第122話 帰結
勇者が尻餅をついて倒れた。
夥しい量の出血が大地を染めていく。
もう起き上がってくる気配はない。
彼は力を使い果たしたのだ。
俺は鈍い頭痛を覚えて、自分の身体を見下ろす。
言うまでもなく満身創痍だ。
外見データの改竄を利用した再生機能を連打しても、やはり傷は治らない。
直前までに受けたダメージが大きすぎるのだった。
最強状態だった勇者の攻撃は、チート能力すら無効化した。
おかげで死にかけから復帰できず、苦痛を味わい続けなければならない。
「ったく……」
俺は近くに落ちていた石ころを最上級の回復薬に改竄し、次々と一気飲みしていった。
しかし効果は薄い。
じわじわと傷が塞がっているも気休め程度だ。
これも勇者の執念なのだろうか。
仕方ないのでその場に座り込んだ。
魔王剣を置いて、回復薬の空瓶を煙草に改竄する。
そして、出来立ての一本をその場で吸い始めた。
しばらく青空を眺めて呆けていると、すぐそばで掠れた声がした。
「僕は、もう……死ぬのか」
「ああそうだな。馬鹿な判断をしたせいでゲームオーバーさ。とっととくたばれ」
「……誰も、救えなかった」
「そうだな。全部お前のせいだ。俺を殺せる可能性は十分にあった。チャンスを捨てたのはお前自身だ」
俺は煙草をくわえながら非難する。
別に大した意味もない言葉だ。
倒れたままの勇者は小さく咳き込んだ。
呼吸がなんとか整った後、彼は痛みを堪えながら疑問を呈する。
「なぜあなた、は……邪魔を、するんだ。復讐ではない、はずだ……」
「勝手に決め付けるなよ。まあ、確かに私怨でやってるわけじゃないが」
俺は紫煙を吐き出しながら沈黙する。
短くなっていく先端を眺めながら尋ね返した。
「どうしてヒーローばかりが勝って、悪役が負けると思う?」
「何、を言って……」
「そういう物語だからさ。皆が勧善懲悪のハッピーエンドを望んでいる。応援していたヒーローが最終回で負けたら嫌だもんな」
逆張りした作品もあるが、それも所詮は"逆"なのだ。
王道ではない。
悪党の勝利を大多数は望んでいなかった。
だから善人が救われるし、悪事を為せば淘汰される。
俺はそんなストーリーが嫌いだった。
「悪役の完全勝利でほくそ笑むストーリーも悪くないと思うんだがね」
「あなたは……自分が、悪役だと……?」
「そりゃそうだろ。俺が善人を名乗ったら誰も報われやしない。クソな世界だよ本当に」
俺は投げやりに喚きながら笑った。
そして新品の煙草をつまみ取り、倒れたままの勇者に差し出す。
「どうだ。一本いるか」
「…………」
勇者で無言で頷いた。
彼はなんとかして上体を起こすと、煙草に向けて手を伸ばす。
その時、腹部に衝撃と熱さが走った。
「お」
俺はぽつりと洩らしながら視線を落とす。
無防備な腹には、魔王剣の切っ先が突き刺さっていた。




