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領主

「御領主様に面会を」


 エルフの長が兵士に言った。


「また年貢の話か! 帰れ帰れ! 話し合う余地などない!」


 年貢を払えなければダンジョンに人を出せと言いたいのだろう。

 容易に想像できる話だ。

 感じ悪いなあ。


「勇者についてのことです。そこの商人が情報を持っております」


 すると兵士の顔色が変わる。


「ぬう、わかった」


 すぐに奥に通される。

 関口も中に入る。

 俺も地下から建物に侵入した。

 音の魔法で監視を続けるが限界だ。


「【運命の精霊よ。線の先にあるものを映せ】」


 これで関口と視界を共有。


「ではこちらへ」


 中年の執事が案内する。

 中には男がいた。

 茶色い髪でヒゲを生やした男。

 下っ腹がでっぷりしているが、肩幅も大きい。

 それなりの使い手のようだ。

 その後ろには護衛の兵士が二人立っていた。


「そこに座れ」


 横柄な口のきき方だ。

 理由もなく一回殴って反応を見たい。

 関口と長は笑顔を見せるとソファに座る。


「それで……長よ。なんの用だ?」


「暴走した勇者についての情報でございます」


「貴様らが気にすることではない。帰れ……いや待て! 貴様……異世界人か?」


 関口が「くっくっく」と笑いを噛みしめる音が聞こえた。


「ええ、日本人ですよ」


「勇者か?」


「勇者ではございません」


「ではダンジョン攻略キャンプからの脱走者か! やつらには呪いがかけられているはず! なぜ生きている!」


 次の瞬間、兵士と領主が剣を抜いた。


「薄汚いゴミが! 我が炎で焼き尽くしてくれる!」


「やめておいた方がいいかと」


 そう関口が言った瞬間、領主は呪文を詠唱しながら斬りつけた。


「【火の精れ】」


 領主が唱えようとした瞬間、刃が領主の首を通った。

 ごろんと領主の首が落ちた。

 血の描写はしないがお察し。

 数秒遅れてからんと領主の体が構えた剣を落とした。

 魔法なしでこれ。

 見事な居合である。


「すまねえ、シュウ。つい殺っちまった。後始末頼むわ」


 関口はビュッと血振りをするとつまらなそうに言った。

 嘘である。絶対嘘である。

 最初から殺すつもりだったに違いない。

 だって本気で殺さない選択をするのなら事前に根回しをしたはずだ。

 たぶん関口はなるべく自分で手を汚すつもりだろう。

 関口はそういうやつなのである。

 それに比べて領主のなんと間抜けなことか。関口に殺す理由を与え、無様に散った。

 さて、こういうとき暗殺者は何をすべきか。兵士の無力化である。


「【闇の精霊よ。発動せよ】」


 ぐらっと兵士が倒れた。

 兵士だけじゃない。

 この館のありとあらゆるものが倒れた。

 水を飲んだもの。ロウソクの近くにいたもの。食べ物を食べたもの。

 畜舎の狼やグリフォン、ありとあらゆるものが意識を失った。

 呪毒である。

 今回は意識を失うだけ。

 ダメだったら普通に戦うという二段構えだったが……思ったより効果があったようだ。

 闇の魔法のせいか燭台の明かりが一斉に消えた。

 闇の中にエルフたちが押し入り全員を縄で縛って終了。

 呪毒の知識があれば不殺も可能かも……いややめておこう。死ぬ確率が上がるだけだ。

 今回はうまくいった。けど次はわからない。

 俺は関口のいる応接間に行く。

 関口は倒れた領主のマントで刀身の血を拭いていた。

 拭かないと錆びるもんね。

 俺に気づくと関口が話しかけてくる。


「さて、これで領土を獲得した。次は?」


「なぜ疑問符……って問題出してるつもりか。ええっと、兵力を得るためにキャンプ襲撃?」


「そうだな。じゃあここはどこだ?」


「わからねえや。そういうことか……」


 キャンプの中にいた俺たちじゃ実際の地図はわからない。

 少しは知っているが、謙遜なしに少しなのである。

 俺は辺りを探る。

 製本された本は少ない。

