第107話 横やり上等
賢者は俺を明確に拒絶していた。
最低限の力で振り払いながら、黒魔導士との魔術合戦に集中している。
(よほど二人で決着をつけたいらしい)
しかし、俺の知ったことじゃない。
妨害に次ぐ妨害で生きてきた異世界なのだ。
ここで躊躇うほどまともな感性はしていなかった。
むしろ、ますます水を差してやろうという気になってしまう。
魔力が暴風として俺を吹き飛ばそうとするので、四肢を地面にめり込ませて踏ん張る。
高熱に晒されて全身が焼けていくが、この程度の苦痛で怯むはずもない。
勇者パーティーを破滅させるためなら、どんなダメージだろうと耐えられる自信があった。
俺は低い姿勢から賢者を睨み付ける。
「魔術を使えるのはお前らだけじゃないんだぜ?」
そう言った直後にステータスを改竄した。
習得済みの魔術という欄に注目し、現在は白紙のそこにいくつかの術を追加する。
そして片手を賢者に向けて、手に入れたばかりの魔術を解き放つ。
現れたのは半透明の竜だ。
魔力で生み出されたその造形が瞬時に巨大化し、賢者へと襲いかかる。
「なっ!?」
賢者はすぐさま防御魔術を展開する。
しかし、俺の放った竜は即死魔術の一種だ。
黒魔導士と張り合いながら対処できる類ではない。
そこで賢者は、魔術のリソースを防御に全振りした。
黒魔導士への攻撃を中断して、俺の放った竜を食い止めにかかる。
本来ならそれでも止められない威力だろうが、二週間の狂気的な経験値稼ぎによって賢者は大幅にレベルアップしていた。
世界最高峰の魔術でも防げるだけの技能を身に付けているはずだった。
咄嗟の判断力も含めて、彼女はまさしく世界一の術者である。
だから俺は追撃を図る。
カンスト越えの身体能力を利用して賢者の背後に回ると、彼女の首に腕を回して拘束した。
手刀で胴体を穿てば、臓腑の絡んだ指先が賢者の腹から飛び出す。
「……っ」
賢者は大きく震えて、血を吐きながら振り向いて俺の顔を凝視する。
不意を突かれたことに驚愕しているらしい。
俺は舌を出して笑いながら告げる。
「よそ見してんなよ」
胴体を貫いた腕に魔術の炎を灯して、賢者を体内から焼き焦がしていく。
竜の魔術は完全に防がれて霧散したが、しっかりと囮になってくれた。
役目は果たしたと言えよう。
抵抗を試みる賢者を締め上げながら、俺は血だらけの顔でほくそ笑むのであった。




