第110話 勇者の独白
俺は勇者を指差して堂々と宣言する。
「今度は逃げるなよ。ここでぶっ殺してやる」
「…………」
勇者は沈黙していた。
様々な葛藤が瞳の中で揺れている。
しばらくして彼は、ぽつりと呟いた。
「あなた達は、この世界を見て何か思わないのか」
「何だって?」
「もうすべてが手遅れだ。魔王の侵略なんて関係なく滅びかけている」
「そりゃ半分はお前らの責任だろ。どこの誰を殺して経験値を稼いだのか知ってるぜ」
俺は皮肉交じりに指摘する。
この二週間で魔王軍を遥かに凌駕する被害を出したわけだが、それは何も俺達三人の手柄ではない。
対抗するかのように勇者パーティーが殺し回ってくれたおかげだった。
すると勇者は、何かを放棄した顔で述べる。
「僕達パーティーの手も血に汚れている。踏み込んではいけない領域に進んでしまった。目的と手段が破綻してしまったんだ」
「今更そんなことを言うのかよ。もしかして懺悔のつもりか?」
「違う。これは僕の決意表明だ」
勇者は脆くなった聖剣を構える。
そして、いくつもの感情を一つに束ねて殺意へと昇華させた。
「手遅れなのだから、僕は遠慮せずに力を尽くす。どうせすべてが滅びるのなら、正義の勝利で終わらせたい。ここで悪が勝つなんて、あまりにも馬鹿げている」
「おいおい、世界と心中するつもりかい」
「どちらが生き残っても人類を救うことはできない。この決戦は、互いの執念によるものだろう」
勇者は苦しみを堪えながらぼやく。
その一言を聞いた俺は思わず微笑んだ。
「――ついに諦めたな。チェリーボーイ、お前の負けだ。これだけ正義面をして暴れ狂いながら妥協を口にしやがった」
俺が拍手をしながら笑えば、勇者の眉毛と頬がピクピクと痙攣した。
まるで何かを耐えているかのように動きを見せている。
俺は辛辣な口調でさらに追及する。
「結局、お前は中途半端なんだ。民を殺して家族や幼馴染すら犠牲にできるというのに、肝心なところで詰めが甘い」
「……黙れ」
「図星でイラッと来たか? 正義を謳うなら諦めるなよ。世界をどこまでも救ってみろ。その気がないなら勝手に自殺して――」
そうして提案をしようとした時、勇者の身体が霞む。
気が付けば目の前に立ち、聖剣は俺の胸を穿っていた。
勇者は憤怒に染まった顔で宣告する。
「殺す」
「上等だ。かかってこいよ」
俺は血を吐きながら舌を出した。




