第42話 黒魔導士さん
黒魔導士が俺を客間に案内する。
ローテーブルを挟んでソファに座ると、指を鳴らして二人分の紅茶を出現させた。
彼女は一方に口をつけながら意気揚々と語る。
「あのクソババアを殺せるなら、喜んで協力するっすよ。お兄さんの実力なら無理難題ってわけでもないでしょうし」
「まあな。たぶん次は負けないさ」
「次というか、一度目で死なないのが不思議っす……さっきも平然と回復してたっすもんね」
黒魔導士は苦笑する。
先ほどの玄関での攻防のことを言っているようだ。
何度も魔術を受けながらも即座に再生するのは、彼女からすると信じられない現象なのだった。
「俺は基本的に不死身だ。戦闘で殺されることはない」
「ほー、それはすごいっすね。女神の祝福とは関係ない感じっすか?」
「関係ない。俺独自の能力だな」
ただのチートである。
この世界をゲームと認識することで得た力だ。
勇者達の残機と違って回数制限もなく、いくらでも再生できる。
パーティー全員に反映できるという点では残機制の方が優秀だが、総合的な使い勝手ではチート能力に軍配が上がるだろう。
「いやー、これは心強いっすね。勇者パーティーは終わったも同然っすよ」
黒魔導士は上機嫌だ。
だらりとソファにふんぞり返って紅茶を啜っている。
お世辞にも上品とは言えない姿だが、顔が良いので妙に様になっていた。
その後も賢者の悪口を饒舌に語る黒魔導士を見て、俺は今回の来訪が正解だったことを改めて知る。
(かなり乗り気だな。これは仲間になったと考えてよさそうだ)
黒魔導士という人物は『ファンタジック・スリル3』の名物キャラとしてよく挙がる。
賢者と同じく隠しキャラに該当するが、その立ち位置はさらに特殊だ。
プレーヤーの行動で敵にも味方にもなり得るのである。
まず通常プレイでは登場しない。
特定のシナリオで仲間にするか、賢者を仲間にすると出現する。
前者の場合だと、普通に優秀なキャラとして活躍してくれる。
しかし後者の場合、問答無用で敵になってしまうのだ。
賢者を毛嫌いする黒魔導士は、執拗に冒険を妨害してくる。
あらゆる場面でランダムに戦闘を仕掛けてくるのだ。
この仕様が本当に厄介であった。
黒魔導士との戦闘は、六ターンが経過すると彼女が撤退して終了する。
既定のHPを減らすか、竜酒を渡しても立ち去ってくれるのだが、そこらのボスより強いのでまずそれが難しい。
乱数の関係で連戦を挑んでくることもあった。
物語後半にある特定のイベント以外では殺せないため、彼女の撃退を強いられながら進めなければならない。
数々のプレーヤーが黒魔導士の手によってゲームオーバーになったことだろう。
攻略上、賢者が仲間になると心強い。
ただし無条件で黒魔導士が敵対してしまう。
ハイリスクハイリターンな判断だ。
二人同時に味方にするのは不可能のため、どちらか一方を選ぶかどちらも仲間にせずに進行するしかない。
ちなみに先に黒魔導士を仲間にした場合、賢者から攻撃されることはない。
代わりに魔術協会と呼ばれる組織から追われる身になるが、それでも黒魔導士と敵対するより安全だ。
数々の禁術を扱えることもあって、能力は申し分ないほどに高い。
確実なクリアを目指すプレーヤーの間では、黒魔導士を仲間にすることが推奨されていた。




