終戦
その日の晩、王が殺された。
犯人は騎士。目的を果たしたらすぐに投降。
近衛ではないが見ていられなかったと自供している。
グスタフ公爵の代理という形で咲良が功績を讃えて宮殿の宝物庫にあった剣を授与した。
処罰されるリスクを冒して救いを与えたのだ。
なんたる忠臣! というわけで思考が俺たち寄りの人材を優遇する。
良いことと悪いことを例示しておくのだ。
王は消耗品として価値観の見定めに使われたのである。
そうそう、せっかく復讐を遂げたのだ。一度言ってみたかったこの台詞を。
復讐は何も生まない。(キリッ!)
※ただし復讐のついでに拉致された人々を助けたり、世界の価値観を変えようとする場合は除く。
……生んでるやん。
結局、王は消耗品として人生の幕を閉じた。
異世界人を消耗品として扱ったせいで。
因果応報って本当にあるんだね。やだ怖い。
王都の火事は結局、貴族街を焼き尽くした。
人的被害は少ない。避難誘導して良かった。
瓦礫の山と半壊した宮殿。それが今の王都である。
そのせいで俺たちも宮殿の庭でテント生活である。
今日は咲良のひい爺ちゃん、グスタフ公爵が来る日だ。
最後にいいところをかすめ取っていく。
そのゲスッっぷり、見習いたいものである。
グスタフ公爵が馬車でやって来た。
軍隊付きで。
ですよねー。ヘタしたら殺されちゃうもんね。
グスタフ公爵が馬車から降りる。
痩せこけた老人。
足どりもおぼつかない。
勲章をつけた服だけが目立っていた。
咲良は王に火をつけた玉座に腰掛けていた。
楓は脇に立っている。エルフの女王役だそうだ。
俺は騎士役&宮殿が崩れたときの救助役、名目はエルフの賢者として側に控える。
肩書きが無限増殖するの怖い!
大臣役&真の交渉担当が関口のおっさん。
ハヤトは聖職者としている。
回復魔法使えれば聖職者なんだって。この世界の常識らしい。
聖職者がいないと交渉にならないとのことだ。
文書や約束の証人は聖職者が必要。神が見てるぞー!
……裁判所が政府から独立してない世界じゃこうなるのか。社会科を実地で学ぶ。
グスタフ公爵はまず深々と頭を下げた。
「異世界の民に犠牲を強いたことを謝罪いたします」
はい殴れなくなった!
王様より能力高いじゃん!
「ひいお爺さま……」
「女王陛下。恐れながら私のことはグスタフと家名でお呼びください」
これはまずい。
咲良居残りコースが決定してしまう。
いや自由意志なんだけどできるだけ邪魔しておきたい!
「恐れながらグスタフ公爵。まだ咲良様は正式な即位前で……」
「爺さん、そりゃちょっと違うんじゃね!」
関口が言い終わる前に思いっきり口に出していた。
あ、そうか。なんだかしっくりこなかったのはこれか。
俺は激怒していたのだ。
「賢者殿。なにを仰って……」
「ああんッ!? てめえらは自分のケツも拭けねえのか!? どいつもこいつも異世界人をアテにしやがって! 咲良が何をした! なんで異世界人のために命をかけなきゃならねえんだよ!」
ブチ切れた。クズが!
どいつもこいつも異世界人をアテにしやがって!
そんな俺をハヤトが羽交い締めにする。
「落ち着けシュウ! 咲良も何か言ってくれ!」
グスタフの爺さんは下を向いていた。痛いところを突いたらしい。
俺はハヤトを振りほどこうとジタバタ。
クソ! 力が強い! 純粋な腕力じゃハヤトに敵わない。
よしこういうときは金的だ!
股に足突っ込んで、踵で玉蹴っ飛ばして、怯んだら頭つかんで頭突きして、そのまま両手の親指を目に突っ込んでから首ひねって足払いながらぶん投げて……。
「あたし残るよ」
「あん? 冗談だろ? 死ぬぞ? それにデザイナーになるんだろ!? こんな世界放って置いていいんだぜ! クソしかいないクソ世界なんて勝手に滅んでしまえ!」
咲良は「えへへ」と笑う。
「実はさ……。あたし才能ないんだ。賞もらったのだって最初だけ。みんなより早くから始めたからってだけなんだよね。いまさ、クラスの子たちにも追いつかれてさ……学校に居場所なくなっちゃったんだ。えへへ」
「お、おい待てよ咲良」
「学校やめるって言ったら成績いいからって親は相手にしてくれないし。留学したいって適当なこと言ったら本気にするし。無理っすよ、あたしの実力じゃ。だからあのときも……あたし夜遊びしてたんすよ。煮詰まって……うん嘘はやめよう。あはは、なんにも出てこないの。絵も造形も宿題すらできないんす。楽しくないからなんにもしてないの。だから自分と同じくらいのバカと遊んで安心してたの」
「でもこんな世界にいる必要ないだろ!」
「シュウ、それは違う。これはあたしにしかできない! 自分で望んで残ることにした!」
……俺が力を抜くとハヤトは俺を放した。
「わかった。楓はどうする」
「私は家に帰りたい。この世界は嫌い……」
これが正常な反応だ!
わかるか!
「四宮さんと鬼頭さんも残るって」
「ちょっと待って楓ちゃん! 俺聞いてない!」
関口が叫んだ。
鬼頭大五郎。裏方を一気に引き受ける副長である。
無口&地味。だけどいないと俺たちが困る。
俺たちがパーティー追放もののバカ勇者みたいになってきた!
「鬼頭さんがいないとクラン崩壊しちゃう!」
関口は涙目だった。
咲良はグスタフ爺さんを見る。
「ひいお爺さま。どうか私を支えてくれませんか?」
「もちろんにございます。女王陛下」
結局、グスタフ爺さんが王様になるのではなく咲良が女王に即位することが決定した。
俺の出した条件はただ一つ。
異世界人の即時解放。
「もし次に異世界人をさらおうものなら第二、第三のアサシンが現れる。俺は貴様らの不始末から生まれたのだ! ぐははははははーッ!」
と魔王風の言葉もつけ加えておく。
そして一ヵ月が経過した。
王都にやって来る少なくとも数十万人はいる人の群れ。
日本人だけじゃない。外国人も多数。外国からも拉致をしてきたようだ。
英語圏ですらない人々を確認すると俺に視線が集まる。
ですよねー! ですよねー! ですよねー!
語学アビリティ持ってる俺がやるんですよね! わかりますよ!
中国語もベトナム語もスワヒリ語も俺ならできますもんねー!
各グループのリーダーに状況を説明していく。
これだけでさらに三日かかった。(英語勢の半分は関口に押しつけた)
その三日間でさらに人々が合流。
コミケの人数は超えたんじゃないかな。
あと少しで終わる。そう思ったときだった。
馬に乗って鎧を身に纏った軍団がやって来た。
黒田の野郎だ。
日本に帰って決着つけるパートがあるからもうちょっとだけ続くんじゃ




