第75話 混沌を少々
黒魔導士はのんびりと竜酒を飲みながら話題転換をする。
「次はどんな作戦で勇者パーティーを苦しめるんです?」
「そんなに期待するなよ。手配レベルに比べたら地味な作戦だ」
「またまた謙遜しちゃって。ムカイさんの外道ぶりには安定感があるので大丈夫っすよ」
黒魔導士は良い笑顔で言う。
言っていることは無茶苦茶で、あまりにも罵倒が過ぎる。
どれだけ俺のことを嫌っているのかと思うが、実際は真逆であった。
黒魔導士は気が合う相棒ポジションだ。
向こうも少なからず同じような印象を抱いているだろう。
だから彼女も親しみを込めて冗談を言っている……のだと思う。
俺は改竄能力で生み出した肉まんを齧りながら語る。
「各地の犯罪組織を買収して、勇者達を狙わせる。暗殺や諜報活動が専門のグループも多いから、ますます行動に制限がかかるはずだ」
「確かに地味ですけど効果的っすね」
「まずはやれる所から徹底すべきだからな。派手な作戦と織り交ぜることで真価を発揮してくれる」
大々的に妨害するのは爽快だが、目立つ方法ばかりだと対策されやすい。
現在、向こうは勇者だけなのだ。
蘇生方法を模索している頃で、街に立ち寄っただけで死にかねない。
きっと迂闊な真似はできないはずだ。
この間に下準備を進めていきたいと思う。
俺は犯罪組織の買収に連なるメインの目的を明かす。
「それと執行官に接触する。彼らとも協力関係を結んでおきたい」
「……マジっすか」
黒魔導士が呆気に取られる。
若干引いているのは、まさか俺がこんなことを言い出すとは思わなかったからだ。
それだけ驚く判断だったのだ。
「執行官を知っているんだな」
「当然っすよ。闇の世界でも有名人っすから。伝説と評しても過言ではないっすね」
黒魔導士はどこか不服そうに述べる。
彼女は嫉妬深い面がある。
自分より活躍する存在に悔しさを覚えているようだ。
しかし、それも仕方のないことだ。
執行官という存在は、黒魔導士の名に劣らないほど強大だった。
この世界においては特殊な役職を指す言葉で、彼らは一級の犯罪者だけをターゲットにする殺人鬼集団だ。
執行官はどこの国にも属していない。
集団という表現を使ったが、メンバー同士の繋がりは薄く、各々が独自の理念に従って行動する。
犯罪者の抹殺という方針だけが唯一の共通点だった。
ゲームでは手配レベルが6以上の時に執行官が登場するようになる。
状況によって様々な執行官が現れて攻撃を仕掛けてくるのだ。
行く先々でランダムにエンカウントするその厄介な特徴は、たとえムービー中でも容赦なく発動する。
とにかく神出鬼没で、タイミングが悪いと重要なシナリオを壊される危険性があった。
俺はそんな執行官と交流し、仲間にして勇者を追撃させようと企んでいた。




