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劣化ウランの盾1

 あの……バカ……勝手に突っ込みやがった。

 俺の相棒であるシュウはこういうやつだ。

 あのクソバカ、ウルトラバカは自覚してないが生き残ったことに罪悪感を感じている。

 病名の診断を出す資格はないがPTSDじゃないかと思っている。

 その証拠にアメリカ軍のお偉いさんがカウンセリングを勧めてきた。

 同じような兵士を何人も見てきたのだろう。

 関口さんも帰ってきてからだいぶおかしい。

 異世界では明らかにアルコール中毒だった。それなのに今はほとんど飲んでない。

 おそらく死ぬ覚悟を決めてやがる。

 だめだ……俺が止めねば。

 殺す寸前まで殴ってでも止めねばならない。


 俺は外に置いた盾を回収する。

 ぶ厚くて重い、だが最先端の素材がふんだんに使われている。

 政府からの貸与品。

 これ一つで戦車数台は買えるらしい。

 借りにならないか関口さんに聞いたが「政府はお前と仲良くしたいだけだ」と言われた。

 さらに「政府はお前がいい子にしてる限り味方でいるつもりだ」と余計な一言もセットで。

 小さなガキみたいに扱われるのは正直ムカつくが、文句をつけたらそれこそガキである事を証明してしまう。

 いい子にするしかない。

 外では照明が煌々とグラウンドを照らしていた。


「兄ちゃん乗れ!」


 おっさんが叫ぶ。

 言われたとおりブルドーザーの脇に立ち乗りする。

 そのまま俺たちは門から外に出る。

 ゲーム的に言えば、俺は回復もできるタンク職だ。

 攻撃力防御力が高く、死からも遠い。だが鈍足だ。

 シュウのように速度重視の斥候と組むことで実力を発揮できるタイプである。

 今回の相棒は関口さんに自衛隊、それに重機。

 ……不安だ。


「太鼓の音が聞こえるぞ!」


「まだ大丈夫だ! 陣形を整えるのが太鼓。角笛で突撃の合図だ」


 モンスターの集団戦は単純だ。

 太鼓で進軍のスピードを調整し、角笛で突撃の合図をする。

 太鼓がなければ混み合って将棋倒しが起きる。

 角笛の方は矢の対策だ。

 矢は基本的に上空から降ってくる。

 だから矢が見えたら角笛を吹くのをやめる。

 すると兵士たちはそれを合図に木の盾に潜り込んで矢を避ける。

 矢が止んだらまた角笛。全速力で走る。

 ……つまりだ。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


 国道から火薬が炸裂する音がしている。

 花火とは少し違う焦げたにおいがする。

 マズルの光が見え薬莢が飛ぶのが見えた。

 設置された軽機関銃がゴブリンの体を容赦なく破壊する。

 自衛隊は圧倒的に強い。

 それはわかりきっていた。

 俺はブルドーザから飛び降りると盾を置いてバックパックに詰め込んだ火炎瓶を取り出す。

 中はガソリンや灯油を詰め込んだものだ。

 理科室にあった塩酸や硫酸、アルコールランプの燃料など使えそうな様々な薬品を詰めこんだ。

 こういうのは密閉が重要だそうだ。

 俺は火炎瓶に着火するとぶん投げる。

 本気になって投げるのはリトルリーグ以来だ。

 火炎瓶は弧を描いて飛んでいく。

 今の腕力なら砲丸投げで金メダルも難しくないだろう。

 火炎瓶は国道のはるか先にいたゴブリンに命中、次の瞬間爆発した。

 ガソリンの爆発でやかましい角笛が止まる。


「弾は!?」


 俺が怒鳴るとすぐに返事が返ってくる。


「まだある! バーサーカー、もっと投げろ!」


「了解!」


 次に爆発物を詰め込んだ瓶を投げる。

 中に釘やらボルトやらガラスの破片やらを詰め込んだものだ。

 ボンッと爆発音が響き悲鳴が上がる。

 圧倒的戦力差に見えるが実際は違うことを誰もが知っていた。

 じき弾は尽きるだろう。

 群れを殺し尽くすだけの弾はない。

 シュウは大事なことを忘れている。警察が全滅した理由。それは単純な話だ。敵の数が多かったのだ。

 数の暴力こそ単純にして最強なのだ。

 あくまで作戦の目的は撤退する非戦闘員の時間稼ぎだ。

 だが俺は口角を上げた。

 殺す。モンスターは皆殺しだ。一匹たりとも生きて帰すか。


「キシャアアアアアアアッ!」


 攻撃をかいくぐったゴブリンが襲いかかってくる。

 粗末な剣が俺の脳天に突き進む。

 ゴブリンの腕を片手で受け止め握りつぶす。


「ぐ、グギャアアアアアアアアアアア!」


「うるせえッ!」


 ゴブリンを上に放り投げ、落ちてきたところに蹴りを放つ。

 血を吐きながらゴブリンは群れの中に落ちていく。

 そのまま火炎瓶に火をつけぶん投げる。

 今度は灯油。火だるまになったゴブリンたちが悲鳴を上げた。


「冗談……だろ……」


 隊員も重機のおっさんもどん引きだった。

 だが俺は静かに言う。


「化け物は皆殺しだ」


 そうだ。

 シュウも関口さんも国家を憎んでいた。

 だが俺が憎悪しているのはモンスターだ。

 やつらさえいなければ俺たちが喚ばれることもなかった。

 モンスターは存在が悪だ。

 俺は火炎瓶を投げ続ける。

 攻撃すればするほど物資が減る。

 このままじゃじり貧だ。

 だがそんな状況は今まで何度もあった。

 楽しくなってきた。

 俺はシュウとは違う。

 自分を責めたりしない。

 悪いのはモンスターだ。

 俺はやつらを皆殺しにする。

 勇者も生かして帰す気はない。


 遠くで巨大な影が見えた。

 ゴーレムだろう。

 俺の出番だ。

 俺は走る。

 ゴブリンが襲いかかってくる。

 盾でなぎ払い、メイスでぶん殴る。

 鈍器はいい。

 剣みたいに面倒くさくない。

 当たれば骨を破壊し、敵は動けなくなる。

 盾もだ。

 重い盾でぶん殴れば敵は死ぬ。

 重ければ重いほど威力が上がる。

 中に重金属、劣化ウランを仕込んだ盾の味はどうだ?

 ゴブリンを蹴散らしながら走る。

 するとゴーレムが見えてきた。

 ゴーレムは四本の腕を持ち顔が二つあった。

 それは神話の怪物のような姿だった。


「来たか。愚かな下民どもが」


 坊主頭の同年代くらいの男がゴーレムの頭部に立っていた。

 シュウだったら「坊主? 少年院帰り?」と煽っていただろうが、俺はそこまで器用じゃない。


「どうだ? この両面宿儺(りょうめんすくな)は?」


 知らねえよバカ。


「あはは! ビビってやがる!」


 ビキッと頭の血管が脈動した。

 異世界で学んだことはシンプルだ。

 なめられたら終わり。すべて奪われるってことだ。

 そうか。そんなに死にたいか。

 俺はボキボキと指を鳴らした。

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