 その代わり書類がいくつかある。

 税金関連の書類かと思ったが、土地の権利書だ。


「登記もないのによくやるわ」


 関口はそう言うとぽいっと投げる。

 そのままゴソゴソと探る。


「関口さん地図ないよ」


「地図ってのは人工衛星が開発される前は軍事機密だったんだよ。そうそうあるもんじゃないが、領主なら持ってるはずだ」


 なるほど説得力がある。

 しばらく探すと羊皮紙があった。

 酸化したインクが赤黒くなっている。


「これかな」


 それは地図だった。

 でも日本で見かける地図とは大違い。

 中学生が描いた「僕たちの街」地図レベルである。

 読みにくいことこのうえない。まったくわからん。

 地図記号や等高線、東西南北の表記がないとこうなるのか。


「うんわからん。はい、関口さん」


 俺は地図を関口に渡す。


「一年以上いて知らなかったが、この世界は三角測量の技術がないようだな。地図がいいかげんすぎる」


 関口がブツブツとつぶやく。


「そんなに高等技術だっけ?」


「お前なあ……日本でも測量士は国家資格だぞ。それ四宮に聞かれたらボコられるからな! 絶対あいつの前で言うなよ!」


 四宮は専門が建築だもんな。そりゃ怒られるわ。

 うん、余計なこと言うのはやめとこう。


「最低でも16世紀相当の技術だ。俺たちで合格レベルってなると19世紀以降か。まったく、書類見るだけでも日本で俺たちが法と技術に守られてたのがよくわかるぜ」


「魔法があるから技術が進まないのかな?」


「エルフ語できなきゃプリセットだけしか使えないだろ? そもそも現地人で魔法使えるやつが少ない。専門家の魔道士か領主レベルでようやくって感じだぞ……って、パソコンできるやつがプログラムできるわけじゃないのと同じか」


 雑談しながら関口は地図を読む。

 そしてようやく顔を上げた。


「この地図によると、キャンプより王宮に殴り込んだ方が早いな」


「ふーん、どうするんよ? 王を殺してもスペアがたくさん残ってる。咲良より上を皆殺しにすれば自動的に王になれるってわけでもねえでしょ?」


「……お前さあ、普段から賢いとこ見せとけよ。その答えが出る時点で勇者どもよりだいぶマシだろが!」


「なんで俺怒られてるの!」


「勇者どもはゲーム感覚だ。だから無邪気に咲良ちゃんより上を殺せば国を獲れると思ってやがる。俺たちはリアリスト。殺しても混乱するだけってわかってる。だから俺たちは王を殺しエルフに重鎮を断罪させる。俺たちは地球人を解放。エルフに拉致をさせないと約束させる。咲良ちゃんと楓ちゃんは日本に帰る。はい、丸く収まって終了」


「黒田は?」


「異世界にいる限り殺すしかない。逆に殺す以外の方法あるか?」


 ないわー。

 どうやってもないわー。


「黒田が日本に逃げたら?」


「日本に逃げたら警察に捕まえてもらえばいい。警察も無能じゃない。もうある程度は身元を絞ってるだろうよ。自衛隊だっている。さすがに黒田でも戦車や戦闘機には勝てないだろ? なあに一度失敗したんだ、次は最初から殺すつもりでいくだろうよ」


 確かに。

 レベル25になっても戦闘機に勝てる気はしない。

 俺のスピードだってアメフト選手くらいだろう。

 怖いから測らないけど。

 黒田がいくら強くても自衛隊には勝てないと思う。

 火力がまるで違うもんね。


「まずは王を殺すぞ。王が生きてる限り拉致はやまない。それも黒田よりも先にな」


 こうして次の目的は王を殺すことになったのだ。

 次は俺の番かな?

予定通り集英社WEB小説大賞規定の8万字到達しましたので、少しお休みします。

最大速度で8万字はさすがに疲れたッス……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 8万字もよく頑張った エライ
[良い点] 日本の技術は江戸時代からチートだからね [一言] しかし 異世界は命やすいね
[一言] お疲れ様です、気長に待ちます。
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