第82話 頼もしい男
俺達は別室に案内する。
先ほどまでの部屋は戦闘で壊れたので、落ち着いて話せる場所に移動することになったのだ。
向かった先は隣の資料室だ。
みっしりと並べられた棚には研究資料が保管されている。
すべて博士が手書きであり、それを加味すると狂気的な量であった。
丸椅子に座って口笛を棚を眺めていると、博士が湯呑を手渡してくる。
「どうぞ。粗茶ですが」
「ありがとう」
俺は礼を言って一気飲みする。
その途端、口内と喉に違和感を覚えた。
すぐに白煙が発生し、口から喉や胴体にかけて溶け始める。
そのまま端々まで容赦なく蝕まれていく。
この展開を予期していた俺は、慌てず騒がずすぐに再生した。
焼け爛れた箇所は瞬時に元通りになる。
俺は湯呑に残った液体に注目しながらぼやいた。
「粗茶というか毒茶だな」
「ひはっ、そいつはすんませんねぇ。うっかり間違えちまった」
博士は頭を掻きながら嬉しそうに言う。
絶対にわざとだ。
ゲーム時代にもこんなシーンがあったのを知っている。
研究所を訪れた勇者パーティーに、博士が紅茶と菓子を振る舞うのだ。
騙されて口にするとたちまち即死する。
ゲーム位時代の名物シーンを目の当たりにして感動していると、博士はテーブルを挟んで腰かけた。
「それで、ムカイの旦那はどうしてこんな辺鄙な場所に来たんで?」
「毒薬博士。あなたと同盟を組むためだ」
俺はこれまでの出来事を大雑把に説明する。
現在の方針や目的も伝えて信頼してもらうことにした。
博士は興味津々といった様子でしきりに頷く。
「勇者のことはあっしの耳にも入っていやすぜ。大悪党の印象はなかったもんで、不思議に思ってやしたが、あれは旦那の策略でしたか」
「冤罪の勇者は殺せないか?」
「まさか。あっしは執行官の一人ですが、犯罪者を狙うのは毒の被験体にちょうどいいからでして。そこまで強いこだわりはありやせん」
そう言って博士は胸ポケットから小瓶を取り出す。
小瓶を軽く振りながら、彼は笑みを深めて言う。
「新作の毒がいくつかありやす。これを一行に試してみやしょう。いくらか殺すことはできるはずですぜ」
「それは頼もしいな」
「旦那ほどじゃあないが、あっしも特殊な存在だ。勇者が相手だろうと遅れは取りやせんので」
そうして話がまとまろうとしたその時、部屋の扉が勢いよく開いた。
現れたのは傷だらけでボロボロの黒魔導士だ。
彼女は和む俺達を見ると、頬を膨らませて抗議する。
「あのー、あたしのこと忘れてないっすか?」




