第35話 即死魔術
勇者が慌てて斬首する。
しかし手元が狂ったのか、俺の頭部が転がった。
今までは寸分と違わず切り落としていた。
こうして転がるのは初めてのことだった。
俺はその隙を逃さずに全身を再生させると、笑いながら勇者に手を伸ばす。
「触れれば爆発だ」
「くっ……!」
勇者は俺の手を躱しながら反撃してくる。
神速の刃が伸ばした腕を輪切りにカットした。
さらに踏み込んで四肢を斬り飛ばす。
俺は再び生首になった。
極度の疲労に苛まれているとは思えない動きである。
さすがは世界を救う勇者だ。
一方、賢者は悔しげに歯噛みしていた。
「おのれ、我が術が効かぬとは……ッ!」
賢者は杖を俺に向けると、詠唱することなく新たな魔術を発動させた。
杖からコールタールのような漆黒の粘液が垂れて、地を這って高速で動く。
それが俺に巻き付いて端から破裂した。
俺は全身が粘液塗れになる。
それらが煙を上げて肌に染み込んでいく。
直後、凄まじい苦痛が神経を蹂躙してきた。
あまりの感覚に思わず膝をつく。
意識が飛びそうになるも、指でこめかみを抉ってほじくり回すことで無理やり阻止した。
やがて耐え難い苦痛は鎮まっていった。
立ち上がった俺は賢者を見て笑う。
「今のは即死魔術だろ? クリティカルヒットだったが、俺には効かないぜ」
「化け物め……!」
賢者は憎々しげに吐き捨てる。
俺を仕留められなかったのがよほど悔しいようだ。
気持ちは分かる。
彼女は公式チートとも言えるような性能であった。
即死魔術はボスにすら通用する反則仕様だ。
相手によほどの耐性がなければ確定で決めることができる。
きっとこれまでの人生でも効かなかったことはない。
必殺の技が失敗してプライドが傷付いているはずだった。
(こっちもチートだからな。あっさり死んだら立つ瀬が無くなるんだ)
即死攻撃は『ファンタジック・スリル3』にも数多く存在する。
プレーヤー側には成功したか否かだけが表示される。
テキストウィンドウでそれだけが分かるのだが、実際のシステム上ではカンストダメージが与えられて死ぬのだ。
それにどんなキャラクターも耐えられないから即死攻撃と呼称される。
ところが俺は効かない。
チートによってHPが0にならないからだ。
どれだけダメージが飽和しようと関係なかった。
賢者が登場しても余裕が崩れなかったのはそのためだ。
まさかあそこまでの苦痛とは思わなかったが、死ななかったので問題ないだろう。




