旅の終わり
自衛隊が到着した。
被災地入りしたのは震災発生から3日後のことだった。
視界不良と危険生物、さらには広範囲に及ぶ救助活動までこなしてやって来たのだ。
今の晴天から考えるに、おそらく火山の爆発は勇者の仕業だろう。
戦車や装甲車、各種車両も到着する。
上空にはヘリが飛び交い、飛行機の音もしている。
さらに日本全国の警察や消防もかけつける。
なんか星条旗も混じってるけど空気の読める俺は気にしない。
「もう法律とか構っていられない。使えるものは全部使う。終わったら責任を取ればいい」
という覚悟があるのだろう。
武器さえ揃えば現代の兵士は強い。
レベルなんて無意味だ。当たれば死ぬ。
八岐大蛇なんていう太古の化け物なんて俺が出るまでもない。……よね?
ボランティアはいない。危険すぎて制限されている。
例外が異世界の拉致されてた人々だ。
彼らは俺たちを助けに来た。
政治的な思惑は当然あるだろう。ないとは言わない。
それでも彼らは助けに来た。
もうあとは黒田さえ倒せばいいのだ!
そんな俺は……。
「シュウてめえ! 俺はまだ動けるぞ! なに勝手にリタイアさせてんだボケェッ!」
スマホ越しに汚っさんが怒鳴る。
通信回線復旧したらいきなりこれだよ!
「うっさい! 怪我する方が悪い! 大人しく裏方の仕事してよ!」
「あーあーあーあー! そういう態度! そういう態度な! おっさんのけ者にするんだな!」
「いい歳してすねるなよ! 意地悪してるわけじゃねえっての! 俺たちは裏方回っても役に立たねえけど、関口さんならそっちでも活躍できるだろ!」
「ケッ! わかったよ! 俺は都内に搬送されたからな! それと、満里奈が『何度占っても塔が出る。気を付けて』だってよ」
塔って、たしかタロットカードで良くないことが起きるって警告するカードだっけ?
逆さまだといいんだっけ?
うん、よくわからん。
「あとお前ら……有名人だぞ。テレビつけろ」
「ああん?」
テレビをつけると遠くから俺の戦闘を撮影した映像が流れる。
誰だ撮ってたの!
って自衛隊が流出させたのか。
顔がわからないようにちゃんと撮ってるしね!
しかも殺人シーンはカット。
ハヤトや関口さんも撮影されていた。
つけているのは装着するタイプのカメラっぽい。
画質が悪く見えるが、画質が荒いというよりは火山灰のせいでちゃんと撮れないだけのようだ。
公共放送では「自然災害」と放送し、民放では「尖った金属のようなものを持った集団によるデモ」とどこを向いているかわからない報道をしてやがる。
んで、専門家とかいうおっさんが解説を加えている。
俺たち以上のミッドガルドの専門家なんて世界に存在してないだろが!
で、よくわからん俺たちの行動を何もかも顔を真っ赤にして否定する。
なにもかも政府が悪いらしい。
何度聞いても意味がわからん。見るのやめた。
ケーブルテレビのワールドニュースも俺たちの話題ばかりやっている。
海外の方がまだ詳しい。ちゃんと「テロリストによる攻撃」と伝えている。
ただ俺が忍者で空手家でFBIエージェントでCIAエージェントでカンフーマスターで相撲取りで宇宙人らしい。
これ以上俺の属性を増やすな!
テレビを見終わると、俺は深く、深くため息をついた。
「まあ安心しろ。ケツは拭いてやる。俺にまかせておけ。もう作戦は立てた」
「さすが有能経営者」
「棒読みで褒めるな。だからお前は……派手に暴れてこい!」
「あいよー!」
通話終了。
「話は終わったか?」
すると治療を終えたハヤトがやって来る。
病院に運ぶ手はずがついたので治療はこれで終了。
今度は人間戦車の方で活躍予定だ。
「シュウ、俺たちを車で運んでくれってよ。富士山に到着したら人質奪還作戦。解放したら即退却。あとはミサイルで焼き尽くす」
「世界遺産の聖地なのに?」
「たとえ世界遺産を犠牲にしてもやつらは生かしておけない。だってよ」
「もったいない」
そうぼやきながら俺は車両に乗り込む。
自衛隊の人に案内されて緑色のトラックに乗り込む。
同乗者は自衛隊員。俺たちの護衛らしい。10人以上だ。
火山灰がやんだため俺たちはいつもの仮面をつけていた。
怒られるかなって思ってたけど、案外フレンドリー。
でかくて四角い顔のおっさんがニコニコ顔で話しかけてくる。
「民間人を逃がすために前線に出たんだって。二人ともよくがんばったな。もう大丈夫だ。俺たちが守ってやるからな」
たぶん……俺たち二人はおっさんの子どもくらいの年齢なのだろう。
発言が親目線である。
「あざっす」
ぺこっと頭を下げると隣の短髪で30歳くらいの隊員も話に混じる。
「ねえねえ、君たち進学? それとも就職?」
普通の話をぶち込んで来やがった!
