劣化ウランの盾2
よく見ると両面宿儺はつぎはぎだらけだった。
ゴーレムに人間の皮膚が貼り付けられている。
それが木造アパートくらいの高さまで何枚も貼り付けられている。
それを見た瞬間、胃の奥から嫌悪感がせり上がってきた。
「てめえ何人の人間を使いやがった……」
許せねえ。ぶっ殺してやる。
俺の心臓が真っ赤に燃えていた。
「さあな? ……それよりも聞いてくれよ!」
すると坊主頭の勇者がスマートフォンを操作した。
ゴーレムの肩についているスピーカーから音がする。
「いやああああああああああああッ! 助けて! 助けて! いやああああああああッ!」
それは甲高い悲鳴だった。
それが激しいビートの曲にリミックスされている。
「どうだ? これな、ガキの皮を剥いだときの音だ! 最高のバイブスだろ!」
俺の脳内でぱーんっと音がした。
俺はシュウとは違う。
俺は冷静だったことはないし、戦略を立てることもしない。
俺の心はマグマのように常に怒りに満ちている。
いきなり暴力に満ちた世界に放り出されて奴隷にされた。
シュウのおかげで帰還し、復讐を遂げ元の世界の連中を解放した。
……と思ったら勇者のアホどもが大騒ぎ。
理不尽だ。
不公平だ。
なぜテメエらみたいなクズのために罪のない人々が苦しまねばならない?
なぜ踏みつけにされなければならない?
なぜ天はテメエらクズを優遇する!?
……俺は理不尽を許さない。
俺は悪を許さない。
意味もなく人を傷つけるお前ら勇者は悪だ。
たとえ神が存在していてお前らが絶対的な正義だと言ったとしても、俺はお前ら勇者を悪として断罪する。
俺は盾を前に構え、メイスを上段に構えた。
「ひゃははは! 大きさを考えろよ! バーカ! バーカ!」
ゴーレムが俺めがけて蹴りを放った。
俺はそれを盾で受け止める。
アスファルトが削れ、俺の足が道路にめり込む。
それでも全力で蹴りを受け止める。
「光の精霊よ! 我を護り給え!」
さらにバフ。
盾がきしむ音。
俺は敵が何者であろうとも一歩も下がってやる気にはならなかった。
下っ腹に力をこめて一歩踏み出す。
「あん?」
間抜けな声を上げたその瞬間、俺の怒りをこめたメイスをゴーレムの足に振り下ろす。
パンッと破裂音が響いた。
しゅうっと煙が上がる。
重さ、それは力。それは威力。それは破壊。
10メートルの巨人。
ゴーレムの足がごっそりと消滅していた。
簡単な話だ。
今の俺の腕力は戦車の装甲すら貫く。
俺はシュウとは違う。
派手な攻撃魔法は使えない。
人を護り、癒やすだけだ。
だが俺の拳は何よりも硬く、重い。
俺の拳はロケットランチャーよりも強い。
「お、おい、てめえ、冗談だろ」
ぐらっとゴーレムが傾く。
だが本当の最大火力はメイスじゃない。
俺はメイスを地面に置くと、盾を両手で持つ。
「ま、待て! 降参する! 降参するから! 助けてくれ! お前らは降参したら殺さないんだろ! なあ俺には裁判を受ける権利があるんだ! 俺を殺したらお前も殺人犯になるんだぞ!」
「うるせえ」
俺は盾を持ったままぐるりと回転した。
そして盾を思いっきりゴーレムに叩きつける。
バシュっと下半身が消滅する。
「クソ! クソ! クソぉッ! この人でなしが! おい化け物ども! こいつを殺せ! 囲んで切り刻んで殺せ!」
勇者の顔が恐怖で歪む。
俺はもう一度踏み込んで体を回転させる。
体重移動、それに全身の筋肉の力を盾にこめる。
「てめえは虫けらのように死ね!」
盾を振り抜いた瞬間、パンッと音がした。
盾を受けた勇者の体が弾け飛んだ。
さながら夏の蚊の如く。
血液と肉が飛び散り勇者の残骸がずるっと地に墜ちた。
俺はすぐにメイスを拾う。
それを見て化け物どもがビクッと震える。
「おい化け物ども……まさか生き残れるなんて思ってないよな?」
俺はニコッと笑う。
頭の中にレベルアップの音が鳴り響く。うるせえ……ミュート機能くらいつけろ!
血に染まった俺は嗤う。
悪は生かして帰さない。
化け物どもも……勇者もだ。
俺は化け物の群れに突っ込む。
バーサーカー。
それがもう一つの俺の名前だ。
シュウと組んでないときの俺は常にこうだ。
シュウにはクレバーなふりをしているが俺の本性は違う。
俺の本性は怒り。怒りそのものなのだ。
頭に血が上り、突っ込んでいく。
俺はゴブリンの頭をかち割り、オークの首をへし折る。
槍を持ったゴブリンが恐怖を貼り付けた顔で俺に襲いかかる。
俺は槍を盾でへし折りゴブリンの顔を蹴り上げ潰す。
すぐに後ろに振り返って別のゴブリンを腕で殴りつけてからメイスでぶん殴る。
さらに柄で別のゴブリンを殴りつけ、横蹴りをガードの上からオークの顔にぶち込み頭蓋骨を破壊する。
四体の化け物を肉塊に変えても俺は止まらない。
手を折り、足を折り、胴体を蹴り抜き、喉を指で突き刺す。
足で踏み潰し、メイスで潰し、蹴り殺す。
まんま名前の通りだ。
俺は狂戦士。怒りの化身だ。
どれほど戦っただろうか?
あたりに動くものが少なくなってきた。
すると突然、パーンッと銃声がした。
その音で正気に戻って音の方を見ると、自衛隊の隊員が天に向かって銃を向けていた。
「バーサーカー、一度撤退だ。何匹か学校に行ってしまった。助けるぞ」
「了解」
俺はメイスを血振りする。
ピシャッと血が地面に落ちた。
俺は肩で息をしていた。
どうやらキレてしまっていたらしい。
肘を守っていた防具はひしゃげていた。
仕方なく外して放り投げる。
膝当ても同じ。その場に捨てる。
周囲には怪物の死骸がうち捨てられていた。
後方には関口さんと重機チームがいるはずだ。
怪我人が出てなければいいが……。




