第85話 殺戮勇者と対決
(一体どれだけの残機をつぎ込んだんだ?)
俺は血みどろの勇者を見て苦笑する。
少し残機を使ったくらいでは、あそこまで劇的に変わるはずがない。
最低でも七割くらいは消費したのではないか。
そこまでいくと化け物クラスの基礎ステータスに加えて、経験値倍率も十倍以上になる。
連日の大殺戮を加味すると、ここまで強くなったのも頷けた。
(しかし、ここまで残機を使ってしまうとはな……)
文字通り命のストックなのだ。
減れば減るほどゲームオーバーが迫る。
当然、なるべく数を維持して冒険を進めるもので、無謀な行動はリスクを高める。
魔王討伐だけを優先するのなら、地道に戦闘をこなしてレベルアップを繰り返すのが最適解だった。
勇者パーティーの手配レベルを上げたのは、彼らを全滅させまくって残機を大幅に減らすためである。
結果的に狙いは半分成功したわけだが、代償として勇者がバーサーカーになってしまった。
(甘ったれの時より仲良くできそうだけどな)
その時、勇者の動きが止まり、ゆっくりと振り返ってこちらを見た。
彼は逃げる住民を無視してその場に佇んで凝視してくる。
「あたし達に気付いたみたいっすね」
「ああ、殺る気満々だな」
絶大な殺気の後、勇者が大地を蹴った。
砂塵を撒き散らしながら突進してくる。
獣のような絶叫を上げた姿は、果たして理性が残っているのか甚だ疑問だった。
「それぞれ自由に動いて殺すぞ。決定打を与えた奴が勝ちだ」
「了解っす」
「やってやりやしょう」
打ち合わせを終えると、黒魔道士と博士は散開する。
その場に俺だけが残った。
黒魔道士と博士はトリッキーな戦い方をする。
一方で俺は不死身を活かしたゴリ押しが得意だった。
陽動役という意味でも、真っ向から立ち向かうことにしたのである。
「かかってこいよ、チキンボーイ」
俺はニヤけながら挑発して、途中で拾った木片を改竄する。
それをハイスペックな魔剣に組み替えて構えた。
こいつの特性は防御力の無視だ。
どれだけ硬い相手でも問答無用で切り裂ける。
シンプルだが悪くない効果だろう。
その間に勇者は猛然と突っ込んでくる。
互いの得物が当たる間合いになった瞬間、勇者が仕掛けてきた。
大上段からの振り下ろしだ。
対する俺は振り上げで応じようとする。
衝突の瞬間、聖剣が滑るように軌道を変えた。
魔剣とすれ違った刃は、俺の肩口から腹まで真っ二つにしたのだった。




