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 人口を遙かに超える化け物の群れ。

 すでに周りは囲まれていた。

 誰かの失態と言うには気象条件が悪く敵の数が多すぎた。

 未だに避難所の学校が全滅してないのは、勇者が軍の指揮能力を持っていないためだ。

 これに関しては勇者の悪口を言うのはやめておこう。

 いやあのね、軍の指揮ってね、本職でも下っ端何年もやって昇進して何度も訓練やってようやく満足にこなせるものなんだからね!

 超高等技術なんだからね!

 小隊でも難しいんだからね!

 部下のほうも基本的な戦闘技術を訓練して上官の指示を着実に遂行する能力があってようやくまともに機能できるんだからね!

 新兵は言うこと聞かねえわ、パニック起こすわ、逃げるわ、無謀に突っ込むわですぐ死んじゃうんだからね!

 何人も死んだからマジでわかる。

 俺が自衛隊にも米軍にも入りたくないのはまさにこれが原因である。

 自分の命は自分の責任だ。だけど二度と他人の命にまで責任を負いたくない。

 わかりやすく例えると……避難訓練!

 正しい避難って学校入ってから10年以上も数カ月に一回やっているからできるんであって。

 そうじゃないと我先に逃げ出して出入り口でつまって逃げ遅れるとか、コケて将棋倒しからの集団圧死とか普通だからね!

 というわけで指揮能力がないとか兵の練度不足は責める気にならない。

 すべてかつての俺へのブーメランになるからな!

 指揮作戦は自衛隊(プロ)に任せるとして、問題は訓練を受けてない一般人の重機組かな。

 逃げ出しても誰も責めないからね!

 もう一度索敵、俺たちを包囲する輪が狭まっている。

 学校は鉄筋コンクリートの壁の上には有刺鉄線が張ってある。

 なかなか堅牢である。

 門は一箇所。裏口なし。正門は大型ダンプで封鎖。

 完璧だ。


 ダンプが動き正門が開く。

 敷地内に駐車していた重機や大型車が次々と外に出る。

 俺はコキコキと首を鳴らした。

 はい準備運動。


「んじゃ指揮官殺して(・・・)くるわ」


 もう手段は選ばない。

 なるべくなら日本人を殺したくないけど、一般人に死人を出すくらいなら……殺す。


「俺も行く」


「だーめーでーすー。ハヤトは治療に集中」


 そう言うと俺は闇に消えた。


「あ、てめ! 逃げやがったな!」


 さーて、怖いハヤトは置いてバカどもをぶん殴らなきゃ。

 毒ガスは使えない。

 まだ潰れた家に閉じ込められた人とか人質だっているかもしれない。

 さらに可燃性のガスだと意図しないタイミングで火山灰が飛んできて俺まで火だるまだ。

 だから液体にする。

 武器に毒を塗る。

 毒の成分は自分でもわからん。

「とにかく凄いやつ」といい加減な指定をかました。

 ランダム効果の毒だ。

 ただしデッキは即死のみで構成。

 最初からやれって?

 いやこれやったらナイフ使えなくなるんだって。

 (シース)に入っててもこっちに毒来るかもしれないし。

 使い終わったら捨てるしかなくなるのよ。

 間違えて指で触って死亡とか嫌だ。


 勇者のバカどもは人間狩りだと思っていやがるだろう。

 でもやつらは獲物な。

 俺は偵察の時と同じように闇に紛れる。

 まずは太鼓を叩くオーク。たぶんこいつか近くにいるやつが指揮官だ。

 だからまとめて始末。

 背後からナイフでなで、そのまま闇に消える。

 オークが泡をふきながらいきなり倒れる。

 何事かと集まったゴブリンもナイフで傷つける。

 チクッとするだけ。

 殺気も何もないから俺に気づかない。

 ゴブリンが目からぶわっと血を流しながら次々倒れる。

 さーて、ここは終わり。

 他の部隊が集まってくるぞい。

 俺はさっさと逃げて次の太鼓へ。

 太鼓で指示する指揮官をなるべく減らす。

 部隊の指揮官さえ殺っちまえば人間より遙かに頭の悪い生き物だ。

 危険性は少なくなる。

 悲鳴すら上げさせない。

 あちこちで指揮官が生を終える。

 あー、しんどい。体力的に。

 毒ガスで砦を落とした方がはるかに楽な作業だ。

 さーってさらにぶっ殺していこうかな。それとも中央にいる勇者殺そうかな。

 と考えていると背後が明るくなった。

 照明弾だ。

 関口のおっさんのダミ声通信が入る。


「アサシン。学校側交戦開始。あちらさんの指揮はメチャクチャだ! あちこちでパニックを起こしてる!」


「太鼓叩いてるオークと近くにいる連中を殺った。死人出すなよ!」


「了解」


 通信から自動車が加速する音が聞こえる。

 重機が活躍しているらしい。

 背後からは火薬の音が響く。

 音が重い。軽機関銃かな? そういやでかい銃持ってたな。

 判別できないけど。

 国道からやって来たやつらはあっという間に肉塊と。

 よーし、テンション上がってきたぞ!

