勇者の正体
助けに来た人たちの頭の上を凝視する。
するとレベルが表示される。
40~120まで幅がある。
やはりこちらでモンスター狩ってもレベルは上がるようだ。
装備は銃が多い。
そりゃ射撃の訓練を受けていれば銃の方が強いわな。
軍人や警察官じゃなければ普通の武器。
外国人の背がでかくてムキムキのおっさんが槍を持ってたりする。
防具はアメフトの防具だったり、セラミック入りの防弾チョッキだったりバラバラ。
頭部もアメフトヘルメットだったり、軍の鉄兜だったりしている。国や所属によって形状が違う。
日本人組は剣と盾。たまに弓。ハンマーやツルハシなんかもいる。
防具は作業着専門店の品が多い。たまにミリタリー。
その上から警察の防刃ベストを着ている。
兜は支給品の鉄兜やバイクヘルメットなど、要するに気分で決めている。
とにかく銃も弾薬も人手もそろった。
化け物相手の戦いにもなれている。
大義名分は我らにあり。
つまり俺たちは無敵だった。
暗い中、次々とモンスターを葬り去る。
鈴木建設一行はすぐに後方に誘導され、重機だけが残る。
だとしたら使うしかない。
ブルドーザーがゴーレムの足にワイヤーをからませて引っ張る。
さらに網やワイヤーをからませみんなで引っ張る。
「おーえす! おーえす! おーえす!」
どしんっとゴーレムが倒れた。
そしたらハンドブレーカーを持った連中がゴーレムの手足の外装を壊していく。
ズガガガガと小うるさい工事の音が辺りに響く。
外装が壊れただけで重いゴーレムは動けなくなる。
四肢を壊され動かなくなった頃、重機に取り付けられたジャイアントブレーカーがやってくる。
ジャイアントブレーカーは一台だけ。
壊さないようにトドメ専用で運用している。
胸と頭をジャイアントブレーカーで破壊。
あ、レベルが30上がった。
今までの苦労は何だったのかと言いたくなる。
でも仕方がない。
兵の数は防衛戦の数十倍。
しかも全員がゴーレムとも戦ったことがある熟練兵。
対モンスターに特化した集団戦の訓練も受けている。
対人専門の兵士と民間人ではそう上手く行かないのだ。
もうゴブリンもオークも恐れることはなかった。
俺たちはゴブリンとオークの死体の山を築き、ゴーレムを破壊しまくった。
怪我人は速やかに学校に戻り、自分で治療する。
重傷者はほとんどいない。
廃墟でコケて木の破片が腹に刺さったやつと、トラックにはねられたやつがいたくらいだろう。
それも笑い話程度の怪我だ。
取り残された被災者も数十人見つけた。
視界が悪い中じゃよくやった方だと思う。
最後の方は戦闘と言うより土木作業だったような気がする。
流れ作業でゴーレムを壊したり、家を壊して生存者と遺体を体育館に運んだり……。
体育館では戦闘員じゃない人々も仕事をしていた。
遺体を搬入し袋に入れて並べる。
悲しいことにみんな遺体にはなれていた。
それぞれの宗教で祈りを捧げ死者の記録を取る。
それ以外にも水や食料の搬入やら、怪我の治療やらも。みんな忙しかった。
ハヤトは民間人、特に重い怪我人の治療に奔走していた。
そして俺は休憩していた。
乾いたのどを名も知らぬメーカーのスポーツドリンクで潤す。
これ激安スーパーで68円で売ってるやつじゃん。
調達班が持ってきたコンビニのおにぎりをかじる。
ツナマヨの塩気が体にしみる。
ここが日本だと思えて手作りよりも安心した。
食べ終わるとため息をつく。
さすがにキツくなってきた。
だが敵は次から次へとわいてくる。
勇者も数人死んだせいか前線に出てこなくなった。
いつまで経っても終わらない状況になった。
ぼけっとしながら時計を見るともう昼頃。
一晩戦い続けたようだ。
噴煙はいったん収まり、空が見えるようになっていた。
「おい! テレビがついたぞ!」
ケーブルテレビが回復したらしい。
職員室のテレビが映るようになっていた。
テレビの画面に映るのは勇者たちの姿。
あいつらはネットが使えたらしい。
ありとあらゆるSNSに自分たちの勇姿を投稿していた。
焼き殺したり、殴り殺したり、拷問したり……楽しそうに笑ってやがる。
さすがにグロシーンはカットされモザイクだらけの画像が少しだけ流れてる。
イキリ倒したテロリストと同じ行動パターン!
「なんでこいつらここまでバカなんだろ?」
「いい加減気づけ。そういう人間が勇者になるんだ」
俺が口に出すとハヤトの声がした。
「患者はどうした?」
「休憩だ。それより話の続きだ。異世界に行ったから精神が病んだんじゃない。連中は狂ってるから勇者になれたんだ」
「はい? でもあそこまでバカじゃ使い物にならんだろ?」
「俺たちの世界じゃな。犯罪すら求められる知能が高い。でもミッドガルドなら? ミッドガルドには人殺しに罪悪感をおぼえないような連中が必要だった。やつらと殺人の親和性は高い。ある意味天才だ」
確かに俺たちは慣れただけで、人殺しの才能はない。
基本的に不愉快だし後悔する。
だから復讐だの奪還だのと大義名分が必要なのだ。精神の安寧のために。
だけど罪悪感が存在しない人間。タブーへの不愉快さを感じない人間は……殺しの天才なのだろう。
さすがに女の皮を剥いで飾るって発想自体がねえわ。
「やつは悲鳴をバイブスって言ってた。最初、俺はふざけてるんだろうと思った。だが違う。やつらには悲鳴が心地良い音楽に聞こえるんだ」
「あー……どうやっても協力プレイができない人種かー。そりゃハヤトの学校にはいねえわな」
協力プレイができないあのタイプは日本じゃ生きててつらいだろう。
法律で禁止されてることにしか才能がないのだ。
古代の戦なら英雄だったかもしれない。
いや三国志の時代には戦争も協力プレイ必須か。
1万年くらい前なら英雄になれたかも?
今の世ならただの社会不適合者か。
人生の大半を刑務所で過ごすことになる連中だ。
俺たちにはやつらの脳内は理解できない。
でも社会に確実に存在する。
やつらからすれば「なにもしてないのに社会が弾圧する!」って気持ちかもしれない。
無言でテレビを見た。
ハヤトも激安スーパーのスチール缶に入ったお茶を飲みながら画面を見ていた。
モザイクなしで黒田のスピーチ映像が流れる。
「アサシン、さっさとやって来い。じゃないと観光客を殺しちまうぞ」
政治主張もなにもあったもんじゃねえ!
純粋に殺戮を楽しむ姿があった。
だけど重要なのはそこじゃなかった。
バックに映るものがあった。
炎をまとった八つ首の蛇。
巨大怪獣と言っても過言ではないほどの大きさ。
それが富士山から現れた。
八岐大蛇って島根県じゃねえの?
……場所関係ないのか!
「ドラゴンスレイヤー、今度こそ勝負をつけよう。俺たち勇者が勝つか。お前ら雑草が勝つか。お前の悲鳴が聞けると思うと体が震えるよ。さあ遊ぼう! 賭け金は命だ!」
ぐちゃりとハヤトがスチール缶を握りつぶした。
「シュウ、ミッドガルドのドラゴンも人食いだった!」
「今までの殺人はドラゴン召喚のためだったってことか……」
次の相手は神話クラスのモンスターかよ!




