第109話 英雄の底力
俺は思考を切り替えると、少し遠くで攻防を繰り広げる勇者と博士を見やった。
「これであとは勇者だけだ」
「そうっすね」
応じる黒魔導士は、目や鼻から流れる血を袖で拭う。
彼女は賢者との一騎打ちでかなり消耗していた。
魔力だけでなく精神的な摩耗が激しい。
現在は分身を使っており、通常は本体にダメージは届かない。
おそらく賢者が何らかの細工をして対策してきたのだろう。
それでダメージが残っているようだ。
このまま無理をさせると死んでしまうかもしれない。
ところが黒魔導士の戦意は微塵も衰えていなかった。
彼女はここで休むつもりはないようだ。
凄まじい精神力である。
ルートによっては勇者パーティーの一員になることもあって、彼女は英雄的な気質を備えていた。
俺と組んだせいで外道じみているが、やはり根本は主人公陣営なのだ。
彼女の意思も尊重して、最後まで戦ってもらおうと思う。
(やはり残ったのはあいつか……)
勇者と博士は、白熱した殺し合いを展開している。
余波で地形を変えながら、互いに必殺の一撃を連発していた。
勇者は崩壊寸前の聖剣をさらに酷使している。
先ほどよりさらに速い動きで近接戦闘を演じていた。
対抗する博士は、肉体面の不利を持参の毒でカバーしていた。
変幻自在の奇策によって、どうにか差を埋めている。
しかし、差は徐々に開きつつあった。
勇者の身体能力があまりにも高すぎるのだ。
おまけに博士の毒が効きづらくなっているようだった。
この戦いの中で、勇者が耐性を獲得し始めているのだろう。
そのせいで博士が不利気味である。
いずれ攻防が決壊し、殺されるのは博士となるに違いない。
俺は呼吸を整える黒魔導士に指示をする。
「助けるぞ。援護してくれ」
「了解っす」
大地を蹴って加速する。
握っていた賢者の心臓を改竄し、持続ダメージを与える呪剣にした。
間もなく刃が発光する。
黒魔導士が術で強化してくれたのだった。
それを確認した俺は、背後から勇者に斬りかかる。
「おい、俺も構ってくれよ」
「…………」
博士を貫こうとした聖剣が、滑るように回転して俺に向かってきた。
それを呪剣で遮りながら刺突を強行する。
勇者は籠手で弾きながら回避し、さらに下から蹴りを放った。
膝を砕かれた俺は転倒するも、呪剣をマシンガンに変えて乱射する。
勇者は両腕で顔をガードしながら退避した。
その隙に立った俺は博士と並ぶ。
博士は頭を掻きながら苦笑した。
「すみませんねぇ。あっし一人で仕留めるつもりでしたが」
「気にするな。相手は強い」
俺は勇者を指し示しながら言う。
すぐに黒魔導士が合流したことで、俺達三人は世界最強の勇者と対峙することになった。




