第78話 毒々
俺と黒魔導士は同時に声を洩らす。
「おや」
「トラップか」
黒魔導士が真後ろにワープした。
危険を察知したらしい。
対する俺はその場に棒立ちする。
間もなく滝のような勢いの液体を浴びた。
気の狂いそうな激痛を感じながら呼吸ができなくなる。
全身が溶けていく感覚もあった。
降り注ぐ緑色の液体は毒だったのだ。
俺は再生能力を連打して、溶かし尽されないように抵抗する。
そのうち毒液のシャワーは止まった。
周囲の地面はグズグズに溶けて池ができている。
俺の身体も一瞬前まで原形を失っていた。
人体模型よりグロテスクな状態だったと思う。
ただ正直、苦痛には慣れている。
勇者パーティーに接触前の段階で地道に訓練していたのだ。
たとえ斬首されようとも冷静に頭を働かせられるようになっていた。
だから今回も平気だ。
俺はだいぶ後ろに避難していた黒魔導士に声をかける。
「大丈夫か?」
「いや、それはこっちのセリフっすよ」
黒魔導士は鼻をつまみながら言う。
毒液のせいで悪臭が漂っているのだ。
たぶん吸うだけで有害である。
その証拠に、先ほどから俺のHPが枯渇寸前だった。
チート仕様で不死身になっていなければ、何十回と死んでいるのではないか。
俺は頭上を見ながら苦笑する。
「結界の破壊に連動して作動する罠だったらしい。毒薬博士の名に恥じない歓迎だな」
「褒めてる場合じゃないっすよ……」
「行くぞ。博士は中にいそうだ」
俺は気にせず研究所へと進んでいく。
相手はトップクラスの執行官だ。
防犯機能くらいは用意してあると思っていた。
というか、毒液のシャワーはゲームで見たことがある。
初見殺しで全滅するプレーヤーも珍しくないらしい。
今回は回避可能な罠だったので、むしろ優しい部類だろう。
ピラミッド型の研究所に近付いていくと、正面の一部が開いた。
どうやらあそこが入口のようだ。
俺達を招くようにそこだけが展開している。
きっと内部にも様々な仕掛けが待ち受けているのだろう。
「面倒だな。まとめてスキップするか」
「いけますかね」
「俺はやれそうだな」
「あたしの転移魔術はまだ封じられたままっすよ」
「どこかに妨害用の仕掛けが施されているんだろうな」
転移妨害は外の結界だけではなかった。
なかなかに用心深い。
ズルをして侵入されるのが嫌なのだろう。
もっとも、俺の前では無意味に等しい努力である。
チートによる座標移動はこの世界の技術では防げない。
戦闘中に使えないという制約はあるものの、現在は有効だ。
このまま研究所の最深部に瞬間移動することが可能だった。
ゲーム時代に攻略したことがあるので、内部構造も把握している。
「じゃあ俺は先に博士と話を付けてくる。あとから来てくれ」
「ちょっと! こんな可愛い相棒を置き去りにするんすか!?」
「可愛い相棒なら切り抜けられると信じている」
俺はサムズアップで応じると、そのまま座標移動を発動した。




