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おっさんどもの挽歌2

 放置された荷物の横を通り過ぎる。

 持ちきれない荷物が置き去りにされてる。

 俺は刀を抜き外に出る。


「兄ちゃん! どけ!!!」


 目の前をショベルカーが通り過ぎる。

 時速15キロの小型のやつじゃない。50キロ出る大型のやつだ。

 俺が兄ちゃんって年に見えるかよ! と、思った瞬間、目の前で大型のショベルカーがオークに突撃した。

 オークもショベルカーの真っ正面から体当たり、そのまま力比べをする。


「ぐおおおおおおおッ!」


 オークの体が後ろに押されていく。

 オークは顔を真っ赤にして雄叫びを上げ、ショベルカーをつかむ。

 そのまま持ち上げようとする。


「まずい!」


 俺は走った。

 すでに刀は抜いてある。

 居合? ありゃ最終手段だ。

 化け物相手じゃ普通に抜いてる方が生存率が高い。

 俺は当たり前の身体能力で当たり前の技しか使えないからな。

 オークは危険な生き物だ。

 ヒグマより力が強くて、イノシシ並のスピードを持った化け物が武器を使うのだ。

 そのヤバさはとてつもない。

 3倍の数で囲んで殺すのが定石だ。

 俺はオークの横に飛び込み腹を斬る。

 スパッと脂肪と筋肉が切れる。

 だが腸は飛び出してない。浅かったか!


「ぐおおおおおおおッ!」


 痛みに激怒したオークがショベルカーから手を離し俺に突っ込んでくる。

 それをひらりとかわし、上段から太ももへ刀を振り下ろす。

 ズバッといい音がした。

 オークの足から血が噴き出し太ももから変な方向に折れ曲がる。

 ……骨まで斬れたか。

 真穂の刀は化け物だ。

 当たり前の力で当たり前の攻撃。

 免許皆伝だ教授代理だと免状だけは多く持ってるが、古の達人と比べたら己のなんと凡庸なことよ。

 そんな俺でも化け物を骨まで切断できる。

 それが真穂の刀だ。

 当たりさえすれば斬れる。

 単純にして最強。

 俺は振り下ろした刀を下に構え今度は振り上げる。

 刀が肋骨を切断しながら上に向かう。

 そのままアゴから侵入し、鼻まで頭蓋骨を切断する。

 今度は倒れてきたところを首に一撃。

 頭を支える筋肉が切断されて、かくんと頭が傾く。

 そのまま倒れオークは動かなくなった。

 一匹仕留めるのに四撃必要かよ。体力的につらい。

 たった一匹を仕留めただけで息が切れる。

 あーあ、スタミナが足りねえ。

 呼吸を整えているとショベルカーからおっさんが降りてくる。

 高齢者に片足突っ込んでるダルマみたいな顔したおっさんだ。


「兄ちゃん助かったよ」


 おっさんがニコニコしながら手を振る。

 なんだろうか人なつっこすぎて年長者相手なのに敬語を使おうという気にならない。


「よく見ろ。兄ちゃんって年じゃねえよ」


 定期的に運動してるせいで若く見えるがこれでも40代である。さすがに「兄ちゃん」はねえよ。


「がははははは! 兄ちゃんの年ならうちじゃ若手だぞ」


「嘘だろ。そこまで高齢化進んでるのかよ」


「がははははは! 助かったぜ、ありがとな! でもあんた、地元のもんじゃねえんだろ? 逃げなくていいのかい?」


「気にすんなって。戦う理由があるってやつだ」


「理由か……俺たちは家族と地元を守るためだ。兄ちゃんはなんで戦ってるんだ?」


「人生の後始末だ。化け物を喚んでる連中を始末しねえと……死んでいった仲間たちに顔向けできねえ」


 異世界に散っていった大勢の仲間たち。

 俺は指揮官として彼らの命を守ることはできなかった。

 仕方のなかった死も、俺の判断ミスも、事故も、捨て駒にせざるを得なかったこともある。

 だからせめて彼らの故郷を……日本を異世界から守るつもりだ。

 これが俺の後始末だ。


「そうか。兄ちゃんもたいへんなんだな。前に行くんだろ? 送ってくぜ」


「視界が悪すぎる。事故ったら怖いからいいよ。自衛隊はどうなったんだ? こっちまで化け物が来てやがるけど」


「弾切れだってよ。今は猟友会と散弾銃で応戦してる。そんで俺たちは殺りそこねた化け物を重機で始末してるってわけだ。あやうく殺されるとこだったけどな! がははははは!」


 少し出遅れただけで戦況が変わっている。

 どんだけ敵が多いんだよ。


「ところで兄ちゃん援軍はいつ来るんだ?」


「今こっちに向かってるらしい。そんな時間はかからねえと思う」


 逃げた連中の保護が最優先だろうけどな。

 でも余計な事は言わない。

 俺たちには希望が必要だ。


「そうか。兄ちゃん頼みがあるんだけどな」


「やめろ死亡フラグたてんな!」


「千葉市に住んでる小林正治って……俺の息子なんだが……もし俺になんかあったら、父ちゃんは家を守ったって伝えてくれ」


「だからやめろって!」


「あと保険と農協の口座とタンスに現金……」


「帰ってから自分で言えって!」


「……頼む」


 ったく。どいつもこいつも……。


「わかったよ。でも絶対に死ぬなよ! もし死んだらあの世でぶん殴るからな!」


「がははははは! 兄ちゃん、おもしれえやつだな!」


「じゃあな。いいか! 絶対に死ぬんじゃねえぞ!」


「兄ちゃんもな!」


 俺は走り去る。

 本当にこういうのやめてくれ!

 ゴブリンの集団が見えた。敵は三匹。

 俺は斬りかかる。

 一匹目は袈裟斬り。

 ゴトリと体が落ちる。

 もう一匹は胴から真っ二つに。

 真穂の刀だからできる暴挙である。

 最後の一匹は頭に突きを入れてアゴを上げさせガラ空きになった喉を突き刺す。

 沖田総司の三段突きとはいかない。喧嘩殺法もいいところだ。

 勇者相手に通じればいいが……。

 あーあ、剣道もうちょっとちゃんとやってりゃよかった。


「せめて槍か薙刀持ってくりゃよかった」


 とは言っても真穂製の武器はこれしかない。

 無いものねだりか。

 それにしても……なんだか上手く行きすぎているようだ。

 俺はこんなに無双できる実力はない。

 本来なら戦闘員じゃないのだ。

 嫌な予感がする。

 その予感は的中する。

 ずしん、ずしん、と地鳴りがした。

 それと同時に火薬が弾ける音がする。


「ああクッソ!」


 それはゴーレムだった。

 猟友会が散弾銃をゴーレムに撃っていた。


「……相性が悪すぎる」


 とうとうお迎えが来たようだ。

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[一言] おっさん!どうか無事で!
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