勇者(笑)
はーい! 勇者(笑)シュウちゃんです。
いまーうちわぁースネークに飲み込まれるところでーす。
(ギャルものAVだいしゅきって言ったらハヤトから汚物を見るような眼差しを受けたときの俺の表情で)
大蛇の体内にぬるりと入る。
じゅうっと服が溶ける。
あ、そうか! 蛇って唾液の段階から消化が始まるんだっけ!
あれ? 八岐大蛇って蛇? ドラゴン? まあいいや。
全属性無効がどこまでアテになるかはわからない。
さっさと終わらせねば。
つるんっと飲み込まれ食道を落ちていく。
俺は二振りの剣を振り回す。
体の内部を斬って斬って斬りまくる。
この程度は大蛇に挑んだ誰かがすでにやったこと。
傷はつけど反応はない。
だけど俺は感じていた。
関口さんから強奪した天叢雲。
それがどんどん強くなるのを。
無銘の刀に名を与えただけで神剣になった。
だとしたら勇者の名を与えられた俺は……?
いや違う。
俺の属性を与えられた「勇者」という言葉は?
ミッドガルドにおける「勇者」の意味が変わるのではないだろうか。
ってハッキングやないかーい!
発想が完全にハッキングやないかーい!
チートコードそものやないかーい!
メモリエディタでパラメーターいじってるのと同じやないかーい!
最強アイテム揃えるのと同じやないかーい
インチキの極みだろが!
世界のバグ悪用してるだけじゃん!
もうね、どこの世界の連中も儀式とか名前つけて正当化してるけど全てハッキングじゃねえか!
突っ込みまくるがそれ以上深く考える暇は与えられなかった。
食道がどんどん狭くなってくる。
俺の方がはるかに小さいから潰されるってことはなさそうだ。
だからこの辺でストオオオオオオオップ!
俺はつま先のナイフブーツをぶっ刺し、天羽々斬を突き刺しぶら下がる。
天叢雲は長くて邪魔なので収納っと。
俺……なんかぶら下がってばっかりだな。ぷらーん。
「さーってと攻略情報に頼るかな。酒の精霊よ! 純粋なる酒精の霧を作り給え!」
アルコールの霧が充満する。
普通にやったら俺も霧で酔っ払っていた。
だけど今の俺は全属性無効!
アルコール100%なんてこ、怖くねえぞ!
だけど変化はない。
「ですよねー! 吸収されるまで時間がかかりますよねー!」
だから俺は大蛇の傷口に空いてる手を突っ込む。
「ヴェノムいっくぞー!」
ヴェノムって言っちゃったから動物毒から試すか。
まずは蜂毒。
じゅるりと毒を注入していく。
すると体内が早く鼓動する。
ぐへへへ! 効いてる効いてる!
次に青酸。
でも即死はしない。
まー、デカいと効きが悪いわな。
人間が梅の種食っても滅多に死なないしなー。腹壊すだけで。
「じゃあ、こいつはどうだ?」
とっておきだ。
フッ化水素!
こいつは痛えぞ!
……あれ? 内蔵の痛覚ってどうなってたっけ?
まあいいや。やろっと。
全属性無効だけどナイフに毒のエンチャントして突き刺す。
直接触ったらだめなやつなので一応。
すると体内が激しく脈動する。
当然俺は揺れる。
慌てて両手で剣をつかむ。
「抜ける抜ける抜ける抜けるー!」
ぼよんぼよんと揺れ、苦しがっているのか首自体が大きく揺れる。
ドラゴンの背中より速度は遅いが首の揺れがエグい。
胃液がせり上がってくる。
「うきー! じゃあ定番!」
有機リンをぶち込む。
やってから気づいた。神経毒。
さらに揺れが激しくなる。
ずぼんっと剣が抜けた。ナイフブーツもだ。
胃液に向かってフリーフォールしていくううううううううッ!
らめ! 初飲み込まれは半裸のラミアお姉さんって決めてたのにー!
あ、真穂ちゃんに通報だけはやめてください。
「でえええええええええいッ!」
俺はナイフと剣を突き刺しなんとかしがみつく。
さらにナイフブーツを突き刺す。
すでにブーツの刃は酸で錆びてボロボロ。
手に持ってたナイフの方もじゅうじゅうと音を立てて溶けていく。
そろそろ危なそうだ。
二振りの剣は酸の影響を受けてないようだ。さすが神剣。
「危なかった。よくて全裸マンレッド。悪くて消化されるとこだった……」
おかしい……外で戦うのよりは楽なはずなのに、すでに何回か死にかけてる!
しかも地味!
ずるんっと服が破けた。
溶けてる! ちょ、溶けてる!
今のところ身には影響ない。
でもさすがに胃液にダイブするのは最後の賭けだ。
「古代の怪物の分際で! なめんなこら! 最強の毒物喰らえやコラァ!!!」
最後の毒物。
ボツリヌス菌だ。
作れる最大量をぶち込む。
するといきなり反応が変わった。
あれほど脈打っていた首から力が抜け、地に落ちていく。
激しく傾き首の肉の上に着地できたとき、俺は天羽々斬をしまい天叢雲を抜いた。
俺は刀が好きじゃない。
切れ味は鋭い。けど、最大威力で斬るには高度な身体操作が必要だ。
威力より命中率と手数重視の俺には難しい。
だがこのときは違った。
使い方自体は関口さんに習っている。
呼吸を整えて一気になぎ払う。
手応えはなかった。
だが雷が落ちたような轟音がし、外が見えた。
内部から一刀のもとに大蛇の首を斬り落としたのだ。
地面が見えた。
俺ごと首が落下していく。
「おどりゃああああああああああッ!」
首を足場にして飛ぶ。
大蛇の動きは鈍っていた。
軽く数万人が死ぬ量の毒と大量のアルコールを粘膜から吸収させたのだ。
殺せぬはずがない!
「風の精霊よ! 我に加護を与え給え!」
俺はもう一本の首へ飛ぶ。
そのとき俺は見た。
炎の怪物の表情。そこに浮かぶのは恐怖。
完全にパニックを起こしていやがったのだ。
俺はその首に斬りかかる。
半分切れるがまだ肉が見えた。
天羽々斬を片手で抜き、もう一撃!
首を切り落とす。
三本目が小刻みに震えていた。
神経がやられもう自分の意思では首をまともに動かすことができなくなったのだ。
炎もすでに鎮火していた。
俺は二本目の首から飛んで襲いかかる。
首の上に乗ると天羽々斬を突き刺し、天叢雲を構えた。
「八岐大蛇さんよ。俺もお前も日本神話のパチモンだ。同情するよ。恨むなら勇者を恨みな」
最後にしゅうっと声を出し八岐大蛇は動かなくなる。
俺はその首を一撃で切り落とした。
あとの5本も次々と斬り落とす。
着地すると辺りにはゴブリンやオークの死骸が転がっていた。
黒田と目が合う。
「ようバカ、待たせたな。次はお前の番だ」
もう仮面も失っていた。
弓もどこかになくしていた。
それでも俺は負ける気がしなかった。




