第111話 救世者の意地
俺は胸を貫く聖剣に肘打ちしようとする。
勇者はそれより早く引き抜くと、今度は首を刎ねる軌道で振った。
伸び上がるような姿勢から跳ね上がる斬撃は、お行儀のよい型から逸脱している。
「おっと、そうはさせねぇですぜ」
博士が口から毒を噴射し、飛沫を浴びた勇者の片腕が一気に腐敗する。
軌道のずれた聖剣は、俺の頬から上を斜めに分断した。
「ひはっ」
小さく笑った俺は再生しながら掴みかかる。
もちろん爆発属性のオマケ付きだ。
勇者は驚異的な速度で反応し、俺の両腕を聖剣で弾いた。
さらに博士に蹴りを当てながら退避する。
「逃がさないっすよ」
そこに黒魔導士が即死魔術を飛ばす。
勇者は左右の手で聖剣を持ち替えると、腐りかけの片腕を犠牲にしてガードした。
どす黒く変色した腕は粘液を垂らしながら朽ち果てるも、すぐさま回復を始める。
コンマ数秒で肌艶まで元通りになってしまった。
(クソッタレが。本当のチート野郎は勇者だったか)
俺は心の中で悪態を吐く。
勇者の成長速度は完全に箍が外れている。
一秒ごとに力が増している気さえした。
追い込まれるほどに真価を発揮しているのだ。
カンスト突破とは、システム的にバグった状態である。
そういった反則的な現象も起きてしまうのだろう。
博士や黒魔導士の即死攻撃ですら、通常ダメージと同等の威力になっていた。
こうなってくると、俺の爆発属性も致命打には至らないだろう。
一つの手段に過信すれば、手痛い反撃を貰う予感しかしなかった。
「さっさと死ね」
冷徹な声音で呟いた勇者が無表情のまま突貫してくる。
だらりと脱力したその動きは、構えとも言えないような構えだ。
しかし、今までで最も速かった。
現在進行形で勇者は己の限界を更新している。
(しかし、バグっているのは俺も同じだ)
迫る勇者に対し、俺は自らの中指を引き千切ってそのデータを改竄する。
中指を媒体に生み出したのは魔王の剣――ゲーム版において最強武器の候補に挙がる公式チートだった。
各種耐性や防御力を完全貫通し、常に全体攻撃となる優れものだ。
加えて、装備しているだけで毎ターン味方に全体回復の効果を発動してくれる。
さらにこの剣の攻撃力は、使い手の攻撃力と乗算した分まで跳ね上がる。
俺のステータスはカンストを突破しているため、そのパワーを魔王剣に反映させると超絶的な攻撃力となる。
いくら不死身に近い勇者でも、この一撃を食らえば死ぬだろう。




