第89話 毒と聖剣
勇者は毒の束縛を切り払うと、俺に追撃を図ろうとする。
そこに黒魔導士の魔術が炸裂した。
今度は即死魔術ではない。
術の浸透によって一帯の地面が沼と化し、倒壊した建物が次々と傾いて沈み始める。
勇者も膝まで埋まって動けなくなっていた。
(ナイスだ)
俺は外見データをリザードマンに変えると、沼を泳いで進んで距離を取る。
そこから瓦礫をガトリングガンに改竄し、沈む勇者に向かって発射した。
凄まじい勢いで弾丸が吐き出されて勇者に炸裂していく。
(これで始末できれば楽なんだがな……)
俺の望みを裏切るように、勇者は生存していた。
ガトリングの銃撃を聖剣だけで防いでいるのだった。
背中に黒魔導士の即死魔術や、博士の毒を浴びながらも耐えていた。
あまりにHPが高すぎる。
カンストダメージの連発ですら削り切れず、勇者の持つ回復速度に負けているらしい。
全盛期の闇の魔神すら霞みかねない耐久性である。
(さすがにありえない。リアルタイムで強くなっているのか?)
俺は沼を前進する勇者を見て呆れ返る。
明らかに身体能力が上がっていた。
死に迫るほどに強化されている。
限界突破を繰り返すその姿は、俺よりよほどチートだった。
そのうち勇者が沼から脱出した。
純粋な脚力だけで跳んで屋根の上に着地すると、博士に襲いかかる。
(確固撃破を狙っているのか)
俺は建物をよじ登って二人を追跡する。
博士は逃げながら毒を撒き散らしていた。
固体・液体・気体の毒が辺り一面に散布されて、何をしても悪影響を受ける汚染空間を形成している。
避難中の住民が解けて腐肉のジュースになるのが見えた。
かなり強力な毒を遠慮なく撒いているようだ。
俺も巻き添えで溶け出しているので、一時的に毒を無効化するドリンクを服用して凌ぐ。
一方で勇者は、死に物狂いで博士に仕掛けていた。
屋根から屋根へと跳んで斬りかかっている。
多種多様な毒のオンパレードに蝕まれながらも、彼はゴリ押しで攻撃を試みていた。
たまに四肢や目玉や内臓が腐り落ちるが、すぐに再生して追跡する。
狂気の域に達した執念で追撃を狙っていた。
身軽な博士は巧みに逃げ回っている。
その表情は驚愕と歓喜に包まれていた。
あらゆる劇毒が通じない勇者のタフネスに驚くと同時に、数々の毒を試せるこの瞬間を至福に感じているのだ。
普通、これだけの持続ダメージに耐えられるキャラはいない。
研究好きな博士からすれば、今の勇者は素晴らしい検体なのだろう。




