第72話 英雄の進化
(新説が誕生したな。当たってほしくない推論だが)
俺は心の中で愚痴りながら勇者を狙う。
慎重に照準を合わせて発砲するも、剣で弾かれてしまった。
死角を突いているのに意味がなかった。
「後ろに目でも付いてるんすかね」
黒魔導士も難航しているようだ。
その時、勇者と目が合った。
向こうとはかなり離れているが見つかった。
勇者の顔が驚愕と怒りに染まるも、すぐに住民への対処に移る。
ただし、鮮烈な感情はありありと発露されたままだ。
「あたし達の仕業だと確信したみたいっすね」
「そのようだな」
異常な事態なので薄々分かっていたかもしれない。
勇者の妨害をする勢力なんて限られている。
代表例は魔王軍だが、現状は俺達が一番だろう。
与えた損害で考えるとピカイチである。
(まあ、どう思われようと関係ないけどな)
俺は遠距離から執拗に狙撃していく。
勇者は残らずガードしてみせた。
さらには住民達を着々と無力化しつつ、街の出口へと進んでいた。
「大した実力だ」
「本当っすね。魔王だって倒せるんじゃないです?」
「今は絶対に無理だが、将来的には分からないな」
あの鬼畜ゲームを踏襲しているのなら、魔王はラスボスに相応しい敵だ。
それでもこのまま勇者が強くなった場合、勝利が怪しくなる。
真っ向から対決した場合、勝利してしまう可能性があった。
もっとも、最終決戦に持ち込ませる気はない。
リスクが高すぎる展開だからだ。
その前に俺がゲームオーバーに追い込む。
メインシナリオの中盤から終盤辺りで残機を使い尽くすのがベストだった。
確実に残機を削る手段はまだいくつか考えてある。
手配レベル10という絶望が合わさることで、冒険の難度は限界突破した。
正直、もう詰んでいる気がしないでもないが油断大敵だ。
俺は勇者の恐ろしい執念を知っている。
あの男は使命のためなら、どこまでも冷酷になれる性質だった。
彼らの残機が底をついて本当の死を迎えるまで、俺が安堵することは許されない。
密かに決意を重ねていると、勇者とは別の視線を感じた。
俺はスコープを横にずらす。
賢者がこちらに杖を向けていた。
その先端に光が集束し、今にも放たれようとしている。
「あっ」
刹那、光が発射された。
それはスコープを貫いて粉砕し、勢いを落とさず俺の頭部を穿ったのであった。




