、色彩設定を弄って透明になっておいた。
これでそう簡単に見つかることはない。
不可視状態となった俺は、教会の屋根の上にワープする。
空いた窓から室内に侵入すると、眼下には勇者パーティーがいた。
彼らは何やら言い争っている。
「どういうことなの!? あいつに負けるはずがないじゃないッ!」
女戦士がヒステリックに叫んでいる。
あいつが怒鳴っているのはいつものことだが、今日は雰囲気が違う。
誤魔化し切れない恐怖が滲んでいた。
それを宥めるのは錬金術師だ。
彼女は女戦士の口を押えて言い聞かせる。
「落ち着きなさい。あの男は何らかの外法に手を染めた。それで瞬間的に能力を向上させたのでしょう」
その予想は当たっている。
ただ、真実に辿り着くことはないだろう。
彼らはこの世界がゲームに酷似しているとは知らない。
魔術師は椅子に座って震えていた。
ノコギリで首を落とされた記憶がトラウマになったのだろう。
いくら残機で復活すると言っても、精神まで回復できるわけではない。
勇者は深刻な顔で話をまとめにかかる。
「ムカイの目的は不明だ。とりあえず、彼との遭遇を避けて先を急ぐしか……」
やり取りを見守る俺は、笑いを堪えていた。
声が出ないように彼らの方針を聞く。
(もう遭遇してるんだよな)
俺は胸ポケットから出した煙草をつまむ。
その状態で持ち物欄に干渉し、アイテムごとに設定されたIDを調べた。
煙草のIDを改竄すると、一瞬にしてビジュアルが切り替わる。
手の中に現れたのは、無骨な造りの大型マシンガンであった。




