第79話 毒薬博士
周囲の光景が一瞬で切り替わる。
そこは少し広めの部屋だった。
白を基調とした内装で、整然をした調度品が並ぶ。
全体的な印象は病院の診察室に近い。
前方には、椅子に腰かける一人の男がいた。
ワイシャツにスラックスという平凡な出で立ちで、上から白衣を羽織っている。
灰色の髪はそれなりに整えられていた。
特徴のない顔は、あるかないかの微笑を浮かべている。
穏やかな雰囲気だが、その裏には隠し切れない狂気が潜んでいた。
彼こそが執行官の薬毒博士だ。
俺はわざとらしく声をかける。
「やあ、突然すまないね。ここは毒薬博士の住居で合っているかな」
博士は微笑したまま立ち上がった。
そして、俺の言葉には答えずに両手を広げる。
「こいつは見慣れない顔だ。どこの刺客でしょうかね?」
「刺客じゃない。ちょっとした交渉を――」
本題に入ろうとすると、博士の右手が霞む。
その手が拳銃を持っていると認識した時、銃口が火を噴いた。
弾丸が腹を貫通する。
倒れた俺は穴の開いた腹を撫でた。
弾に毒でも塗られていたのか、傷口が煙を上げて溶けていた。
博士は拳銃をこちらに向けながら歩み寄ってくる。
「生憎と話し合いが嫌いな性分でしてね。あっしと交渉したかったら実力がなきゃ駄目ですぜ」
「安心しな。暴力は得意分野なんだ」
「じゃあ見せてもらいやしょう」
博士が発砲する素振りを見せたので、俺は素早く起き上がる。
直後に数発食らったが、気にせず前進した。
ダメージをものともせずに血みどろの身体で襲いかかる。
博士は動揺することなく感心した。
「へぇ、不死身ですかい。厄介ですな」
「驚くには早いぜ」
俺は爆発属性を付与した拳で殴りかかった。
それを躱した博士は、白衣のポケットから小瓶を取り出す。
中には黒い粉末が入っていた。
コルクの栓を片手で抜いた博士は、それを俺に放り投げてくる。
外に出た粉末が広がり、突進する俺は無防備に吸入した。
その瞬間、全身の融解が加速する。
全身がどろどろに形を失って、ゼリー状になって転倒してしまった。
「うぉぼぇっ」
「竜鱗を混ぜた毒だ。巨人族でもコロッと――」
俺は再生して元通りになると、そこから手刀を叩き込む。
博士は身軽な動きで回避した。
彼は少し驚いた顔でこちらを見ている。
さすがにここまで迅速な再生は予想外だったのだろう。
俺は不敵な笑みを湛えて言った。
「誰がコロッと逝くって?」
「ひはっ、こいつは失礼。ちょいと過小評価しちまったようで」
博士は申し訳なさそうに頭を掻くと、再び拳銃を向けてきた。




