第60話 祝杯
その日の夜、俺は屋敷で黒魔導士と祝杯を楽しんでいた。
大きな丸テーブルにたくさんの料理と酒を並べて食事をする。
いずれも俺の改竄で用意した代物だ。
黒魔導士は赤ら顔で俺のそばに来ると、グラスに竜酒を注いできた。
「どうぞどうぞ、飲んでくださいよ」
「すまないな」
俺はグラスから溢れる酒を口にする。
身体が火照りそうな強さだ。
チートによる再生能力がなかったら、とっくに吐くか酔い潰れているところだった。
一方、黒魔導士は先ほどから絶え間なく飲んでいるのに平気である。
酔って上機嫌ではあるものの、倒れそうな雰囲気はなかった。
なぜか俺の膝に座った黒魔導士は、空になった竜酒の瓶を振り回して笑う。
「ムカイさんの魔神変身があれば、勇者パーティーなんて楽勝っすね。何度でもぶっ殺してやれますよ」
「いや、ところがそうでもないんだ」
「どういうことっすか?」
「各地の仕掛けを解くことで、闇の魔神は弱体化させることができる。次に会う時は今日ほどの力は発揮できないだろう」
勇者を殺した闇の魔神は、敗北イベント専用の姿だ。
然るべき手順を踏むことで、あの理不尽すぎる能力を封じることができる。
そうすれば正攻法でも倒せるようになるのだ。
俺の改竄した姿はオリジナルの闇の魔神とは別物だが、データ的には同一である。
弱体化の影響は受けると考えるべきだろう。
俺は現在のシナリオチャートを確認する。
案の定、闇の魔神の弱体化イベントが進行中だった。
復活した勇者パーティーがさっそく行動を開始したのだ。
勇者が他のメンバーに伝えたのだろう。
(おそらくは賢者の入れ知恵だな。さっそく対策してきたか)
ある程度まで弱くなると、闇の魔神は向こうの戦力に敵わなくなる。
状況次第だが、賢者ならば瞬殺できるのではないか。
最大まで弱体化されると、そこらの中ボスと同等のスペックになってしまう。
わざわざ変身するだけの価値は失われるだろう。
そういった諸々を黒魔導士に説明すると、彼女は竜酒をラッパ飲みしながら疑問を口にする。
「止めなくていいんすか?」
「別に構わないさ。闇の魔神は手札の一つだ。潰されても痛くない」
元から使い捨て同然のつもりだった。
あれだけで残機をゼロにできるとは考えていなかった。
勇者の心を折るのが主な目的だったのだ。
新たなイベントが進み始めているのを見るに、その作戦は失敗したようだが。
「ムカイさんは随分と強気っすね」
「まあな。情報量で圧倒的に優位なんだ。慌てることはないのさ。それより明日から行動再開だ。徹底的に勇者パーティーを追い込むぞ」
「了解っす!」
酒瓶を掲げる黒魔導士と共に、俺は豪華な食事を満喫するのであった。




