第87話 援護攻撃
理性と狂気の狭間に立つ勇者は、俺を滅多刺しにしてくる。
聖剣の動きはだんだんと加速していた。
認識外からの攻撃の頻度が露骨に増えている。
俺は銃や剣で反撃を試みるも一向に届かない。
すべて躱されるか切り落とされていた。
何もかもが勇者に劣っている。
(こりゃ駄目だ。正攻法では敵わなくなっちまった)
認めざるを得ない。
勇者はこの短期間であまりにも強くなっている。
世界最強の身体能力を獲得し、単純な肉体スペックは闇の魔神や魔王すら超えていた。
カンスト値だらけのステータスを持つ俺が敵わないのだからそういうことだ。
極限状態が彼の才能を引き出したのだろう。
なんとも素晴らしい主人公補正である。
(まあ、勝ち目がないわけではないけどな)
俺は肉塊にされながらもほくそ笑む。
一方的にやられているが、別に無策ではない。
俺の役目はあくまでも陽動だ。
こうして注意を引き付けるだけでいい。
勇者は孤独だが、俺には頼りになる仲間が二人もいた。
斬撃を繰り出し続ける勇者の背後の物陰で、黒魔導士が動くのが見えた。
彼女の放った漆黒の蛇が地を這って勇者に迫る。
素早く察知した勇者は避けようとするも、今度は俺が攻撃を仕掛けることで阻止した。
蛇は勇者の足に巻き付いて浸透していく。
間もなく勇者がよろめいて吐血した。
絶大な苦痛に悶え苦しみながら倒れる。
それを見た黒魔導士がピースサインを送ってきた。
(今のは即死魔術か)
黒魔導士が休暇中に習得した術だ。
ゲームでは使えないはずだが、俺のチートの影響を受けてシステムの無視や改竄に成功したらしい。
他にも本来なら扱えない術も解禁されている。
大部分が賢者専用の魔術だったあたり、相当なコンプレックスがあったようだ。
俺は目の前に倒れる勇者を見下ろす。
(さすがに即死魔術の前では無力だったか)
超絶的な肉体スペックでも無敵ではない。
こうして不意打ちさえ成功させられれば、簡単に始末できるというわけである。
今回は数的な優位を活かすことができた。
連携は上手くいったと言えよう。
何もできなかった博士には申し訳ないが、彼には次の機会に頑張ってもらえばいい。
勝利の余韻に浸る俺は、ふと疑問に思う。
(そういえば、倒した時のアナウンスが流れていないような……)
次の瞬間、勇者が起き上がって刺突を放った。
血塗れの刃が俺の喉を貫通し、そのまま持ち上がって顎を割る。
赤黒く汚れた勇者の顔は、冷徹に俺を睨んでいた。