 俺は敵の中をコソコソ進み、またもや勇者に近づく。

 いたいた。間抜け。

 俺は矢に毒を塗り弓を引く。

 はい、勇者先生の次の人生にご期待ください。

 矢が10回打ちきり漫画の主人公みたいなツラした勇者に突き進む。

 あれ? もしかして警戒しすぎた? もしかして今まで一番雑魚なんじゃね?

 という油断が頭をかすめたそのときだった。

 チリッとうなじが逆立った。

 俺は身をよじりその場で飛ぶ。

 何もない空間から剣が出現するのが見えた。

 それはたったいま俺のいた場所を薙ぎ払う。


「気づかれたか」


 そこにいたのは大男。勇者はもう一人いたのだ。

 顔がピアスまみれ。スキンヘッドの頭はタトゥーだらけだ。


「新時代の育毛法か……」


「……ぶっ殺す」


 おっと心の声が漏れてたらしい。

 だって仕方ないじゃん!

 火山灰が降りしきる中だとタトゥーがバーコードヘアに見えるんだもん!

 俺は軽口を叩きながら、せめて一人殺したかともう一人を見る。

 だけど打ち切り勇者の前にオークが立ちはだかっていた。

 オークは目から血を流し死亡。

 殺り損なったか。

 バーコードタトゥーが大声を張り上げた。


「貴様がアサシンだな! 喰らえ! 正義の鉄拳を!」


 ボコッとバーコードタトゥーの体が盛り上がった。

 筋肉で服が破ける。


「我々を見捨てた政府に鉄槌を!」


「バカかてめえ? だったら国会議事堂襲えよ。なんで市民襲ってんだよ! 死ねゴミカス!」


 俺の罵倒にバーコードタトゥーがぷるぷる震える。


「うおおおおおおおおおおおッ!」


 いきなり吠えると殴りかかってきた。

 こっちはでけえの相手はなれてるんじゃいッ!

 大振りのフックが俺を襲う。

 俺はフックの下をくぐって避ける。

 ぐちゃっとゴブリンが潰れる音がする。

 俺は避けながらナイフを抜きバーコードタトゥーの脇腹に突き刺す。

 どうやったって俺の方が速い。

 えぐりながら引き抜き、さらに突き刺す。

 もう関係ない。

 脇の太い血管を斬り裂き、手首を斬り、腕の内側を斬りつける。

 腕の力を支える筋肉は内側に集中している。

 だからそこを斬ってしまえば腕は使えない。

 そして人体には筋肉じゃカバーできない急所があるんだよ!

 だらんと力を失った腕の下から脇腹を突き刺しまくる。

 一撃必殺?

 知らねえ言葉だな!

 さて喉を切ってから心臓を突き刺して、そのまま打ち切りの方に襲いかかってぶち殺せばこの戦いは終わり……。


「残念だったな! ヒール!」


 バーコードタトゥーの傷がみるみるうちに塞がっていく。

 うっわ! まずい!

 ぶんっとバーコードタトゥーの腕が俺に迫る。

 俺は自分から後方に飛んで衝撃を受け流す。

 数メートル飛ばされた俺は魔法を使うこともできずに身をよじって着地。

 おっとっと。たたらを踏むとゴブリンが一斉に襲いかかってくる。

 あー、ずりー! 無詠唱! ヒールって無意味なかけ声だろ!

 俺は剣を抜き周囲のゴブリンを切り捨てる。

 あー、くっそ!

 単純な仕組みだった!

 本当にヒーラーじゃねえか!

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― 新着の感想 ―
[一言] バーコード、やっぱりそっちか(笑)
[一言] ヒール一髪で傷と猛毒の二種類の異常が複数箇所あったのに一瞬で直したの? すごいな
[一言] なるほどヒールのヒーラーなわけだ ここまで回復力あると毒も治しちゃうのかな? ・・・めんどくさいチートだなぁ
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