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奪還

グロ注意!

 最初に断っておく。

 グロ注意。

 だって黒田の野郎……あのクソ野郎の軍勢の先陣を切る槍兵の穂の先……。

 そこには逃がしたはずの王子と王女の首が串団子のように……これ以上の説明はしないからな!

 あーあ、これでまたしばらく悪夢にうなされる。

 あれで喜んでいるのが同じ世界の人間だとは思いたくない。

 だけど黒田たちは心底楽しんでいた。

 愚か故に自分のしでかしたことを罪と考えない。

 これくらいアホだったらさぞ世の中楽しいことだろう。

 俺とハヤトは無表情で黒田の軍勢の前に出る。

 とりあえずあいつらを殴るのは日本に帰ってから、帰ってから、帰ってから……我慢だ俺!

 黒田軍団の中では将校クラスなのかソフトモヒカンの男が下卑た笑顔で馬から下りてくる。

 時代錯誤なヤンキー!

 まだ日本のどこかで生きてたのね!

 そのまま俺の前に来るとメンチを切る。

 あ、古の時代から伝わるヤンキー用語で「睨みつける」という意味ッス。


「俺たち勇者が悪を退治しげぶらッ!」


 はい、我慢できなかった!

 気が付いたら全力フックをバカの顔面にねじ込んでいた。

 ハヤトも同時にサイドキックを腹にぶち込んでいた。

 勇者と書いてクズの集団が一斉に剣を抜く。

 ヤンキー率高いなゴミども!

 どうやったらこんなにヤンキー集められるんだよ!

 絶滅危惧種集めすぎだろ!

 よっし絶滅させたろ。


「やめろ。いまは俺たちが悪だ。なあアサシン!」


 声がした。

 馬に乗った男。

 悔しいことに今すぐホストで活躍しそうな美形の男。

 わざとらしい銀のメッシュの入った紫色の長髪の男が俺のコードネームを出す。

 黒田だ。派手になってやがる。


「アサシン、人質を取り返して気はすんだ? おめでとう。この世界はまもなく滅亡するよ。君のせいで」


 滅びる?

 ふわっとした表現だ。

 国が滅ぶのか人類が滅ぶのか?

 宇宙が滅びる……はねえな。

 要するに詐欺師の常套手段である。

 言葉に意味なぞない。


「俺たちには関係ない。お前らにもな」


「ハッ! かわいげのないやつだ! だが骨はある。どうだ? 俺たちと組まないか? 国を手に入れよう! お前にだったら……そうだな……世界の半分をくれてやる!」


「イラネ。ネットもねえ世界で生きてくとかバカじゃねえの? 俺はこれから日本に帰るの!」


「そうか? お前は飢えているはずだ。闘争、破壊、殺戮。人間の望むものがここにはある」


「ばーか」


 小指を鼻の穴に突っ込んで思いっきり感じ悪く言ってやった。

 俺が望んでいるのは安定、怠惰、低ストレス、いちゃらぶである。

 それ以外いる?

 小学生のように舌を出してベロベロしているとハヤトが俺の肩をつかむ。


「黒田……こいつを説得するのは無駄だ。お前と違ってシュウは何も信じてない。神も正義も自分すらもな。お前と愉快なバカどもは自分を特別だと思ってやがる。特別だからなにしてもいいってな。幼稚園児かてめえら!」


 ハヤト先生。幼稚園児に失礼だと思うのよ。

 黒田は気持ち悪い笑みを浮かべる。


「ああ、わかったよ。俺たちはわかり合えない。じゃあ……殺し合おう。お前の大好きな日本でな」


「勝手にやってろ。警察と一緒に追い詰めるだけだ」


「警察ごときに俺が捕まるとでも? 見たぞ、基地を壊滅させただろ。なぜその力があるのに警察なんぞを恐れる?」


「国家を敵に回して勝てるわけねえだろ」


「お前は国家に勝利した。ドラゴンの死体がその証拠だ」


 おかげで死にかけたんですけどね!

 日本がこんな甘いはずねえだろ!

 夜討ち朝駆けミサイル戦車毒殺なんでもありだぞ。

 本気になった日本に勝てる気しねえわ!

 自衛隊ならこんな駄ドラゴンなんぞミサイルワンパンで終わりだぞ!


「冷笑しているがいい。俺は世界の王になる」


 思いっきりバカにしようと思ったところで声が聞こえる。


【ミッション達成。おめでとうございます。拉致被害者を救出しました。これから帰還希望者を転送いたします。アサシン。システムからも心よりの謝意を送ります。あなたこそ真の勇者です。】


 待て! 黒田をこの場でぶっ殺すお仕事が! ねえ待って!


【黒田討伐ミッションは継続します。どうかご武運を。】


「聞けよシステム!!!」


 と叫んだ瞬間、いつもの秋葉原に俺はいた。

 隣にはハヤトと真穂。

 アジトじゃない。

 リスポーン地点が狂ってる?

 よかった! 私服にしておいて! アサシンの格好だったら詰んでた!

 次の瞬間、スマホが鳴る。関口のおっさんだ。

 慌てて出ると関口が焦った声を出す。


「おい! 無事か!」


「無事だ! なにかあったか?」


「無事ならいい。なぜか俺だけ二時間前に転送された。よく聞け、今すぐニュースを見ろ」


「ああん? ハヤト、真穂、ニュース見ろって」


「了解……って総理大臣とアメリカ大統領が演説してるぞ」


「いまから黒田に国を渡しますって?」


「いんや、お前を褒め称えてる」


「はい?」


 額にしわを寄せるとハヤトと真穂がスマホを押しつけてくる。

 画面の下の方に「政府が異世界の存在を認める。拉致被害者は世界で約百万人。アメリカ大統領が仮面のヒーローアサシンに謝意を表明。」のテロップが。


「うそだろ……」


「いま迎えに行く! 頼むから目立つなよ!」


 通話を切られる。


「まあ、予測はしてた」


「なんでー!」


「俺たちが帰ってきたときも時系列がバラバラだったろ? 解放した人たちの中には地位が高い人もいたんじゃねえかな。関口さんみたいに」


 ですよねー! ですよねー! ですよねー!

 それで話を聞いたらアサシンちゃんってすぐにわかっちゃうよね!


「もうお婿に行けない!」


 すると真穂は俺の腕を引っ張る。


「しかたねえな。あたしがもらってやるって」


「うわーん! 真穂ちゃーん!」


「そこ! 猿芝居やめろ。シュウ! 妹ちゃんに電話! 真穂も歌穂に電話」


「うっす! ほら真穂」


「おう了解!」


 ハヤト先生がいないと俺たちはダメだなあ。

 こうして俺たちは日本に戻ってきた。

 異世界との因縁はこれで終わったのだろう。……たぶん?

 これから周りは騒がしくなるけど、黒田は警察にまかせておけばいい。

 そう、俺はこれから普通の人生を取り戻すのだ。

 って思うだろ?

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― 新着の感想 ―
[一言] アホはアホだからアホな行動するだろうな。 だってアホだもの。 まあ、なにもせず傍観してても首に縄がかかるのを待つだけになるだろうし破滅の未来しかなくても暴れるだろうが。 ただ、アホだけに…
[良い点] 更新乙い [一言] まぁ、国が離しちゃくれないよね……
[一言] これで容易く終わったらいいんだけどねぇ・・・ 同作者別作品の悪魔が詰み状態で暴れまわった経験からこれで終わらない気しかしない
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