第64話 国王とデート
俺は国王に歩み寄ると、拳銃を下げずに話を再開した。
「話をしよう。まずは自己紹介からだ。互いのことを知って仲良くなろうじゃないか」
「ぐっ……」
国王は悔しげに呻く。
彼自身も魔術と剣技を鍛えた戦士で、かなりのオールラウンダーだ。
勇者とも十分に戦えるだけのスペックを誇る。
しかし、攻撃してくる兆しはなかった。
俺には敵わないと理解しているのだろう。
実力者揃いの護衛を一蹴し、致命傷を受けても即座に再生できる俺を前に、敗北を悟ってしまったのだ。
こちらとしてもスムーズに事が進むのはありがたい。
抵抗されるとそれだけ手間が増える。
何事も争いが起きずに済むのが一番だと思っている。
(勇者達もこれくらい素直だと楽なんだけどな)
胸中で愚痴りつつ、俺は国王の手を掴む。
そこから窓を突き破って外に飛び出して、落下中に外見データを弄る。
飛行能力を持つ翼人族に変身すると、加速しながら王都の外へと飛び去っていく。
本当は王城で話を付けて黒魔導士を呼ぶつもりだったが、護衛との戦闘で騒ぎが大きくなってしまった。
あの場での話し合いは困難と判断したので、こうして移動している。
黒魔導士はワープを使えるため、すぐに合流できるだろう。
このまま離れても問題は起きないはずだ。
飛行中も国王は大人しい。
別に気絶しているわけではない。
ただ無抵抗に捕まっているだけだ。
もはや反撃するのは手遅れだと気付いているらしい。
ここで落下すれば、死ぬのは国王である。
魔術を使えば即死は免れるかもしれないが、地上には魔物や盗賊がいる。
瀕死の状態で見つかれば、あっけなく殺されるだろう。
だから国王は大人しく連れ去られている。
やがて俺は山の頂上に到着した。
そこに国王を放り出すと、元の姿に戻って息を吐く。
「よし、この辺りでいいだろう。先に言っておくが、あんたを殺す気はない。そこは安心してほしい」
「…………」
立ち上がった国王が睨み付けてくるも、文句は言わない。
よほど警戒されているのか。
こちらの言葉を信じていないようだ。
迂闊な発言が死を招くと考えているのかもしれない。
一定の距離を保たれながらも、俺は国王に事の経緯を説明した。
勇者パーティーに所属していたことや、役立たずとして追放されたこと、現在は敵対中だという旨を伝える。
国王は大きなリアクションを見せずに黙って聞いていた。
もしかすると脱出のチャンスでも窺っているのかもしれないが、俺にとってはどうでもいいいことだ。
どうせこの場から逃げ出す術はないのだから。