「一応、進学予定ですけど国立受からなきゃ就職かなと。うちあまり金ないんで。自衛隊で雇ってくれませんか?」
我が家は出来のいい妹が私学である。
なるべく親に負担をかけたくない。
すると車内の視線が俺に集まる。
「なに言ってるのこいつ……」みたいな顔をしている。
ごほんとハヤトがわざとらしく咳をした。
「普通に考えて事件が終わったら、ほとぼりがさめるまで海外行きでしょうね。医学部に留学を希望します」
うん?
どういう意味?
俺が首をかしげてるとハヤトが額を押さえる。
「バカ……。身分を変えて日本にいるか、海外に留学するか聞いてるんだ」
なにその選択肢の少なさ!
「真穂ちゃんとドエロいキャンパスライフを送る予定なのに!」
「留学に決まってるだろが! つかシュウ、お前の希望は何系なんですかね!?」
「え……経済?」
「親が許しても国が許さねえわ! お前に化学系か医学部以外の選択肢があるとでも思ってるのか!」
「ぴぎゃー! じゃあハヤトは歌穂ちゃんどうすんのよ!?」
「同じ大学の芸術系に決まってるだろが! 風水師と組めば異世界への扉を開ける可能性を持ってるんだぞ! 研究対象に決まってるだろ!」
「モルモットイヤー!!!」
「モルモットでも人権あるだけマシだ!」
「戦う前に現実の洗礼浴びせるのやめてー!」
「あははははは! 面白いなあ!」
隊員の兄ちゃんが腹を抱えて笑う。
するとハヤトが兄ちゃんに向き合う。
「俺たちを試すってことは、それなりの地位の人と考えていいですね?」
「まあね。僕は自衛隊じゃないけど、ある程度権限を与えられてると思っていいよ。君たちは今まで関口さんに守られてたからねえ、直接話してみたかったんだ。日本のお偉いさんも、アメリカのお偉いさんも、どいつもこいつも普通だって言ってたけど……本当に普通だね……君ら」
「どういう人間だと思ってたんだよ」
「そりゃ勇者みたいな犯罪者予備軍に決まってるでしょ。やだー!」
ひどいやつである。
「怒るなって。人殺し万歳の人外魔境で生き残ったって聞いたらそういう可能性も考慮すべきなの。でも違うってわかったから僕からも普通の子たちで危険性はないって報告しとくよ。外でも見て落ち着いて」
外を見るとモンスターの死体だらけ。落ち着かねえよ!
ばーんっと遠くで爆発する音が聞こえる。
勇者どもだって本気になった軍隊に勝てるわけがない。
「あと数十分で目的地に到着するよ。儀式を担当する役所が言うには君らを連れて行かなければ日本が今後100年間大打撃を受け続けるってさ。僕としては死なない程度にがんばってくれるとうれしいかなー」
「儀式を担当する役所って?」
「ひ・み・つ」
ウザ! こいつうぜえええええええッ!
「それは冗談として、君の剣。これが終わったら国に納めてくれないかな? 役所が欲しがってるんだ。リアル神器だからね」
「……真穂がいいって言うなら。あと関口さんも」
「うんわかった。あとで許可を取るよ」
変なやつが一行に加わり旅はカオスになる。
そして俺たちは旅の終着点、富士山に到着した。
あと数話で完結いたします。
次は農業令嬢いくどー!
あと小林の爺さんのエピソードと俳優の目白っちは最後のフラグです。(ネタバレしても痛くないけ程度のスパイス)




