第105話 毒々博士
女戦士の痕は、骨と装備のみとなった。
他はグズグズに溶けて異臭を漂わせている。
勇者が仲間の死を察知し、意識がそちらへと傾いた。
その隙に俺は斬りかかる。
魔剣の一撃に対し、勇者は片手で受け止めることを選んだ。
刃が彼の腕を垂直に切り裂いて、骨を削りながら進む。
そして肘で引っかかって止まった。
俺は剣を引き抜こうとして失敗する。
どうやら筋肉の引き締めで食い止めているらしい。
勇者は無事な手で聖剣を振りかぶった。
(不味いッ)
俺は咄嗟に魔剣を手離して飛び退いた。
両手が切断されて宙を舞う。
激痛に舌打ちするも、動きを止めることはない。
追撃を狙おうとした勇者が寸前で停止する。
彼の眼前を毒液が通過したためだ。
もし止まらずに動いていたら直撃していたろう。
横合いから割り込んで来たのは博士だった。
彼は破れた白衣の背中を見せながら、飄々と俺に告げる。
「ここはあっしにお任せを。旦那は黒魔導士のお嬢さんに助太刀してくだせえ」
「大丈夫なのか?」
「そう簡単に死ぬほどヤワじゃないですぜ」
博士は気楽な調子で述べる。
そこに勇者が斬りかかるも、彼は硬質化させた毒を盾にして受け止めた。
衝撃で数メートルほど地面を滑るが、世界最強の剣を防いでみせた。
それどころか、毒の盾に接触した聖剣の腐蝕が進んでいる。
「…………」
勇者は険しい顔をする。
闇雲に仕掛けず、じっくりと博士を観察し始めた。
俺にも攻撃したいが、博士が邪魔で敵わない状況なのだ。
(相性的にも悪くない。ここは任せてみるか)
そう判断した俺は疾走し、勇者のそばを駆け抜けて黒魔導士のもとへと向かう。
女戦士の残骸を踏み砕いて進んだ。
両陣営による魔術合戦は佳境に至っていた。
魔術師と錬金術師は既に倒れている。
血だまりを広げながら痙攣していた。
呻き声が聞こえるのでまだ死んでいないようだ。
ただ、このまま処置が施されなければ時間の問題だろう。
残る賢者と黒魔導士は一騎打ちを繰り広げている。
互いの間で術の干渉が連続し、不可視の力で地形を歪めながら争っている。
二人は目や鼻や口や耳から血を垂らしていた。
かなり消耗しているらしく、睨み合いながら新たな術を構築する。
どちらの術も完成する前に相殺されているので、そこまで派手ではないが凄まじい魔術対決であった。




