第19話 チェイス
黄金のリムジンはアクセル全開で飛び出した。
甲高いブレーキ音を立てながらドリフトすると、通行人を撥ねながら大通りを爆走する。
大変なことになっているが、別に俺の知ったことではない。
たまにレベルアップしているのは、住人の殺害で経験値が入っているからだろう。
俺は車内の音楽プレーヤーを弄る。
つまみを回すと電子音のレトロなBGMが流れ出した。
これは『ファンタジック・スリル3』のタイトル画面の音楽だ。
それを少しアレンジしたバージョンである。
ややチープだが癖になる。
評判も悪くなかったはずだった。
プレイのたびに聞いていたのでよく憶えている。
俺は大音量の音楽を聞きながら気分よく運転した。
外からの怒声や悲鳴も良いアクセントになっている。
ここはゲーム要素の混ざった世界。
好き放題に暴れるくらいがちょうどいいだろう。
「さて、あいつらはどこだ?」
目を凝らせば、勇者が錬金術師を抱えて逃走するのが見えた。
数十メートルほど先をリムジンに負けない速度で走っている。
その姿はまるで忍者だ。
全力疾走で俺との距離を突き放そうとしている。
「どこに行くつもりだろうな」
俺は楽しくなりながら拳銃を引き抜くと、勇者達を狙って発砲した。
フロントガラスに穴が開いて、前方の住民が倒れた。
大通りだと人が多くて攻撃が当たりづらい。
まさか勇者はこれを見越して逃走ルートを選んだのだろうか。
だとすれば奴もなかなかの悪党である。
今度は住人への被弾を避けて撃った。
しかし弾丸は魔術の壁に阻まれる。
錬金術師が防御したのだ。
魔術師とポジションが似ている錬金術師は、使える術の系統が異なる。
ただし基礎部分は同じなので、銃撃くらいは簡単にガードできてしまう。
「面倒だな」
ぼやきながら俺はハンドルを握る。
リムジンは魔術の壁を突っ切り、衝撃でフロントが派手に凹んだ。
まあ、使い捨ての車両なので問題ない。
「意外と粘るじゃないか」
俺、肘打ちでフロントガラスを完全に砕き割る。
鼻歌混じりに通行人を轢いていった。
さらにレベルがいくつか上がる。
サイドミラーを見れば、赤いタイヤ痕が延々と続いていた。
だいぶスプラッターなことになっている。
アクセルを限界まで踏み込むと、リムジンが速度を上げていく。
直線で一気に加速して、ついに勇者達と並走する形となった。
勇者達が驚いた顔でこちらを見る。
俺は気さくに話しかけた。
「よう。いい天気だな」
返ってきたのは聖剣の刺突。
鋭い切っ先が俺の頭部を貫いてきた。




