第40話 賄賂
(方法は考えてある。やれないことはないだろう)
俺は開いた玄関扉に向けて手を伸ばす。
刹那、手首から先が吹っ飛んだ。
魔術の刃に切断されたのだ。
まだ警戒されているらしかった。
「困ったな、まったく」
俺は赤い噴水を上げる手首を治して、一つため息を洩らす。
考えてみれば、屋敷の主が警戒するのも納得だ。
現在地は地下迷宮の最下層で、道中には防犯装置を仕掛けているはずだった。
俺はそれらをすべてスキップし、唐突に本拠地までやって来たのだ。
向こうからすると異常事態だろう。
前例にない侵入者である。
こうした歓迎を受けるのも当然であった。
そもそも屋敷の主は、世界屈指の嫌われ者だ。
味方が一人もいない環境で暮らしており、誰であろうと敵対的な態度を貫いている。
(仲間にできるのか不安になりそうだな)
俺は苦笑するも、諦めるつもりは毛頭ない。
シナリオ上、勇者が屋敷の主を仲間にする展開が存在するのだ。
それならば俺にもできるはずだった。
情報だけは誰にも負けないほど持っている。
これくらいの難関は、簡単に突破してやらねばならない。
俺はその辺に転がった小石を拾うと、一本の酒瓶に改竄した。
ラベルには竜のイラストが描かれている。
こいつは竜酒だ。
屋敷の主の大好物である。
俺は酒瓶を持って玄関扉の前に移動した。
室内に見える位置で掲げてみせる。
「攻撃するなよ。こいつがどうなってもいいのか?」
返答はないが、魔術が飛んでくることはなかった。
ひとまず正体不明の侵入者から距離を縮めることに成功したようだ。
俺は不敵に笑みを深めた。




