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出陣前

 坂本さんから赤外線モード付き双眼鏡を渡される。

「なくすと懲罰だから絶対に返してね!」とのことである。

 クソ重い。小さい頃家にあったビデオカメラくらいの重さはあるかも。メモリーカードに録画するやつ。

 学校の屋上にある高架水槽の上に登って双眼鏡を覗く。

 肉眼よりはハッキリ見える。

 国道沿いに祭りの賑わいような行列が見えた。

 歩みは遅い。

 俺たちと同じだ。視界が悪く行軍が遅れている。

 倍率を上げると松明を持った怪物の群れであることがわかる。

 ゴブリンが主力かと思ってたが、巨大な怪物が太鼓を叩いていた。

 あの大きさ、オークだ。オークの指揮官が太鼓を叩き指令を出していたのだ。

 クッソ、ちゃんと指揮系統がありやがる!

 太鼓が歪んだ音を響かせる。あれ人の皮なんだよな……。

 指揮官を護るのは槍を持ったゴブリン。

 その後ろにはオークの集団が何かを担いでいた。

 俺は屋上から飛び降り闇に紛れる。

 一人ならいくらでも早く動ける。

 少し近づきマンションの高層階からやつらを偵察する。

 今度は双眼鏡のノーマルモードで確認。

 松明を持ったゴブリンが脇を固めるその中央に神輿が見えた。

 何匹ものゴブリンがうやうやしく神輿を担ぎ上げている。

 その神輿には人間が乗っていた。

 白い特攻服の上から鎧を着用。

 鎧で全部は見えないが、なんとか連合って書いてある。

 暴走族ってまだ絶滅してないんだ……。

 それだけでも狂っているのに頭につけたサークレットはドラゴンをあしらっている。恥ずかしくないのかな?

 髪は白に近いマッシュヘアの金髪。

 大学にいそうなチャラ男。自分は陽キャのつもだりだけど便所でメシ食ってそう。

 圧倒的「女子に媚びてモテようとして失敗した」感。

 横にルーン文字の彫られた西洋剣を置き王者の如く偉そうに座っていた。

 一番最悪なのは神輿の後ろ部分の装飾。

 生首だった。女の生首がいくつも並べてある。

 本人は冗談みたいなビジュアルだというのに、それだけでここが地獄だとわかる。

 よく見るとゴブリンの持った松明も切断した人体に火をつけたもの。

 そして胴体には警察の制服の残骸が貼り付いていた。

 今までバカ勇者を何人も見てきたが最悪のさらに先を走る外道がいた。

 俺は闇に紛れて学校へ戻る。

 ハヤトが校門で待っていた。


「ハヤト、あと30分くらいで汁●優の集団がこの例のプールにやってくるぜ」


「……なるほど。勇者がいたんだな?」


 下ネタから真実を当てる……だと!

 なんて察しがいい! 貴様は俺の嫁か!


「あー……なんというか女の生首飾ってふんぞり返ってた」


 ハヤトが無言になる。

 最低クソ野郎グランプリは日本側の勝利のようだ。

 毒ガスで皆殺しにしてやりたいところだが市街地でやれるはずがない。

 玄関に入ると坂本さんは鈴木のおっちゃんと言い争っていた。


「だから早く避難してください!」


「囲まれてるのにどこに逃げるってんだ! それにあんたらだけじゃ無理だ! 俺は見たんだ! 警察が銃を撃ってもやつらは平気だった。やつらには銃は効かない!」


 俺もハヤトも首をかしげる。


「なあハヤト、矢が効くんだから銃もオーケーだよな」


「普通に撲殺できたぞ」


 興奮したゴブリンの腹を刺したらそのまま棍棒振り回してきたことはあった。

 でもアサルトライフル相手じゃそれは無理。蜂の巣だ。

 身体中の腱が切れるか、脳味噌ぶちまけて停止するだろう。

 ゾンビとして蘇生するのだって無理だと思う。

 そもそもゾンビは遅くて頭悪くて弱い。

 嫌がらせか肉の壁にしか使えない。

 もし噛まれた人間がゾンビ化するのなら人類は初期文明以前に滅んだことだろう。

 記録によると魔法で死体を無理矢理動かしているだけである。

 基本的に血抜きするか、心臓潰しておけばゾンビとして復活しない。

 そもそも生き物は血液がないと動けないという単純な仕組みである。

 じゃあスケルトンはどうなのよって話になるけど、そっちはゴーレムの仲間。

 嫌がらせで死体をゴーレム化してるだけ。

 軽くて脆くて弱い。

 ダンジョン初心者ならパニックを起こして犠牲になるかもという程度の存在だ。

 つまり自衛隊が負ける要素が全くない。


「坂本さん! 援軍は?」


 俺たちの言葉に坂本さんは渋い顔をする。


「今向かってる」


「だから俺たちも戦うって」


 鈴木のおっさんの男らしい発言。

 こうかはばつぐ……なわけがない。


「民間人に戦わせる気はない! 君たちもだ!」


 俺たちまで民間人認定。

 やはり勝手に突っ込んだのを苦々しく思ってたようだ。

 でも言わせてもらう。


「死ぬよ」


「ゴブリンには勝てた。他の化け物も銃で殺せるんだろ?」


「化け物の中に勇者がいた。女の生首並べて警官の死体を焼いてたよ」


 まあ突っ込んでみればわかるよね。


「つうわけで行きますわ」


「待てアサシン!」


「え? アサシン!?」


 俺のコードネームを聞いた瞬間、鈴木のおっちゃんが声を上げた。


「ちっーす。おはようからおやすみまで勇者をぶん殴るアサシンです。鈴木のおっちゃん、俺がグラビアアイドルってことは内緒だよ♪」


「お前のグラビアなんぞ真穂しか期待してねえ!」


 ハヤトはちゃんとツッコミを入れてくれるいいやつ。

 スルー&放置プレーが一番つらい。

 さて、と。相棒連れて行くかねえ。

 関口のおっさんは置いてこうっと……と思ったら関口のおっさんが来た。


「無線でお偉いさんに話通したぞ。俺らは作戦参加。鈴木さんのチームも希望者は参加。ただし責任は取らん」


「おう、あんたわかってるじゃねえか!」


 バンバンとおっさんどうしが肩を叩きあう。


「おう。でも鈴木さんよ、いいのか? 帰ってくることまでは保証できねえぞ。そこまでして戦う理由なんてあるか?」


「おう金持ちさんよ、自分の街を、家を取り戻す。それ以上理由なんて……いるか?」


 するっと関口が「くっくっく」と悪役笑いをもらす。


「いらねえな」


 お互いを認め合ったのか、おっさんたちはそのまま肩を組んで外に出る。

 うっわ、汗臭い男の友情だよ。

 俺とハヤトもついて行く。

 ショベルカー、ブルドーザー、ダンプカー。鈴木土建の文字が見える。

 外ではすでにおっさんたちが重機に乗り込んでいた。

 それだけじゃないトラックや農業機械まである。

 猟銃を持ったおっさんも待機。

 鈴木のおっちゃんが男たちの前に出る。


「俺たちは一度警官を置いて逃げた。それは大きな間違いだった。今度は俺たちが戦う。逃げてもいい。責めたりなんかしねえ。俺たちが時間を稼いでる間に女房子どもと一緒に逃げてくれ。守ってやってくれ」


 そう言ってぺこりと頭を下げた。

 なんかやる気出ちゃったわ。

 アホの極み腐れ勇者を見た後じゃ余計にテンション上がる。

 やはり日本は好きだ。

 ふふっと笑みをこぼすと俺は姿を消した。

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