第106話 魔術の頂点
俺は黒魔導士と賢者の攻防を観察する。
大質量の魔力が衝突し、地形の歪みがどんどん酷くなっていた。
空間もおかしくなっているのか、二人との距離が妙に遠く感じられる。
試しに進むと、引き込まれるような感覚の後に両腕が木端微塵になった。
すぐさま再生するも、やはり不規則に破壊されてしまう。
(近付くだけでミンチになりそうだ)
黒魔導士と賢者の術が、周囲一帯の空間を滅茶苦茶にしているらしい。
対策せずに踏み込むとダメージを負う状態と化している。
二人の拮抗した実力が構築した空間であった。
まるで手出し無用とでも言いがげな戦いだ。
しかしそうもいかない。
俺は黒魔導士のサポートをするために来たのだ。
両者は五分五分の殺し合いを繰り広げている。
ここで負けると士気にも関わるため、絶対に打ち勝たねばならない局面だった。
俺は再生を連打しながら、無理やり二人に接近し始める。
破滅的な性質を帯びた魔力が全身を削っていく。
一瞬で肉と骨が削れて血が蒸発する。
気の狂いそうな苦痛が絶えず爆発していた。
それを満面の笑みで耐えながら歩む。
異世界転移によるチート能力は完全に貰い物だ。
しかし、痛みを乗り越えるメンタルは俺自身の力である。
首を刎ねられてもバラバラにされても燃やされても決して曲げない精神力だ。
これだけは執念深い勇者にも負けていない。
俺は一歩ずつ着実に賢者へと迫る。
彼女は術の構成に集中していた。
俺の存在には気付いているが、今のところ反撃は飛んでこない。
きっと迎撃の準備はしているだろう。
俺はズタボロの肉体を進めながら拳を掲げる。
「のけ者にしないでくれよ」
「邪魔だ」
殴りかかる瞬間、賢者が冷徹に言い放つ。
彼女の足下から漆黒の光が照射されて俺の身体を切断した。
さらに接触面から体内が侵蝕されていく。
即死魔術だ。
しかも持続的にダメージを与えてくるタイプである。
本来、即死魔術に必要のない特性なので、俺のような不死身の敵を倒すために開発した魔術なのだろう。
(勇者の取り巻きも成長しているらしい)
その事実を身を以て感じつつ、俺は肉体を再生させる。
そしてへばり付いてくる漆黒の光を引き剥がして破壊した。
ダメージ空間に居座るだけでも大変なのに即死魔術を当ててくるとは、血も涙もない奴であった。




