学校
コンバインの如きノロノロ運転で重機とトラックのキャラバンが走る。
本当にママチャリくらいの速度だ。それほどまでに視界が悪い。
暇なのでトラックのコンテナの中から探知を繰り返した。
途中生存者はいなかった。逃げたのか……それとも死んだのかはわからない。
15分ほどで目的地に到着。
コンテナのドアを開けてもらい、物資の搬出を手伝ったあとで外に。
「すげえ……」
学校はトラックで入り口を塞ぎバリケード代わりにしていた。
学校の壁を見ると鉄筋が剥き出しになっている箇所がある。
大きなもので殴りつけたようだ。
襲撃を受けたに違いない。
校庭にはガタイのいいおっさんたちがバット片手に警備してた。
おっさんたちは演歌を聞きつけ走ってくる。
「鈴木! まだ食い物あったか!?」
「おう、あったぞ! それと自衛隊も拾った!」
坂本さんたちが前に出て役所の人と話し合う。
俺たちは荷物の運び出しや怪我人の収容を手伝う。
体育館には被災者がいるとのことで保健室近くの空き教室に意識のない怪我人を並べる。
「はーいハヤト先生!」
「わかってる!」
二人で治療開始。
命が危なかった人と歩行に問題のある人はすでに治した。
あとは肋骨とか腕とかの骨折を治療する。
脱臼は俺がはめてからハヤトがヒールをかける。
あと刺さったものの除去とかな。
これだって本来は正規の教育を受けてないのでアウトだ。
でも今は仕方ない。異世界ダンジョン流の治療だ。
「いでッ!」
「いたたたた!」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
反応は人それぞれだが悲鳴は一緒。
痛みだけは薬に頼るしかないけど動けるだけマシだろう。
それにヒールで治療後しばらくすれば痛みはなくなる。
だからヨシッ!
しばらく悲鳴が響くと何事かと人がやって来る。
治療が発覚すると人が押し寄せてくる。
これにはびっくりした。
「は、ハヤト、何人いるんだ!?」
「数百人はいるだろよ! オラ、包帯巻け!」
……可哀想な僕ちゃん。包帯巻くの得意だけどさ。
関口のおっさんが血相を変えてやってきたので医療物資の運搬を押しつける。
しかたないので実習中に被災した自衛隊関連の学校の生徒と偽って怪我の応急処置だけする。
最近、嘘がさらさら出てくる自分が怖い。
怪我人多数であっと言う間に行列ができる。
そしたら自衛隊の隊員と歯科技工士やってるお姉様まで加わってカオスになった。
ハヤトは最終確認係という意味不明な役割にしてヒールをかけさせる。
光っているのは目の錯覚だと強引に説得。
なんかスマホで撮影されてるけどもう知らね。
応急処置はある程度やってたけど薬品や物資が足りなかったようだ。
治療されてない人も多かった。
なので俺は荷物を取りに行くように見せかけて精製水や石けん、消毒薬を作る。
水とアルコール、それに毒物から作れるものならすぐに作れる。
塩素系の薬品とかね。戦闘特化の自分が憎い。
カートに載せた精製水を持っていくとハヤトが治療をしていた。
「シュウ、脱臼だ。はめてくれ」
「うーっす」
こういうのだけは俺の方が上手い。
すると肩を外したおっさんがぼやく。
「兄ちゃん学生だろ? 大丈夫なのかい?」
「そいつ古流柔術やってるんで関節はめるの上手いんですよ」
ハヤトの口からスラスラと嘘がひねり出される。
お前も同じ流派だろが! しかも古流じゃねえ!
今日だけでも俺たちは嘘のスキルに大量の経験値が入ったような気がする。
「はーい。いち、にい、さんではめますよー」
「2ではめるんだろ? 知ってるよ」
「いち!」
ぼきり。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
はい俺の勝ち。
「痛み止め飲んで休んでてくださいね。あとでちゃんと病院行ってくださいね」
「くっそ、いてててて。でもありがとな!」
「うす!」
戦場仕込み。いますぐ動けるようにするための技術だ。
長期的には体に悪いかもしれない。
ちゃんと医者に通ってもらおう。
横を見たら関口のおっさんは高齢者を整体してた。
俺の治療も関口のおっさん直伝だ。
効果だけは保証できる。
結局、治療が終わったのは夜中。
夕食は自衛隊の戦闘糧食。ミリメシである。
食中毒で共倒れにならないように同じ食事をとらないそうで。自衛隊の高校所属って嘘ついた結果がこれだよ!
関口は暖かいカレー。急遽作った簡易竃で直火調理である。
いや戦闘糧食美味しいんだけどさ! やっぱ違うじゃん!
あとでお高いお寿司を奢らせてくれる!
最後に血まみれの布の山を洗浄せねば。
自衛隊は避難した人たちの名前や住所を把握したり、無線で本部に報告したりと仕事が山積みなのだ。
動ける人たちは夕食の後始末やゴミの整理をしている。
俺たちは洗濯係っと。
家庭科室で血まみれの布を石けんで洗ってから熱湯で消毒。
鍋は無断使用。
電気もガスも止まっているので魔法でお湯を沸かす。
「シュウ。今日はお前の便利さがよくわかった」
洗濯物を紐にくくりつけながらハヤトが一言。
「ふはははは! 俺に感謝しろよ! ハヤトくん!」
世界よ! もっと俺を褒めろ! 俺を崇めるのだー!
「いつもならツッコミを入れてやるところだが……いつも感謝してるよ」
ハヤトがパンッとタオルを振って紐にかける。
「お、おう、ずいぶん素直だな」
「まあな、死んだら感謝も口にできないからな。生きてるうちに言っておこうと思っただけだ」
「……死亡フラグ建築して遊ぶのは俺だけの特権よ?」
「言わなきゃよかった」
ギリッと奥歯をかむ音がした。
イライラしてらっしゃる!
ここはフォローしておこう。
「悪かったよ。俺もハヤトがいなきゃとっくに死んでたよ。ドラゴンとの戦いとか」
「だな。感謝しろ」
しばらく無言。
すぐに黒田と戦って終わるかと思ったがすでに二日目が終了してしまった。
たった10キロしか進んでいない。
俺たちはスーパーソルジャーなんかじゃないと思い知らされる。
それでも俺たちは進むしかない。
洗濯が終わると就寝。空き教室で持ってきた寝袋に入る。
固い床がダンジョンを思い出す。
どうやら疲れていたらしい。すぐに意識を手放す。
そして校内放送で飛び起きる。
「敵襲! 敵襲! 敵襲!」
トラックで送ってくれた鈴木のおっちゃんの声で飛び起きる。
時計を見ると午前三時。
すぐに装備を調える。
寝癖はスルーして下駄箱のある玄関に行く。
「いいか! 重機ぶつけて追い払え! 心配するな! 今度は自衛隊もいる! ぜったいに生きて家族のもとに帰るぞ!」
異世界で何度も聞いた台詞だ。
だから意思を無視して涙が流れた。
俺はマスクを付け外に出る。
外では調子外れの太鼓が鳴っていた。
ゴブリンか? オークか?
やつらの太鼓はある程度の数がいて、しかも統率されているという意味だ。
太鼓の音で兵に命令を出すのだ。
演歌を避けたのは太鼓の音が聞こえなくなるのが嫌だっただけだろう。
アイデアとしてはアリだと思う。
俺は風の精霊を使い索敵をした。
軍勢に囲まれている。
敵が学校を目指して進軍していた。




