第17話 逃げる
首なしとなった魔術師がよろめく。
俺が軽く押すと、鮮血を撒き散らしながら倒れた。
直後、背後から雄叫びが響き渡る。
「ウオオオオォォォォッ!」
振り向く前に、胸から聖剣の刃が飛び出した。
勇者だ。
怒り狂って後ろから刺してきたのだ。
その弾みで俺は血反吐を噴く。
「痛ェな。俺がガキなら泣きじゃくってるところだ」
嘆息しながら手を伸ばそうとして、既に右腕が肩ごと切断されていたことを思い出す。
仕方ないので身を捻って左手を伸ばすと、勇者は素早く離れた。
さすがの奴も即死攻撃は恐ろしいようだ。
俺が勇者に構っている間に、錬金術師も退避している。
回り込んで勇者のもとに合流した。
俺は欠損部分を再生させると、転がった二つの死体を指差した。
「どっちも首を吹き飛ばした。お前らもドカンといっとくか」
「くっ……」
勇者が錬金術師を庇いながら構える。
構えられた聖剣は凄まじい威力を誇る。
使い手のレベルに応じて性能が解放するのだ。
あれでまだ序の口といった段階であった。
ステータスを改竄できる俺でも容易に傷付けられる破格の武器だった。
(さすがはゲームの主人公といったところか)
やはり多大なる補正を受けている。
しかし、こっちはチートだ。
非正規の強さを持っている。
言ってしまえば、この世界で最も厄介な存在だった。
誰であろうと同じ土俵にすら立てないのである。
(さあ、どう動く。聖剣でゴリ押しか? それとも大人しく全滅するか?)
期待しながら待っていると、勇者が突如として踵を返した。
彼は錬金術師を抱えて疾走し、壁を切り裂いて飛び出す。
そのまま姿を消してしまった。
「あっ……」
取り残された俺は気付く。
勇者の選択は至極真っ当と言えよう。
すなわち戦いからの逃走であった。




