第57話 闇の魔神
「うおおおおぉぉぉッ!」
勇者が雄叫びを上げた。
彼は力を振り絞って攻撃を仕掛けてくる。
その姿に俺は感心した。
(これでもまだ諦めないか)
勇者は目にも留まらぬスピードで旋回し、果敢にも闇の巨躯を切り裂いてきた。
聖剣は魔神にもダメージを通してくる。
しかし、それは微々たるものだった。
俺自身は何の痛みも感じない。
闇の身体は斬られた端から再生する。
聖剣が振り抜かれる頃には傷が塞がっていた。
呆れるほどの再生力だった。
勇者は堪らず退避して出方を窺う。
悔しげな顔からして、まだ諦めていなかった。
とは言え、攻撃が効かなくなったことによる精神的な動揺は大きいだろう。
「無駄だよ。こうなったらもう誰にも殺せない」
俺は両手を広げて嘲笑う。
闇の魔神はゲームでも反則的な強さを誇っていた。
毎ターン全回復に、常に三回行動という性能を持っている。
加えて通常攻撃が全体攻撃扱いで、各種状態異常は無効どころか反射する。
賢者の即死魔術すら跳ね返すのだ。
最大HPはラスボスである魔王すら凌駕し、それでいてあらゆるダメージを半減する特性持ちという鬼畜仕様。
最強キャラとしてのアイデアを詰め込んだ公式チートであった。
強制敗北になるのも納得のイベントモンスターだ。
発売後、数々のプレーヤーがなんとか闇の魔神を倒そうと研究が為された。
結果としていくつかの討伐方法が発見されたが、運要素の強い方法が多い上に最終的にはイベント進行で強制的に負ける。
少なくともこの状況で再現できるものはなかった。
早い話、勇者に勝ち目はないのだ。
(でも逆転フラグが立ちそうだから、さっさと殺してやるか)
しぶとく切りつけてくる勇者を見下ろしながら俺は決心する。
こういう時、下手に時間をかけると予期せぬトラブルが発生しがちだ。
賢者の登場だってそうだった。
異世界にはゲームの知識が通用しない部分がある。
余計な逆転をされるのも癪だし、黒魔導士にしっかりと圧勝する様を披露しなければならない。
「ほいっと」
俺は闇の手を軽く一振りした。
勇者は聖剣でガードするも、耐え切れずに両腕がもげる。
さらに貫通した衝撃が彼の胴体を上下に分断した。
臓腑を散らしながら勇者は地面を転がる。
真っ青になった顔は、迫る俺を前に死を直感した。




