第116話 犠牲の加護
(全員生還を目指すなら、ここで全滅して蘇生するのは避けたいだろうからな)
パーティーメンバーが復活すると、向こうの戦力が増える。
数の上には奴らが有利にとなる。
ただし残機を使い尽くすため、もう二度と蘇ることができなくなる。
先ほどの勇者の言い方からして、残機の数は本当に五つだろう。
無論、ブラフの可能性はある。
ただこういう時の勇者は、馬鹿正直に言ってしまいがちなのだ。
短期間ながら共に旅をしたので知っている。
嘘を利用とした戦いを不得手としているのだ。
そもそもあれが嘘だったところであまり意味がなかった。
俺が取るべき行動は大して変わらないからだ。
シナリオチャートが勇者死亡ルートに進むまで、目の前のこいつをひたすら殺せばいい。
途中で仲間が出てきてもあまり関係なかった。
むしろこの局面では勇者の足枷になりかねない。
残機を削りやすくなるので蘇らせてほしいくらいだった。
(さあ、何を考えている?)
俺は勇者を観察する。
黒魔導士と博士が与えたダメージは既に回復していた。
恐るべき再生速度だ。
俺と違って自前の身体能力だけでこれを実現しているのだから、正真正銘の怪物だろう。
ボロボロの聖剣は、勇者の力を吸って強度を維持している。
見た目は今にも折れそうなほどだが、実際はその状態で世界最強クラスの武器だ。
魔王剣と打ち合っても破損しない。
もはや勇者の手足の一部と解釈すべきであった。
(少し揺さぶっておくか)
心理戦での優位を築くため、俺は何気ない口調で喋る。
「一つアドバイスだ。加護が足りない状態でパーティーが全滅した時、勇者の蘇生は最優先される。死んだ順番は関係ない」
「……何だと」
「つまり加護が五つ未満での全滅は仲間の死を意味するってわけだ」
これは嘘ではなく、ゲーム版での仕様だった。
残機が足りなくなると、復活しない仲間が出てくる。
それでも勇者は最後まで蘇ることができるのだ。
もちろんゲームの主人公であり、シナリオ進行に関わるためだった。
そこは調整されているのだろう。
この仕様はおそらく異世界にも反映されている。
だから脅しではあるものの、決してガセネタではなかった。
勇者としては真偽を確かめたいところだろうが、その手段がない。
もし俺の言うことが正しかった場合、仲間が生き返れなくなってしまうためだ。
「覚悟しとけよ。一度でも死ねば、パーティーのうち誰かが欠ける。甘ったれた決意だけじゃ上手くいかないことを教えてやる」
息を呑む勇者を嘲笑いながら、俺は魔王剣を手に斬りかかった。




