第112話 悪意の本領
俺はコンパクトなスイングで勇者の脇腹を狙った。
反則的な能力を内包した刃は、カンスト越えの能力値でも防御は困難だろう。
再生能力を突破して大ダメージを与えられるはずだ。
破滅的な威力を秘める魔王剣を前に、勇者は一切の躊躇いを見せずに攻撃を続行してきた。
横殴りの斬撃を紙一重で回避し、タイミングをずらしてカウンターを叩き込んでくる。
脆いはずの聖剣が俺の顔面にかち割り、顎まで削いで切断した。
片目を潰された状態から、俺は魔王剣を振り回す。
勇者は至近距離で難なく回避してみせると、合間で斬撃と刺突を放ってくる。
俺も意地になって下がらず、致命傷を浴びながら反撃を試み続けた。
そこからは泥沼の攻防戦に突入した。
聖剣と魔王剣が超高速で翻っては互いに攻撃する。
ただし実際にやられているのは俺だけだ。
身体能力で劣るはずの勇者は、培ってきた技量で並ぶどころか凌駕してきた。
しかし、それで俺が死ぬこともない。
世界の法則を外れたチート能力は、世界最強の剣技すらも帳消しにする。
俺と勇者が血みどろの斬り合いを演じる一方、黒魔導士と博士はサポートに専念していた。
可能な範囲で能力を発揮して、少しでも形勢が有利に傾くように動いてくれる。
タイマンでは回避できたとしても、三人の同時攻撃を捌き切るのはほぼ不可能だった。
そのうち博士の毒が勇者の片脚を焼いた。
僅かによろめいたそこに黒魔導士の魔術が炸裂する。
そこに俺が魔王剣を振るうことで、勇者の片脚を斬り飛ばした。
コンマ数秒未満の隙だが、俺達はなんとか捉えることができた。
ところが、そこから勇者の行動は速かった。
欠損をものともせず、片手で地面を叩いて跳ねると、いきなり博士にタックルした。
さらに聖剣で首を貫くと、再生能力で生えかけた脚で蹴って引き剥がす。
「……っ」
さすがに驚愕した博士は、顔を顰めながら転倒した。
首の傷を毒で埋めて立ち上がろうとするも、そこに勇者が追撃を試みる。
「やめろ」
俺は入れ替わるように斬りかかったが、勇者は魔王剣を受け流した。
さらにすれ違うようにして駆けて再び博士に襲いかかる。
黒魔導士からの即死魔術も躱し、退避する博士に追い縋って執拗に仕掛けていった。
それを見た瞬間、俺は確信する。
勇者は戦略的な観点から仲間を削ろうとしているのではない。
俺がやったことを仕返し目的で実行する気なのだった。




