第58話 悪意の勝利
勇者は吐血して痙攣を始める。
呆然とした顔で、必死になって肩を動かしていた。
しかし、腕が吹き飛んだので身動きも満足に取れない。
俺は悠々とその姿を見下ろす。
「どうだ。これがチートの力だ。手も足も出ないだろう」
「出す手足が無いですからね」
黒魔導士が野次を飛ばす。
俺がピースサインで応えると、彼女は指笛で甲高い音色を響かせた。
しっかりと盛り上がっているようだ。
その間、勇者は血の気のない顔で空を睨んでいた。
焦点が定まっていないのは、意識が朦朧としているからだ。
両腕と胸から下が千切れ飛んでいる。
その状態でも辛うじて生きているのは不運と言う他あるまい。
「く、そ……」
「あまり落ち込むなよ。相手が悪かったんだ。今の俺は世界最強だからな。魔王だって簡単に殺せる」
これは純然たる事実であった。
弱体化していない闇の魔神は、ゲーム内で最強のステータスを持つ。
そもそも倒されることを想定していない。
プログラムに守られた絶対的な存在なのだ。
異世界という舞台でもその理不尽な強さに陰りは生じなかった。
満身創痍の勇者が勝てる相手ではなく、奇跡の一つや二つで覆せる力の差ではなかった。
この状態でいつもの再生機能も使えるのだから、何が起こっても絶対に殺されることはない。
俺は腰を曲げて顔を勇者に近付けると、喜びを隠さずに語りかける。
「さて、お前はここで死ぬわけだが、次の策は考えてあるのか? まさか諦めるつもりじゃないだろうな。どんな苦境でも乗り越えると誓ったはずだ。ほら、立てよ」
「…………」
「腰抜け勇者。安心して引きこもってろよ。俺が代わりに勇者をやってやる」
俺は罵りながら人差し指を上下させる。
その動きだけで勇者の首が切断された。
転がった頭部を指先で押し潰すと、血と脳漿が弾けて地面を濡らしていく。
【ちぇりーなゆうしゃ を たおした!】
元の姿に戻った俺は、胸中を巡る達成感に思わず微笑んだ。
最近は勇者パーティーに負けてばかりだった。
これで少しは意趣返しにはなったのではないか。
拭い切れないだけの絶望感も与えられたと思いたい。
チート能力は使い方次第でいくらでも化ける。
俺が披露しているのは氷山の一角に過ぎなかった。
きっと気付いていない隠し機能や応用もあるはずである。
つまり、まだまだやりようはある。
本領発揮はこれからなのだ。
想像するだけでワクワクしてしまう。
勇者達には存分に楽しんでもらおうじゃないか。




